だがしかし

Hatter
Hatter

13

公開日時: 2022年3月20日(日) 18:10
文字数:796

 流れるように歩く人間たちは、俺には気付かない様子でいくつもあるドアの中に入ったり出てきたり、忙しくしていた。廊下に大きく取られた窓から見る外は、やはり真っ白でここが空っぽな空間の中だと俺は思うのに、行き交う人間たちは気付いていないようだった。俺は俺に気付かない人たちの邪魔にならないよう、ぶつからないように廊下を進んだ。しばらくすると、ある部屋の入口前の長椅子に小さな子が座っていた。

“どうしたの?”

“会いたかったんだけど、入れなかったの。だからいきばがないの”

“会えなかったの? それは困ったね”

 俺がぐるりと辺りを見回すと、向こうの方から駆け足でやってくる二人がいた。ドアを大きく開けた部屋の中には、白いベッドがいくつか並んでいるのが見える。その一つに駆け寄った人が「大至急先生を呼んで」と言っているようだった。一緒に来ていた人がやはり駆け足で部屋を出ていった。

“ここはとても騒がしいね。外は静かで空っぽだからもし良ければ一緒に来る?”

 小さな子は、小さな手で俺の手ををつかむと椅子の上に膝をついて一緒に空っぽの窓の外を見た。背後では、またバタバタと何人かの人が走ってくる気配がしていた。小さな子は、その気配に部屋の入口を振り返ったあと俺を見た。

“会える?”

“わからないけど、もしかしたら”

 俺が答えると、少し安心したような顔で “いく” と手を繋いだまま椅子を降りた。

 うんうんと頷いた俺の目の前に、あとからやって来た何人かのうちの一人が部屋に入らず立ち止まり、その男は俺と、俺と手を繋いでいる子が見えているかのように、こちらを見て立っていた。ような気がする。いつもは閉ざされているその目が今は薄っすらと開いている気がするから。

 ……なんだ。お前、意外と白衣似合うのな。作務衣の方が似合う気がするけど、馬子にも衣装というやつか……。

 ぼんやりと、目の前に立つ誰かにそんな感想をもった俺は夕暮れの街にいた。


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