「神田」
「ん~」
「おまえ、この辺りの鬼の話知ってるか?」
「おに~? まだいってるの~ 蚊でしょ~ 蚊~」
「おまえこそまだ言うか。蚊じゃない。オニカなんてしらん。だいたいいるのかそんな蚊。そうじゃなくて、この辺りに伝わる民話なのか伝説なのか、人食い鬼がいたって話だよ」
「ん~ 人食いねえ~ まあ~ たしかに~ そう言えないこともないのかな~」
「知ってるんだな」
「ま~ね~」
「なんだよ。やっぱりか。ったく、オニカってなんだよ。しかもおまえ、その感じだとそれなりに詳しく知ってるんだろ」
「ま~ そうね~ 詳しいってほどじゃないけど~ 知ってるかも~」
「なんだそりゃ。まあいい。その人食い鬼ってのはなんなんだ。まさか本当に想像の産物の鬼がいたとは思わんが、現代で言うところの殺人鬼と言うか、食人鬼と言うか、人を殺して食べるような人間がいたってことなのか? それとも赤鬼や青鬼、天狗なんかは、流れ着いた外人だったなんて説もあったり、一族から棄てられた人間が山で生き残って暮らしていたなんて話もあるだろ? で、山に人間を寄せ付けないためにわざと物騒な噂を広めたりとか。そういった類の話が鬼としてこの辺りの伝説になったりしたのか?」
「案外きみってそういう話好きだったんだね~ いがい~」
意外も案山子もあるか。科学で解明出来ない謎は大好物だ。テレビの特番もかかさず見てるぞ俺は。
「僕は~ なんとも言い難いんだけど~ 鬼はね~いたんじゃないんだよね~」
神田はそこで言葉を切って俺を見た。
「いるんだよ~」
なんだと?
意味深な言葉を投げかけて数秒後、神田はなんとも気のぬけたでかい欠伸をひとつした。そして「も~ 本当に眠くなってきたから 寝るね~ おやすみ~」と、さくっと部屋を出て行ってしまった。
おい。神田。ちょっと待て。
俺の止まった思考が動き出し、神田を引きとめようとしたがもうそこには神田の姿はなかった。俺はひとり、部屋の中、謎の中、取り残されていた。
いるって。
どういうことだよ?
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