──破滅回避の悪役令嬢── 転生令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

悪役令嬢×異世界転生 破滅から世界を守るため、もう一人の自分と行く異世界ファンタジー
静内
静内

第102話 色々な声

公開日時: 2022年4月20日(水) 21:17
文字数:2,056

 それからも、街の人の声を聴いた。


 老若男女問わず、色々な人から。私が気さくに話しかけると、みんなしっかり本音を話してくれた。みんなが、この街に対してどう思っているか、しっかりと聞けて、嬉しい気持ちになる。

 もちろん、耳障りのいい話ばかりではない。


 私達に対する、厳しい言葉もあった。しっかり受け入れて、ちゃんと答えていこう。

 それから、聞いている中で分かったこともある。


「あいつら、俺達がやっている仕事を奪ってるって仲間内じゃ悪評立ってるぜ」


「やっぱり、そうなんですか──。みんな言ってましたね」


「だろ! 雇ってるやつも、アイツらの方が賃金が安いからって、みんなあっちに行っちまってよ。困りもんだぜ」


 古びた服を着ている若い人が、愚痴る。


 元からリムランドに住んでいた、若くて貧しそうな人が良く言っていた。


 街に入ってきた亜人の人に、仕事を奪われていると感じているのだ。



 彼らは、貧しい地域から来たがゆえに、低い賃金でも仕事をこなす。

 亜人の人たちと一緒の賃金だと、まともに生活できない。


 貧しそうな男の人はけげんな表情で答える。


「本当に亜人達のせいだ。あいつらのせいで仕事はなくなるし、治安は最悪、どうしてくれるんだこれ」


「そうね、大変だわね」


 街を歩きながら、センドラーが話しかけてくる。


(まずいわね……。失業者があふれると、それだけ治安が悪くなるの)


(確かに、それに増えた亜人たちを見て彼らのせいで自分たちが仕事を奪われたと思ってるのもまずいわ)


 深刻な表情で考えこむ。なぜならそれは、亜人達への暴力という形で必ず現れるからだ。


(急激に増えた人口に、就労率や社会福祉の整備が届いていないのよ。だから、職を奪われたり、スラム街ができたりして貧しい人がたくさんできてしまっているの)


(なるほどね……)


 まず一つ、課題が見えて来た。

 この人たちが安心して暮らせるように、何とかしないと──。


 それから街を探索していると──。


「何、あれ──」


 前方にある光景に思わず声を漏らす。


「何で、人がたかっているんだ?」


 ソニータの言葉通り、大通りにもかかわらずたくさんの人が立ち止まって道の先に視線を置いている。


 何かあったのか私達も足を運ぶ。何かあったのは間違いないだろう。

 街のことを知る、手掛かりになればいいんだけど──。


 人だかりの一番後ろにいるおばさんの肩をトントンと叩く。


「おばさん、何があったんですか?」


 おばさんは困ったような表情をして答えた。


「喫茶店に、立てこもりですって」


 その言葉に思わずぎょっとする。


「本当に? 何があったの?」


「わからないわ。斧を持ってて危なっかしくて──近寄りたくないし」


 困った表情をしているおばさん。

 それなら、仕方がないか……。


 すると、誰かが私の肩を優しく叩く。


 振り返ると──ソニータがいた。肩が震え、怖がっているのがわかる。


「何?」


「危ないから、引いた方が良くないか?」


 その言葉に、思わず呆れそうになる。


(こんなんだから、人望が無いのよ)


 センドラーの言葉通りだ。私達は怖かったら逃げ出して、裕福な世界で閉じこもれるけど、ここに住んでいる人たちはそうもいかない。


「引かない。行く」


「正気で、行ってるのか?」


 自信満々の表情で、きっぱりと言い放つ。


「行かなきゃだめよ。そうやって、王国の現状から逃げてばかりだから、今があるんでしょ?」


 私の呼びかけに、ソニータは反論できずに黙りこくってしまった。


「大丈夫。何かあったら、私が守ってあげるから!」


 そう言って、親指を立てた。大丈夫、この位の危険の一つや二つ、よくあることだった。

 自信を持った物言いに、ソニータの表情がはっとなる。


「だから行こう!」


 その言葉に、ソニータは覚悟を決めたのか、コクリとうなづいた。


「約束だぞ──」


「そうこなくっちゃ」


 そして、私達3人は人ごみをかき分けつつ立てこもりがある方向へと進んでいった。

 もぞもぞと、野次馬達の中をゆっくりと進んでいく。


 しばらくすると、人ごみの中を抜ける。


「ぶはっ!」


 流石に、人が多すぎてちょっと苦しかった

 そして、前方へと視線を向けると──。


「オラオラオラオラオラァァァァァァァァッッッ!」


 数十メートル先の喫茶店、中には立てこもりらしき男の人。


 つり上がった、人相が悪そうな眼付き。

 若くて筋肉質で、背は私と同じくらいの長身。


 服が、薄れていてボロボロ。貧しい暮らしをしていたというのが良く分かる。


 隣には、ひらひらの服を着た女の人。その女の人の肩を掴んで、時折剣を頬に突き立てる。

 恐らく人質だろう。


「オラオラオラオラァァァァァァッッッッ!! この女を助けて欲しかったら金貨100枚。よこせぇぇぇぇ!」


 大きな鈍色の斧を振り回したりして威嚇しながら、大声で怒鳴る。金貨100枚。リムランドとはいえ大金だ。


 私の、元の世界で換算すると100万はあるだろう。

 そして、ブンブン斧を振り回している姿を見て一つの考えが浮かぶ。恐らく、センドラーも同じ考えをしているだろう。


(ねえセンドラー)


(何?)


(あんなちゃっちい剣で脅して、本当に国王様の所に行けると思う?)

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