「……すまなかった」
予想通りだ。まあ、ここで起こっても仕方がないし、これから変えていこう。
そんなふうに考えていると、おばさんが向こうの方をピッと指をさす。
「あいつらよ」
私達は、おばさんが指をさす方向へ視線を向けた。
その向こうには、剣や斧などを持った男たちの集団。
みんな、毛耳をしていたりしている亜人。服はボロボロ、目つきが悪く周囲の人たちが彼らのことを恐れているのがわかる。
「あいつら、いつもこう。素行が特に悪いの。暴力事件や窃盗とか犯罪行為を繰り返していて、みんな困っているのよ」
その言葉を裏付けるように男たちはいっせいに手当たり次第に周囲の店を襲い始めた。
出店を破壊し、食品や価値がありそうなものを手当たり次第に奪っていく。
抵抗する人もいたが、そう言った奴は逆に殴りつけられたりして返り討ちにあってしまう。
(あいつ、かなり腕っぷしが強いわね)
(私もそれ、思ってた)
「あれが、アイツらの親玉よ。名前は確か──ラヴァルね。」
ラヴァルか──確かに、アイツらの一番に立っているのはあいつだ。
それに、先頭だって店を襲ったりしている。
「魔法に関する才能もあって、誰も手が付けられないのよ。本当に強くて、この前なんか街の冒険者達を一人で殴り倒しちゃってね。もう誰も物を言える人がいないのよ」
頬に手を当て、困り果てた表情をしていた。そんな間にも、ラヴァルたちは店から物を略奪し続けている。
周りの人たちは、何も言えない。逆らったらどうなるのか、理解しているからだ。
取りあえず、止めなきゃ──。どんな理由があっても、暴力を肯定するわけにはいかない。
「すみません。止めに行ってきます」
「ええっ? でも彼ら暴力的で、絶対返り討ちに逢うわよ」
「大丈夫大丈夫。私だって、魔法使えますから。それにこういったことは、放っておけないですし──」
自信をもってそう返す。その通りだ。こんな、略奪をして何も罰を受けない──なんてことが続いたらみんなの考えが「じゃあ自分達もまっとうに仕事をするより奪う側に入ろう」になってしまう。
そんなことが、逢ってはならない。だから、止めなきゃいけないんだ。どれだけ相手が強くたって。
そして私は、おばさんに手を振って向かっていく。
「気を付けてね……」
逃げ惑う人たちをかぎわけて、ラヴァルの方へ。
周囲の人たちが怯えている傍らで、ラヴァルたちは悠々と商品を奪っていく。
私は、彼らの前に歩いていく。腕を組んでにらみつけながら注意しようとした瞬間斧を持った男が私の存在に気付いてガンを飛ばしてきた。
「なんだクソ女」
「貴方を、止めに来たわ!」
「うるっせぇクソ女! お前なんかに何がわかるんだよ
男が斧を振りかざして襲い掛かる。
ガシッと掴んだ。当然痛い。
「おあいにく様、私は豪華な場所に収まるほど、おとなしい人じゃないの」
けれど、もっと強い奴とだって対峙している。魔法を使い、傷を治す。こんなことくらい、どうってことない。
腕を握ったまま手を後ろに回し、完全に男を抑える。
「いででででででででっ!」
「あんたと私じゃ。踏んだ場数が違うの。相手にならないから、さっさとこんなことやめなさい。痛い目にあいたくなかったらね」
男は、腕をひねられたまま痛がって叫ぶ。私から離れようとするが、こいつに魔法を使えるような気配はない。
ならば、私から逃れるすべはない。
仲間達は、互いにきょろきょろと視線を合わせながら動揺している。そんな中、ラヴァルが何も言わずにこっちに向かってきた。
「おいおい、やってくれるじゃねぇか」
「お互い様でしょ。謝ってほしければ、あなた達も自分のしたことを認めてこの人たちに謝罪しなさい」
にらみつけるような視線。威圧感もある。それでも、私はひるまない。毅然と、睨み返す。
「さあ、みんなに迷惑をかけたんだから。早く!」
強い目つきで、言い放つとラヴァルは私をじっと見たまま何も言い返さない。
じっと睨み合ったまま、しばしの時がたつと──。
スッ──。
ラヴァルはくるりと方向を変え、この場から去って行こうとした。
「待って、逃げないで!」
逃がさない。これだけのことをしておいて、何もしないわけにはいかない。しかし──。
「うるっせぇ! お前みたいな身分の奴と、話すことなんてねぇ!」
「あんたが無くたって、こっちはいっぱいあるんだから!」
ラヴァルは右手を天にかざすと。その右手が灰色に光りはじめた。そこから出現したのは、大きな蛇のような、うねっている剣。
ラヴァルはその剣を大きく地面に向かって振りかざした。
「お前みたいな、上流育ちのクソ野郎になんて、興味がねぇんだよぉぉ!」
剣が地面に直撃すると、大きく爆発。砂埃が周囲を舞って、視界が利かなくなる。
「ゴホッゴホッ──。待ちなさい」
こいつら、これを利用して逃げる気だ。
視界が利かない中、すぐに彼らがいたところへ向うが──。
「あーっ、悔しい。逃げられた」
予想以上に逃げ足が速かったのか、ラヴァルたちはすでにそこにいなかった。
悔しくて、思わず歯ぎしりをしてしまう。
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