「後光効果よ──」
センドラーが周囲に聞こええるようにつぶやいた。
「それは、何でしょうか」
「後ろから光を浴びている人物はね、どことなく大物に見えるということよ、フォッシュ」
その言葉に周囲の人たちが一斉に驚き始める。
「そ、そこまで考えていたんですか?」
「当然よ。どんな手を使たって、ここにいる人たちの胸に届けなきゃ。私達の主張と、声を──。だから時間もわざわざ夕方に設定したの」
「何か、狙いでもあるんですか? センドラー様」
ライナが首をかしげると、センドラーは周囲に視線を配りながら自信に満ちた表情で答える。
「心理学よ。夕焼けっていうのはね、無意識に人を不安にさせる効果を持っているの。
おまけに時間帯の関係で仕事やクエスト帰りで疲れ切っている人が多い。
そういう時は、心が不安定になったり、理性が働きにくくなったりして人の言葉を信じてしまう可能性が他の時間よりも高いの」
「センドラー様、そこまで考えているんですね」
ライナはその言葉にただ驚くばかりだ。周囲もキョロキョロと顔を合わせて賞賛の表情をしている。
「すごい」「さすがセンドラー様」などという称賛の声が上がった。
しかし、その中で疑問を持っている人が一人。
「よろしいですか? センドラー様」
「何? フォッシュ」
フォッシュは周囲をキョロキョロと見ながら言いずらそうにして言葉を返す。
「あの──なんていうか、言いずらいんですけどそれって彼らの心理の穴をつくってことですよね」
「まあ、言い方によってはそうなってしまうわね」
「なんていうか、もやもやします。駆け引きや技術ばかりで、あの人たちへの想いってのがもう少しあってもいいかと……」
ある意味では正論だ。周囲の兵士たちもフォッシュに視線を向けていることからも、彼らも心のどこかでそれを感じていたのだろう。
「それは自覚がある。だけど、他に方法なんてないし……」
センドラーも口をごもらせてしまった。
確かに、センドラーはすごい。ただ訴えかけるだけじゃなくって、言葉の意味だったり、場所、時間、技術的な所。周囲が賞賛するのも当然だし、私も素晴らしいと思ってる。
けれど、私はフォッシュの言っていることも良く分かる。けれど、相手に伝えなきゃいけない。それがでいなければこの人たちは救われないし、それができなければただのきれいごとだ。
センドラーの案より、私らしく、周囲の人たちへ良く伝わる──。
私らしく……。
そうだ!
一つだけ、面白そうな案がひらめき、ポンと手を叩く。
(センドラー、ちょっといい?)
(何?)
(わたしに変わって。いいアイデア、見つけちゃった。センドラーの案を、私なりに改良した奴)
そして私はその考えをセンドラーに伝えた。
センドラーは頭を押さえて、表情を隠しながら言葉を返す。
(悪くはないけど、出来るの?)
(大丈夫、何かあったら変わるから!)
私は親指を立て、自信をもって言葉を返した。
(わかった、よろしくね。その代わり、演説はあなたがやってもらうことになるけど)
(はいはい。わかったわ)
(簡単に言うけど、日の光を浴びてやるのよ。顔をしかめたり、細めたりしたら台無しよ。絶対イメージが悪くなるわ、本当に、わかって言ってるの?)
そ、そうだった……。西日を直接浴びるんだ。
(わかってなかったでしょ)
私はこくりとうなづく。
けど、そのあと作り笑いをして、言葉を返す。
(大丈夫、絶対成功させる)
(──そう。信じてるわ)
ちょっと誤算はあったけれど、私の意見を飲んでくれた。後は、私が演説を成功させるだけだ。
みんなが私の力になってくれている。それを見て、頑張らなきゃという気持ちになる。
がんばれ、私──。
その後、私とライナ、フォッシュとどんな事を話すかをよく話し合った。
「やっぱり表情です。人々に希望を見せるような物でなくてはなりません」
「──そうね」
後は、言葉選びとか。どうすれば、この村の人たちの心に届くのか、言葉使いや表情、それだけでなく語尾や口調に至るまで細かく。
やはり、強く訴えかけるよりも、優しく語り掛けて「みんなで歩んでいこう」というような物言いがいいらしい。
(確かに、そっちの方が秋乃には合ってるかもね)
そうかもね……。二人の言葉は、本当に役立つ。
ありがとう。私、この想い、絶対に無駄にしないから!
そして、次の日の夕方前。私たちは昨日来た広場に再び集まる。
村人たちの姿はまばら。
「みんな、もっと私のところによって」
「わかったよ」
ロッソさんがうなづくと、散らばっていた兵士の人たちが肩が当たるくらい密集してきた。
これは、私たちの作戦だ。
まず、話すにあたって、作戦を立てている。
強制的に一方的に集めて話すより、村人たちが自分の意志で話を聞くようにしてもらうほうが、より話を聞いてもらえると、私は踏んでいた。
しかし、こんな広い場所で一人でしゃべっていても周りの人は変な人がいるとしか思わず足を止めてなどくれないだろう。
だからライナや連れてきた兵士の人たちが私を取り囲むように立っている。
村の人たちは、人々が群がっているのを見て何があるのかと、歩く足を止め、そこに入る。
そして、私の話を聞いている人が多くなると、取り囲んでいた兵士たちはスッとこの場から去っていく。
気が付けば私の話を聞いているのは足を止めた村の人だけになっているとのことだ。
そして、演説をしている場所。それは一言で言うと、センドラーが言った場所の逆。
そう、センドラーが提案した位置と、真逆に値する位置。東側に立ったのだ。
狙いはもちろん、当たった。
演説をしているセンドラーの顔。
それはもう、私でも惚れぼれしちゃうくら──ってセンドラーが演説をしながら話しかけてきた。
(ちょっと、一回変わりましょう。演説の言葉、大丈夫ね!)
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