ちょっとカチンと来て、大の机を思いっきり叩いて叫ぶ。
「先日、住宅街での出来事、わからないわけないわよね。ハーゲンの家の近くで、魔獣が現れたの。こいつ、こいつ!!」
私はハーゲンに向かって指をさし、懸命に叫ぶ。
しかしハーゲンは「あ?」とでも言いたげな、開き直った表情で反論。
「そんなこと、知らないな。愚民の誰かが召喚をしたんだろう? 俺たちは関係ない」
こいつら、しらを切らして開き直る気だ。予想はしていたけど……。
他にも、こいつに言いたいことはある──。
「それに、あんたが担当している商会や商人の記録がごっそり消えているの。どこにやったの?」
そう、先日からハーゲンが担当している商会の記録が意図的になくなっていることだ。
「知らねぇよ。何でたらめ言ってるんだよ。この嘘つき女!! お前の管理が悪いんじゃないのかよ!!」
「はぁっ? あの書類私の管理担当じゃないし。それに、あんたやその部下が担当しているところの書類だけは欠損しているのよ。今からでもいいわ。見て見なさいよ!」
「ああん? だったら証拠を見せてみろよぉォォ。俺がやったという確固たる証拠が
よぉ!! 証拠証拠証拠ォォォォォォォォォォォォ──」
ハーゲンはバンバンバンバンと机をたたきながら私に言い返してくる。こいつめ……、予想以上の開き直り。私が思わず黙ってしまう。
周囲の人たちも、言葉を失っている。
そしてセンドラーは一息ため息をついてあきれ果てた。
(もう、救いようがないわねぇ。わたしに変わりなさい)
(──そうね、わかったわ)
ようやくの、主役のお出ましだ。
最初の約束通り私はすぐにセンドラーと人格を交代。この完全アウェーの議会。ようやく解放されたかと思うと気持ちが安心する。
こういう、何があっても開き直るようなやつには、センドラーの方がうまくやれると思う。
センドラーの後ろで、彼女がどんな手で逆転を果たすのかを見る。
正直、逆転はかなり厳しい気がする。
ライナも、それを理解しているようで険しい表情になっている。
しかし、センドラーの表情に迷いや、ネガティブになっているような様子はない。
自信満々の、勝ち誇ったような表情。それに、彼女ならどんな苦しい状況でもやれる気がする。
(随分自信満々じゃない。何か逆転の策でもあるの?)
(ええ。ハッタリだけどぉ。それに、この状況でしけた面するわけにはいかないもの。相手にこれ以上返す言葉がないんですって、白旗を上げているようなものだもの。それにあんたが感情的に怒ったおかげで、ハーゲンの心に慢心ができたの。勝ったという)
(……そのために私を最初に出したの?)
(そうよぉ。最初っから理詰めで追い詰めるよりも、一回勝ったと思わせてからの方が、相手を動揺させられるわぁ。悪かった?)
(ううん? したたかですごいと思ったわ)
(ありがとう。じゃあ、行ってくるわ)
そして私はセンドラーと交代。彼女を見て、素直にすごいと感じる。私の性格や自分の表情まで計算に入れて、勝利のために全力を尽くすところ、流石だとしか言いようがない。
私にそんな事はできない。感情的で、自分の気持ちを隠すのは苦手だから。
センドラーの、そういう所はうらやましいと感じる。
そしてセンドラーはハーゲンをじっと睨みつけた。
「な、な、何だよ。開き直りか?」
「いいえ。見当がついただけよ、書類の隠し場所がねぇ」
「な、なんだよ。証拠でもあるのかよ!!」
その言葉にセンドラー、にやりと笑う。そして周囲の議員さんたちに視線を回した後、彼らに向かって叫ぶようにしゃべり始めた。
「ないわ。けれど、こいつの性格から、こいつが見られたくないものをどう扱うかは大方予想あつくわぁ」
ヤジを飛ばしていた議員の人たちは、センドラーの言葉にたまりこみ、彼女の言葉だけがこの部屋にこだましていく。
「まず一つ目。絶対に知られたくないもの。それを隠すとき、大体こう考えるのよぉ。『どうすれば相手が気が付かない場所』って。けどね、それって、合わせ鏡の様なものなのよぉ。 相手の考えを読もうとしたつもりが、自分の思考回路を追ってしまうだけになってしまうわぁ。そう、常日頃から政局争いをして、誰かをハメ落とそうという自分の思考回路をね」
腕を組んで、自信満々な態度。それが、彼女の言葉の説得力をさらに上げてっている。
「二つ目、そしてそれは、自分もそうなるかもしれないという強迫観念に変わっていくのよ。特に、猜疑心の塊みたいなやつにはなおさらね。エンゲルスもハイドも、心から信頼などできるはずもない。所詮は利害でつながった中、今は同盟を組んでいてもいつ敵扱いされるかわからない。そんな奴らを、心から信頼できるわけがなく。あんたは心を閉じ、自分の身を守ることだけを考えている」
さっきより、ハーゲンが表情を失ってきているのがわかる。これなら、行けるかもしれない。
あと一押し。そして一歩一歩ゆっくりとハーゲンに向かって歩いていく。
「三つ目。そんな状態であんたは大事な書類を隠さなければならなくなった。それもバレたら終わりの超危ない書類をね。
一番思いつくのは、誰もいない状態で、どこかに隠せばいいことでしょうけれど、私や、エンゲルスたちの取り巻きが隠れて見張りがいる可能性だって十分にある。少なくても、あんたの脳裏は、そのことに対する疑念が晴れることはない」
「で、でたらめだ。黙れ!!」
「結局ねぇ、誰にも気づかれないようにものを隠すのって、完全には不可能なのよぉ。どれだけ完璧な場所を見つけても、自分の猜疑心が『見られているかもしれない』という強迫観念を生み出してしまう。
だから、絶対に見せたくない書類。それを隠すのに一番こいつが考えそうなところは、あそこしかないわぁ」
そしてセンドラーはハーゲンの机の列に移動。彼の椅子のそばにあるカバンを指さした。
「さあそのかばんを開けさせなさい。早く!!」
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