──破滅回避の悪役令嬢── 転生令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

悪役令嬢×異世界転生 破滅から世界を守るため、もう一人の自分と行く異世界ファンタジー
静内
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第52話 あなたなら、出来る!

公開日時: 2021年9月14日(火) 19:18
文字数:2,055

 朝、目が覚めると、すでにフォッシュは帰ってきていた。

 どこかしょんぼりとした態度。顔を両手で覆い、かなり落ち込んでいるのがわかる。何があったのか聞いてみたら、えらいことになっているというのがわかった。


「ああ……励ますつもりが逆になっちゃったのね……」


「はい」


「あらら……」


 私はシャワーを浴びた後、部屋にある椅子に腰かけ、フォッシュの言葉を聞く。


 ペタンだっけ。オオカミの奴らに裏切られたのがきかっけで疑心暗鬼になっちゃったみたいね。

 そのせいで自分にやってきた人がみんな敵に見えてしまっているのだろう。


 それは、かつて友達だったフォッシュであっても例外ではない。


 完全に人間不信になっちゃってるパターンだこれ。

 私が変に首突っ込んだら逆効果間違いなし。う~~ん、どうしたもんかねぇ。


(多分、こういうことは私がやるよりあんたがやった方がいいとおもうわぁ)

 確かに。でも、これは私だってきつそう。


 私はベッドに座り込み、腕を組んで考えこむ。


(どうしたもんかねぇ。わかる?)


(それが理解できる性格なら、そもそもこんな場所にいないでしょう?)


(ははは……それもそうよね)


 センドラーの皮肉に、私は思わず苦笑い。


(まあ、あんたが思ったことを、そのまま言ってみればいいんじゃない? 変に考えこむより、あんたはそっちの方が似合っていると思うわ)


(──それも、一理あるわね)


 考えこんでも、気の利いた答えなんて全然出てこない。かといってこのまま何も話さないのも気まずいし──。



 そうしよう。私は拳をぎゅっと握って決めた。

 私はフォッシュの肩に優しく手を置く。


「フォッシュ──」


「な、何でしょうか……」


「思い出しなさい。彼との、今まで事を」


「今までの……」




「そう、今までの。今まであなたとペタンのこと。互いに何を考えて行動しているか。それを全部思い出して──」


 そしてフォッシュはしばらくの間額に手を当て考えこみ──。



 私はにこっと笑みを浮かべた後、フォッシュの肩にポンと手を置いた。


「何度断られたって、想いを伝え続けなさい。断られたって、なんて言われたって!」



 最後にさらに気持ちを強く込め、言い放った。


「大丈夫。あなたの想いは、きっとペタンに伝わるから。だから、あきらめないで」


 そう言って私は、もう一回自信満々の笑顔を向けた。

 正直、こんなことでうまくいく自信なんてない。けれど、こんな落ち込んでいる状況で、フォッシュがうまくいくとは思えない。


 フォッシュは一度大きく息を吐いた後、フッと安堵の表情になる。


「そうですね。あきらめるなんて、らしくないですね。ありがとうございます。」


「そうそう、あきらめんるなんて、フォッシュらしくない。もっと自信を持って。あなたならできる。いつも見ている私ならわかる!」


「伝えます。断られたって、何度でも──」


「そ、そう──」


 さっきとは違い、強気な口調。少しは、自信を取り戻してくれたかな?


「ありがとうございました。私、センドラー様のおかげで自信が持てました。私、絶対に振り向いてもらえるように頑張ります!」


 フォッシュは拳を強く握って、言葉を返す。


 さっきまでの迷いはもうない、強気で自身に満ち溢れた表情。

 私はコクリとうなづいた後、フォッシュの両手をぎゅっとつかんだ。


「頑張って、あなたならきっとできるわ。応援してるから、力になるから──」




 フォッシュはしばらくの間、私のことをじっと見てはっとしていた。

 そして一つため息をついて、さらに話しかける。


「なんていうか、わからせられるんですよね。自分の限界というのを──」


 そして机に肘をついた後。手を組んでため息をついた。視線は、下を向いて、どこか自信を失っているような表情。

 私は、ここ最近のフォッシュの働きぶりを見ていたから、その言葉の重みがよく理解できる。


 真面目で、仕事ぶりは優秀だしマナーや周囲の人辺りもいい。


 しかし、ラストピアではまずリムランドから来た人たちが出世する傾向がある。

 そのほうが、リムランドとのつながりも太くなるし、すでにリムランド組が多い政府の人たちからすれば、大きな派閥になり、自分のやりたい政策を通しやすくなるからだ。


 対するフォッシュのような亜人であったり、偏狭な地域出身の人物はプロパー組と呼ばれ、いくら成果をだしても出世は難しい。


 私は、ラストピアで彼女の行いを見てきた。優秀で、強い正義感から絶対に不正はしない。この国を背負うのにふさわしい存在だ。


「ごめんね……」


「いえいえ、センドラー様が謝ることではないですよ」


 フォッシュは両手をあわあわと振って否定した。


「いやいや、ラストピアの人間として言ってるの。そういう決まりがあるなら、すぐに変えなきゃいけないのに、私は何もできていない。待っていて、あなたのような人が、救われる。そんな国づくりを、必ずして見せるから、だから私に任せて」


 そう言って私はフォッシュの両手をぎゅっと握る。

 フォッシュは、その行動にはっとして表情を失う。


 そしてすぐに我に返ると、フッと微笑を浮かべ、言葉を返した。


「──ありがとうございます」

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