──破滅回避の悪役令嬢── 転生令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

悪役令嬢×異世界転生 破滅から世界を守るため、もう一人の自分と行く異世界ファンタジー
静内
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第50話 大変な事に、なっちゃった……

公開日時: 2021年9月7日(火) 12:14
文字数:2,020

 国民という感覚がなく、結果この国の予算は自分達の物という感覚でしかないのだろう。


 そして再びフォッシュは話しかけてくる。


 こいつらだって国王の手前各亜人のためだとか言っているが、どれもこれも国から与えられた予算を自分やその側近だけで独り占めしていて、国民達は貧しい思いをしているらしい。



 何でも、建国当初は各亜人達がようやく見つけた安堵の地ということで支配層の人たちも国民達のことを考えていたのだが、月日がたちその息子たちが政務をとり始めたあたりから彼らは貴族化。ただでさえ貧しい国なのに、その富を独占してしまっているのだとか。


(──やっぱりそんな感じなのね)

(やっぱって、わかってたの?)


(薄々とね──)


 センドラーは遠目をして、彼らを見つめていた。この国の支配層の亜人達に対して、憐れんでいるような視線。


(さっき彼らが座り込んでいる姿を見て、わかったの。彼ら、どことなくこの国に帰属心を持っていないって。居眠りしていたり、周囲をにらみつけていたり……)


 考えてみれば、そうだったかもね。私はそこまでの思考にたどり着いていなかったけれど──。


 彼女の観察眼、本当にすごいものを感じるわ。


「そうそう。俺たちの支持者たちがうるさいんだ。もっと予算をもらって来いってね」


「待ってくれ、俺達だってもっと金が欲しい!!」


 言葉が共通の言葉に戻ったと思ったら今度は言い争い。お前達は優遇されているだとか、もっと俺たちを優遇しろだとか。


 それからペタンが「もうやめろ」と一括。その言葉にあたりが静まり返る。

 そしてガルフが再び話し始めた。


「もういいよ。俺達は、強引にでもバルティカの支配下に入る。だからこんな下らん会議などに縛られる必要なんてない。帰らせてもらうぞ」


「待て、話は終わっていない」


「終わった終わった。今までありがとうな。これからもお幸せに」


 そして彼らはすたすたとこの場から去っていく。ドアを必要以上に強く締め、バタンと音がすると、そいつは最後ドアを蹴っ飛ばしたのだ。

 ドアが閉まった後、この場がシーンと静まり返った。


(どうしようセンドラー、止めに行った方がいいかな?)


(気持ちはわかるけど、時間の無駄よぉ。私たちが行って、どうするのよ)


 腕を組みながらの、呆れ交じりの物言い。

 反論したいけれど、返す言葉が見当たらない




 そうだ。悔しいけど彼らの言う通りだ。

 リムランドでは争いを避けるために亜人達にもある程度の自主性が与えられている。


 そこに住んでいる部族がどの貴族の領地に入るか、誰と手を組むかは彼らが決めていいことになっている。

 そうしないと、力のある国が無理やり亜人達の土地を併合したり分離させたりすることを正当化することになってしまう。


 いくら取引があったとはいえ、私が強引にそれを止めたら私は「力でこの亜人達の自主性を阻止した」ということになってしまう。


 例えズテークたちが彼らにどんな罠を用意していたとしても──。



 私達はみんなが求めている事を後押しするのが役割なのだ。

 何でも力づくでできるというわけではない。


 彼らが望んでいないことを、強制することはできないのだ。



 その後も、会議は進行。予算の割り当てや、政府の大臣の割り振りなど。


 場が荒れ狂うこともなく、淡々とした進み。

 話を聞いていて感じたのは、このペタンという人、亜人達にとても気を使っている。


 例えば大臣のポストなんかは各亜人の割り振りが偏らないよう均等に配置しているし、予算だって、とても気を使って組んでいるのがわかる。


 最後に、同意だって得ている。


 さっきのガルフの言葉に手を上げた連中にだって、無下には扱っていない。

 フォッシュの言葉によると、亜人達の中も一枚岩ということではなく、各自が自分の利益のために動いている。


 だから手を上げたのも心から国王を嫌っているとかではなく、それが利益になっているからだという。


 国王も、変に刺激すると何が起こるかわからず、何も言えないのだとか。


 ほどなくして全国国民代表会議。通称「全国代」は終了。各亜人達はそれぞれ、この部屋を去っていく。



 とりあえず、私達もホテルに戻ろうか。


 そして私は立ち上がり、う~~んと背伸びをしたところでフォッシュが肩をたたいて話しかけてきた。



「私、この後ペタンのところに行ってます。一対一で話がしたくて──。申し訳ありませんが先に帰ってくれませんか?」



「分かった、先返ってるね」


「ありがとうございます」


 何をするのかはわからないけれど、フォッシュの表情にあきらめや焦りといったものは感じられない。


 自身に満ち溢れた、何か策があるといった表情。


 だから、彼女を信じよう。

 そしてフォッシュは、ペタンのところへと向かっていった。


 頑張れと、心の中でささやく私。


 取りあえず、私にできることはなさそう。帰ろうか。

 頑張ってね、フォッシュ。









 私は泊っていた安いホテルに帰る。

 部屋にはいっていきなりベッドにダイブし、あおむけになって囁いた。


「大変な事になっちゃった……。どうしよう」

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