──破滅回避の悪役令嬢── 転生令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

悪役令嬢×異世界転生 破滅から世界を守るため、もう一人の自分と行く異世界ファンタジー
静内
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第69話 あえて、呼ばなかった理由

公開日時: 2021年11月12日(金) 22:02
文字数:2,214

 そう言ってセンドラーはうさ耳をした亜人の男に指をさす。

 重要な家臣の一人、彼は少し考えた後、指を鳴らして答える。


「そうだね、粛清だね!」


 センドラーの額に手を当て、残念そうな表情で言葉を返す。


「なわけないでしょう。そんなことしたら、相手だって必死に抵抗するし、泥沼の戦いになるわ。もっといい方法があるの。適当な領地を奪わせて、そこをすみかにさせるの。うまく統治が進めば自分たちの勢力が広がるし、うまくいかず倒されたとしても無駄飯ぐらいが消えたと考えることができる。おまけに素行が悪くて人々に危害を加えたとしても、自国民ではないから何の問題もない。彼らにとってはいいことづくめなの」


 その言葉に再びこの場が静まり返る。確かに、私達の元にはそういった情報が入ってきている。

 亜人達が不当な扱いを受けている事。


 そして他の人が手を上げ、発言した。


「それで、そいつらをどうするんですか?」



「必ずバルティカの兵士たちは原住民たちに悪さをする。それを捕らえて、彼らの悪行を国中に広げる。そして、国民達が危害を受けている事をアピールして問題に火をつける。うまくいけば、彼らの保護を理由に戦いに持ち込めるかもしれない。まあ、相手の出方次第で私が判断するわ」


 センドラーの言葉にこの場がシーンとなる。

 鉱山のことが国全体の問題になっていて、何とかしなければいけないという想いが強い。


 みんな、左右の人と顔を合わせた後、納得の意思を送ってくれた。


「わかった。リスクはあるけれど、他に策がないというのも事実だ。兵士の方も、何とか手配しておく」


「ありがとうございます。大切に、扱うわ」



 そして、兵士の供給や細かい打ち合わせなどを行うのだが、そこでも軽くもめてしまった。

 負担率や待遇などで──。


「おい、獣人たちは人口が多いんだろ。だからもっと負担してくれよ」


「待ってくれ、お前のところの方が税収は多いだろ」


「待って、ケンカしない!」


 センドラーが慌てて待ったをかける。

 更にセンドラーがそれについて調整をしようとすると、うさ耳をした亜人の人が勝手に歌を歌い始めた。


 私達ではわからない言葉で──。


「ちょっと、どんな歌を歌ってるの?」


 センドラーはピキッとイラつきながら作り笑いをして問い詰めるが、彼らは歌をやめない。

 すると、獣人の人が話しかけてくる。


「あいつら、たまにやるんだよ。誰にもわからない歌で、突然歌い始める。以前聞いたら、自由や抵抗についての歌なんだってよ」


「あっそう。もう──、終わったら、話し続けるわ」



 センドラーは額に手を当てあきれ果ててしまった。

 私も、身が笑いでため息をついた。なんていうか、フリーダムね……。

 けれど、いつも政争争いそしていたり、ギスギスした空気で罵倒をし合ったり、怒鳴りあったりするよりはずっといいと思う。


 多分、この国はいろいろなところから難民となって逃げてきた亜人達の寄せ集め。だからまとまりに欠けてしまっているのだろう。

 だから利益のために他の国に裏切ったり、こんなことになってしまっているのだろう。


 まあ、これからうまくやっていきたい。


 そして彼らは歌を終え、ご機嫌そうな表情で再び席に着いた。


「──じゃあ、お遊戯はいいわね」


 それからも、話し合いは続いた。みんなの話を聞いたり、みんなの意見を調整したり。

 みんなの意見を調整する場面では、私が出た場面もあった。

 センドラーだと、正論を突き付けて衝突してしまう可能性があるからだ。



 そして、長い時間をかけて話をまとめ、この場は終了となる。




 そしてセンドラーも、この場を立ち去り部屋を出た。

 部屋を出てやや古びている赤絨毯の道を奥へ行く。


 奥にあるとある部屋の前で立ち止まり、ノックをして部屋に入った。


「センドラー。どうだった?」


 さっきの大広間と比べると手狭な部屋。

 色々な書類や本が置かれている戸棚の奥に、事務用の大きな机。


 私と向かい合うように、ペタンが腕を組んで椅子に座っていた。隣には、フォッシュがかしこまって立っている。


「成功よ。協力してくれるって」


 センドラーがニヤリと笑みを浮かべ、言葉を返す。


「それは良かった」


 そう言ってペタンが一息つく。すると、フォッシュが質問してきた。


「よろしいですか?」


「いいけどぉ、何?」


「どうして、ペタンをあの場に呼ばなかったんですか?」


「俺も聞こうと思っていた。あの場に来ないでって、どういうことだ?」


 自分をあの場に呼ばなかったことが、やはり気になるらしい。不思議そうに質問する。私も、それは思った。


 当然だ。あくまでこの国の最高権威はペタンなのだから、その彼をあえてあの場から遠ざけるように言ったのは他ならぬセンドラーだ。

 相応の理由があるのだろう。

 あの時、あえてペタンを呼ばなかった理由。


 センドラーは腕を組んで、しかめた表情で答えた。



「まだ、彼らがこの作戦をどう受け止めるか、わからないからよ」


「どういうことだ?」


「あの作戦を、彼らがどうとらえるか予想ができなかったってこと。マリスネスの奴らが確実に悪さをしている。だからそれを追い出して、危機感をアピールする。

 それって、ともすれば、苦しんでいる民を人気取りのために利用するというふうにも捕らえられてしまうの。そうすると、その批判はおのずとペタン、あなたに向かってしまう。けれど、それでは絶対にダメなの」


 その言葉にこの場にいる全員がはっとした表情になる。

 亜人達の顰蹙を買うことを避けるため、あえてペタンを遠ざけたってことか。

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