──破滅回避の悪役令嬢── 転生令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

悪役令嬢×異世界転生 破滅から世界を守るため、もう一人の自分と行く異世界ファンタジー
静内
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第101話 追い詰められている、理由

公開日時: 2022年4月16日(土) 19:15
文字数:2,042

 城下町へ。

 この前も行ったのだが、以前より亜人の人が多い。それだけじゃない。


(なんていうか、貧しくなったわね……)


(うん、私も感じてた)


 ちょっと、ショックを感じている。


 やはり、私がいたころと違って、どこかさびれているような雰囲気を感じる。

 建物が古びていたり、人々が来ている服が以前よりよれよれだったり──。


 街全体が、以前より貧しく、みずほらしくなったのだ──。


 そんな街を歩いていると、露店が立ち並ぶ大きな商店街へと入って行った。

 ソニータは、キョロキョロと視点が定まらずに、街のいたるところを見ている。


 ちょっと挙動不審で、どうしていいかわからない様子。

 恐らく、国民達の生活を、こうしてまじまじと見たことが無いのだろう。



 今までに体験したことがないこと、自分の思考にないことを行っていて、右往左往してしまっている。


 本来国家元首ならば、知っていなければいけないことのはずなんだけどね……。


「綺麗な服のお嬢ちゃん。いらっしゃい、ジャガイモ安いよ。どう?」


 陽気なジャガイモ売りのおばさんが、手招きして私を呼んでくる。

 ちょっと、服がよれよれ。出店も、どこか古びている。


 私の服。そこまできれいじゃないんだけどね……。


「ありがとう。行ってみましょう」


 ソニータのシャツの裾を引っ張り、露店の前に立つ。

 そして、屋台にある売り物のジャガイモを手に取る。品質は──問題ない。


 それから、そこにある値札に、思わず視線が止まった。


「あれ。これ銀貨8枚もするの?」


 理由は──その値段。

 私がいた時よりも値段が倍近く上がっている。

 ちょっと、聞いてみよう。


「おばさん、値段──以前より上がってない?」


「ああ、そうなのよ。近頃、色々な人がこの街に入ってきて、食料が足りなくなってるのよ」


 おばあさんは困った表情をしてさらに話してくる


「給料は上がらなくて、どんどん物価だけが上がって、生活が苦しくなってるわ」


「そう。何とかなるといいわね……」


「そうね……」


 そして、ジャガイモを数個購入。

 やはり、生活は苦しくなっているようだ。買って品物を渡して来るときは、ちょっと嬉しそうだった。


 そして、再び街を歩き始めた。

 歩きながら、ソニータに話しかける。


「ソニータ、あなた知ってた?」


「知るわけないだろ。城下町なんて言ったことないし──。それに、周りから街のことは聞いている。特に問題はないと、言っていた」


 その言葉にセンドラーは大きくため息をつく。すると──。


(ちょっと、変わって)


 センドラーが話しかけてきた。


(いいけど、何で?)


(あまりのひどさに、説教したくなった)


(あはは……。わかる)


 苦笑いする私。私も、ソニータに突っ込みたくなったのは事実だ。


(ほら、変わるわ)


(ありがと)

 そして私はセンドラーと交代。

 交代していきなり、呆れたような表情で言葉を返した。


「それよ」


「それって?」


「自分が守るべき街くらい、自分で知っておきなさいってこと!」


 センドラーの言葉に、ソニータはけげんな表情になり、言い返す。


「知っている。ちゃんと議会の前に書類を見たり、部下と会食で聞いている。問題はなかったし、周りの部下たちも特に問題はない。治安も大丈夫だと言ってい──」


「それよ!」


 センドラーがソニータに指をさして言い返した。


「自分の目で確かめろってこと! 貴族や役人たちは保身第一で自分達の地位のことしか考えていない。そこで悪化しているって言ってしまったら自分の評価が悪くなるから何かあっても隠そうとする。わかるでしょ!」


「言われてみれば、そうだ」


 はっとしたソニータに、センドラーが大きく息を吐く。


「ちなみに私は、毎週城下町に行って、人々の暮らしの状況、物価、治安、変化。みんな観察していたわ。もちろん、正体がわからないようにしてね」


 その言葉に目を点にして驚く。


「何で、そんな真似を──」


 ソニータは、センドラーの行動が理解できないのだろう。口を開けて、唖然とした表情でじっとセンドラーを見つめる。


「それがわからないから、あなたはこうして追い詰められているのよ」


「そうかも、しれないな」


 センドラーがソニータにピッと指をさす。


「今から言う言葉、ちゃんと心にとどめておきなさい」


「うっ……」


「どんな地位を築いた人間も、偉くなって個室にふんぞり返るようになったらおしまいよ」


「うっ……」


 ソニータは複雑そうな表情で声を漏らした。後ろめたいことでも、あるかのように──。


「周りには口の上手いゴマすりや権力欲が深い奴らばかりが集まって、窓の外で、人々がどんな生活をしているのか、知ろうともしなくなる。そうなったら、この国も政府も、あちこちがヒビだらけになって手遅れよ──」



 ソニータは、何も言わずにセンドラーの話を聞いていた。私も、彼女の言葉を、思わず聞き入ってしまう。

 それくらい、心に突き刺さるものを感じた。



「だからこの街くらいは、数字やデータ、人から聞いた言葉だけじゃなくてちゃんと自分で、目にしなさい」


「……わかったわ」


 ソニータが、コクリと頷く。少しは、わかったのだろうか。

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