──破滅回避の悪役令嬢── 転生令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

悪役令嬢×異世界転生 破滅から世界を守るため、もう一人の自分と行く異世界ファンタジー
静内
静内

第112話 真正面で、全力で

公開日時: 2022年5月25日(水) 21:18
文字数:2,060

 ラヴァルがどんな魔法を使っているのか……そう考えていると、センドラーが話かけてきた。


(見ていたけど、彼──時間そのものを増やしていたんじゃないかしら)


(どゆこと?)


(戦いを見てたんだけど、あなたがスキをついて反撃して、かわそうとしたとき──髪がなびいていなかったのよ。まるで、ゆっくりと動いているかのようにね)


(そうか……)


 流石はセンドラーだ。私とは目の付け所が誓う。

 魔力を使っている間だけ、時間を増やしている。それなら、チャンスの時に不自然な交わされ方をしたのだって納得できる。


「時間自体を増やしている。違う?」


 私の問いに、ラヴァルは高らかに笑いながら答えた。


「ハハハハハッッッ──! すげぇじゃねぇか」


「隠さないのね」


「意味ねぇからな。どのみちお前はここで負ける。さあ、行かせてもらうぜ」


 そしてラヴァルが再び突っ込んできた。

 私は、何とか防戦に徹して対応。言われてみれば確かにそうだ。


 私よりも数段素早い攻撃。けれど、彼の髪を見てみると、動きに反して、なびきが少ない。

 まるで、歩いて移動しているかのようだ。


 流石はセンドラーだ。私よりも、洞察力がずっと優れている。

 それでも、ただネタがわかっただけじゃだめだ。


 ラヴァルの攻撃を、必死に耐えていく。これを、どうにかするかまで考えなければ


 しかし、完全にかわしきれるはずもない。


 直撃こそ免れたものの、体のあちこちに擦り傷が増えていく。



(速さからして、三倍程度ね)


(ほんとに? じゃあどうやって勝てばいいのよ)


(辛抱強く、弱点を見つけるしかないわね)


 そこまで、体がもつかどうか──。


 どう立ち回っても一方的に攻撃が増えてしまう。

 余裕そうな表情のラヴァルに、苦しそうな私。


「いっけぇぇぇぇぇ」


「やっちまえ! ラヴァルさん」


 私が不利になるにつれて、周囲のヤジが増えていく。みんな、私が痛めつけられる望んでいるというのが良く分かる。


 その顔を見て、私は強気な表情になる。

 残念だけど、あなた達の思い通りになんか、させない!


「まあ、せいぜい悪あがきするんだな。いくぜぇぇ!」


 ラヴァルが向かってきた。攻撃をギリギリでうけながら言葉を返す。


「あなた達のことは、分かった。言葉だけじゃない。太刀筋で」


「何を偉そうに。わかったような顔してんだよ、気色悪い!」


「けれど、私は背負ってる。あなた達は比べ物にならないような重いものを!」


 私達立ちはだかっていた敵は、こんなもんじゃなかった。

 もっと強くて、彼らの比じゃないくらい人々を傷つけて、悲しい思いをさせていた。

 もう、相手の弱点を捜すなんて、守り続けるなんて私らしくないことはやめだ。


 ラヴァルの攻撃を無視して、思いっきり剣を振りかざす。

 相手の力に、真っ向から立ち向かう。


 相手の想いを受け止めたうえで、全力を出して殴り勝つ。それだけ。

 そして、私の剣がラヴァルの剣とぶつかり合う。小細工なんてない、力と力のぶつかり合い。


「ぐっ──」


 少しずつだけど、ラヴァルを押し返している。

 魔力が、心の底から湧いてくる。


 彼らと、街のために戦うっている使命感が、私に力をくれる。


「私は、あなた達を見捨てるつもりなんてない。それを、証明するわ」


(ちょっと、ただ正面から受けるだけじゃ勝てないわ。話を聞いて)


 センドラーが、私に指示を出してくる。流石だ、こんな強い奴と対峙しても、決して勝機を捨てない。


 けど──。


(私は、彼の攻撃を真正面から受けたい)


 その言葉にセンドラーは表情を失う。


(だって、それじゃあ彼らの気持ちを受け止められないじゃない)


(あんたねぇ……)


 私の言葉に、センドラーがあきれ果てる。

 確かに、この反応はなにもおかしくない。正しい。勝つために最善を尽くす。

 強い相手には、正面から馬鹿正直に立ち向かうのではなく攻撃をうまく受け、からめ手を使う。


 でも──。


(私はね、彼らを痛めつけるためにここに来たんじゃないの。それは、分かるわよね)


(まあね。痛めつけたところで、私達がいないところで逆上して関係ない人たちを痛めつけるのがオチでしょうね)


 だから、あなた達の痛みや、苦しみだって逃げるつもりなんてない。

 真正面から立ち向かって、打ち破ってみせる。


(──その方が、あなたらしいわ。とっても愚かだけど、一番心に届くんじゃない?)


(ありがとう。そうさせてもらうわ)


 ラヴァルの剣が私の胴体へと向かっていく。

 本気で、手加減なしで私を切り刻もうとしているのがわかる。


 それに対して私は、真正面から立ち向かう。体中に魔力をしみこませる。


 これで、直撃しても体が切り刻まれることはなくなった。痛みと、ダメージは残るけど。そして、一気に踏み込んで剣を振りかざす。逃げるつもりなんてない。彼らの攻撃を真正面から受けて、勝つ。剣に、体に──自分が今残っている


 私の全力が、ラヴァルに向かっていく。


 結果は、一瞬だった。


 大きな爆発音を上げた後、私の力がラヴァルの砲弾を打ち砕き、ラヴァルに直撃。

 そのまま後方にある壁に突き飛ばされた。


「嘘だろ……ラヴァルさんが、負けたなんて──」


「マジかよ、じゃあ俺たち、捕まんのか?」

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