彼らの全力を受け止めて、勝負に勝つこと。
それだけだ──。
「おお。安っぽい説教の一つでも、飛んでくると思ったんだがな」
「それでやめてくれるんなら、そうするけど?」
「冗談だろ」
ラヴァルはボソッとつぶやく。もちろん、それで済むなんて思っていない。
例え痛みを追っても、彼らと真正面から向き合う。
絶対に、逃げたりなんかしない!
「だから、あなたと闘う。戦って、やめさせる」
「お前、思ったより話が通じるな」
再び、ラヴァルは右手をかざすとその手に剣が現れた。
「ただし、手加減してもらえると思ったら大間違いだ」
そう言って、わたしに剣を突き付けてきた。
まるで蛇のように、うねる見たことが無いタイプの剣。
剣は灰色に光りはじめた。その魔力も、今までにないくらい強力なもの。
相当な実力者だと思われる。
強い魔力のオーラから。思わず一歩引いてしまう。
それを見たラヴァルが、舌を舐めずりして行ってくる。
「どうした? 俺様の力にビビッて、帰りたくなっちまったのかぁ?」
「んなわけないでしょう。戦うに決まってるじゃない! さあ、戦うわ」
当然だ。いくら強い敵だからといっても、悪いことをしている以上、逃げるわけにはいかない。
そして、私とラヴァルが互いににらみ合う。にらみ合って分かった。
(スキが、全くない。)
センドラーが漏らした言葉通りだ。どこから向かっていいのか全く分からない。
どう攻めても、手詰まりになるのが目に見えている。
(こいつ、かなり戦闘慣れしているわね。下手に手を出したら返り討ちよ)
確かにそうだ。しかし、いつまでも手をこまねいているわけにはいかない。
「おいおいどうした? 戦うんじゃねぇのかよ」
「そうだそうだ。ビビってんのかよ!」
「へっぴり腰。どうせ逃げ出すんだろ?」
周囲のヤジや挑発。
ちょっとピキッと来た。
それに、このまま何もしないで手をこまねいているなら、たとえ罠だとわかっていても、無茶を承知で、突っ込む!
そうすれば、何か糸口をつかめるかもしれない。逃げていても、何も切り開けない。
そして一気に距離を詰める。
ラヴァルもそれに応じたのか、こっちに向かってきた。
互いに全力で力を出し合い、殴り合う。
ガードなんてしない。
この戦いは、意地と意地、想いと想いのすれ違い。
受けに回った方が、気持ちが負けたほうが敗北する。
そんな気がした。でも、それだけじゃない。
(それが彼らの叫びなら、受け止めなきゃ。正面から)
(あなたらしいわ。そういう所、好きよ)
(あ、ありがと……)
センドラーのまさかの告白に、ぎょっとする。
簡単なことだ。私の仕事は、国のために人々の言葉や声を聴いて、彼らのために尽くすこと。
だから、ここにいる人の声だって、聞かなきゃいけない。
それが彼らの想いなのだから。
それも、耳で聞くだけじゃなくて、本音で──ぶつかり合って!
そして、私はラヴァルに立ち向かっていく。
何度か、互いの剣がぶつかり合う。ぶつかり合って、彼の強さが良く分かった。
強さ自体は、それほどでもない。
基礎など、まるでなっていない。よく言えば粗削り、
獣そのもの。力任せで粗だらけ、スキだらけ。雑な攻撃。
基本的な剣の使い方も心得ていないのだろう。腕力だけで振るわれる攻撃。切るというより叩きつけると言った攻撃に近い。
しかし──。
「なにこれ?」
連続で攻撃を受けた腕が軋む。
(まともに受けていたら、腕がちぎれるわよこれ)」
センドラーの言う通り、パワーが桁違いだ。
続けざまに攻撃を受けた剣が、悲鳴を上げるように軋む。
悲鳴を上げるかの如く剣を支えている両腕が痛みを上げ、全身を衝撃が突き抜けた。
本能のまま、感情のままに振るわれる剣。
「いけいけぇぇぇラヴァルさん!」
「そんな奴。早く八つ裂きにしちまえぇぇぇ!」
防戦一方で、周囲からも茶化すようなヤジが飛んでくる。
でも、これなら勝ち目はある。そういった攻撃は、必ずどこかで隙ができる。
諦めずに対応して、それを手繰り寄せることが、この戦いの肝だ。
5回ほど大ぶりな攻撃を何度かしのぎ切ってから、軽やかに後ろにステップを踏んで、なぎ払われたラヴァルの攻撃をかわす。
スパッ──。
ギリギリの回避。ほっぺに切り傷ができてうっすらと血がにじむ。
体を回転させてなぎ払われたがゆえに、ラヴァルの胴体が無防備になった。
行ける!
剣がほっぺにかすれるくらいギリギリで回避するくらい近づいたのは、無防備となったラヴァルにカウンターを入れるため。
強力なパワーの攻撃をかいくぐった後のチャンス。一気に飛び込み、切りかかる。
行ける──そう思った矢先……。
「うそっ」
思わず声が漏れる。手に返ってきたのは、鉄の感触。
蛇のような刀身が、スキができたはずのタイミングで打ち込んだ攻撃を受け止めたのだ。
「いいねぇ。やるじゃねぇか」
余裕そうに、にやりと舌を出して笑うラヴァル。
おかしい、あの後ろに身体が向いたタイミングで一気に正面へ体制を変え、攻撃を受けるのは人間では不可能だ。
何があったのか──。
だが、考え込んでいる余裕なんてない。
「どうしたぁ? ビビってんなら、こっちから行かせてもらうぜぇぇ!」
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