出発前日。
荷支度を終えた夜。夜空を見ながら部屋でコーヒーを飲んでいた時の事。
コンコンと誰かが扉をノックしてきた。
「入って。どうしたの?」
入ってきたのはペタンとだった。
「どうしたの? そんな書類の束を──」
話を聞くと、ただカルノのところに行くより、いくらか証拠などを突き付けた方がいいと、マリスネス内でいろいろ資料を捜して見つけたらしい。
「俺も彼らのことは知っている。調査団にカルノが入ったことを知って、調べてみたんだが、不審な点があった」
その言葉を聞いてペタンに視線を向けた。
ライナもやってくる。
「教えて」
「これが資料を持ってくる」
ペタンは引き出しから紙の束を取り出し机に置く。
「街のギルドから仕入れた情報だ。極秘情報ということになっているから、決して口外はするなよ」
「わかったわ」
内容は彼らが所属しているパーティ「ティアマト」に関する問題だ。
リムランドからバルティカに所有権が貸し出されている傭兵集団だ。
表向きは国内での反乱の鎮圧や、魔物との戦いが多いことによる一時的な戦力の拡充が目的となっている。
問題なのは彼らをバルティカに引き渡しとき、当然バルティカはその対価として相応の資金を支払っている。
それ自体は問題はないのだが、その金額が問題なのだ。
「相場の3倍以上。おまけにいろいろな手当やその他の補助金も合わせると相当な額になっている」
「合計すると、5倍くらいです。それだけではありません。カルノさん達『ティアマト』のようにパーティーの貸し出しを行っているケースが、他にも十数件あるんです」
「十数件? そんなに何に使うのよ」
「理由は、わからない。けれど、彼らの身に何かがあったことは事実だ」
『ティアマト』影響力があり、リムランドでも強い力を持っていて、私も聞いた事がある
確実に突破口が開ける──なんて保証はないけれど、他に手だてが無いのも事実だ。
それに、あのメンバーのことを知っているのだが、以前 カルノさんもその一人だった。
彼の、何か隠し事があるかのような表情。
聞きに行く価値は、十分にある。
「ありがとう。資料のこと、しっかりと聞かせてもらうわ」
「信じてるぞ。センドラー」
ペタンとフォッシュも、ここまで私達のために協力してくれた。
絶対に成果を上げてこよう。
翌日。
「どう。面影とかある? ライナ」
「大丈夫です。全くの、別人ですよ」
私とライナは髪色を変え、(私は茶髪に、ライナは金髪に)格好も地味で質素な服装にしたり、伊達眼鏡を付けたりして、別人と勘違いされるくらいの姿に。
身分も、商人を装うために書類の偽造も行い、身分を問われても大丈夫なようにしてある。
街について、私は周囲をキョロキョロと確認する。
前に来た時と同じ、ラストピアより頭一つ遅れた街並み。
色々な人間たちや亜人が行きかう中で、ライナが話しかけてきた。
「センドラー様。私──地味に見えますか?」
「うん。別人よ別人。それに、かわいいよ!」
自信満々にそう言って、親指を立てる。すると、ライナがうっとりした表情になり、目がハートマークに変わる。
そして……。
「お礼です」
チュッ──。
何とほっぺにキスをしてきたのだ。
予想外の行動に、思わずフリーズしてしまう。
隣で見ていたセンドラーも眉をぴくぴくさせながら、けげんな表情をしている。
私は、何とか心を落ち着かせ、言葉を返していく。
「気持ちはありがとう。けれど、今は隠密行動をしているんだから、目立つようなことはしないようにね」
「はい。わかりました!」
手を上げて元気よく返事をした。
いろいろ苦労を掛けているし、この位いいか。
そして私達は馬車に乗ってバルティカへ。
草原地帯や険しい山々を越え、私とライナは目的の場所にたどり着く。
「何とか、尽きましたね」
「じゃあ、行こうか──」
ホテルに荷物を置いて、捜査開始。
そして、資料を頼りにカルノさんが住んでいるエリアへ移動していく。街を歩いていると──。
「センドラー様。あの人」
ライナが指をさした先に、目的の人物がいた。
「ちょっと、つけてみよう」
そして私達は物陰に隠れながらカルノさんを追っていく。
それから、曲がり角をカルノさんが曲がり、私達が早足でそれを追い、その曲がり角に差し掛かった時の事──。
「やば、こっち見てきた」
すっとカルノさんがこっちを向いたのだ。
私達は慌てて物陰に隠れる。
やはり、凄腕の冒険者というべきか。油断してはいけないな。
足音も気配も全くなかった。
「まさか、気付かれるとは思わなかったです」
「私もよ」
(私も、全く警戒してなかったわ。かなりの実力者よ)
センドラーも気が付かなかったなんて、よほどの人物だ。
それから、距離を取って尾行を再開。
今度はしっかりと距離を取りながら……。
しばらくたつと、商店が連なる街から閑静な住宅街へと道を進める。
もう少しで家にたどり着けるのかな……。
そう思ってカルノさんが曲がった角を私達も曲がった瞬間──。
「センドラーだろ」
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