扉にいる兵士の人に向かって、元気よく親指を立てる。
「分かったわ。報告ありがと、今すぐ街へ行くわ」
そして、急遽街へと行くことになった。まずはミットを通して、私が今日の議会や会議を欠席することを伝えさせる。それから、ソニータに何が起こっているのかも……。
「わかった。頼むぞ」
ソニータは、真剣な表情でコクリと頷いた。大丈夫、街は守り通すから──。
さらに、外出用の荷物の準備を終えて部屋を出た。
自然と早足になる廊下、入り口付近まで進むと──。
「なんだ朝から、ずいぶんとせわしないな」
余裕ぶった口調で誰かが話しかけてくる。急いでいたので顔をよく見ていなかった。慌てて足を止め誰か確認すると、ヘイグだった。
「ごめんなさい。今日はあなたと戯れている暇はないの」
憎たらしい奴だけど、街の平和の方が先だ。今は相手にしている場合ではない。けんもほろろに突っ返す。
ヘイグはニヤリと笑みを浮かべたと思うと、余裕そうな口調で答えた。
「だろうな。街、大変な事になったようだな──。まあ、センドラーなら死ぬとは思わないが、一人で行動して大丈夫かな?」
まるで他人事だ。
思わせぶりな事を言うヘイグ。にらみつけて言葉を返す。
「何が言いたいの?」
「後でわかるさ。まあ、せいぜい生き残るために逃げ惑うんだな」
思わせぶりな言葉。何を意味しているのか私にはわからない。
「何か知ってるの? あなたがやったの?」
「それは自分で見つけることだな……」
からかっているの? まさかヘイグが騒動を起こしているのか。可能性としてはあり得るが、証拠はない。
(ま、後でわかるかもしれないわ。それより、早く街へ行かなきゃ)
(そうね、忘れてた)
センドラーの言う通りだ。こいつの与太話の答え合わせをしている場合ではない。
街へ行って、争いを止めないと──。
私はヘイグをにらみつけた後、街へと繰り出していった。
「後で、しっかり調べさせてもらうわ」
「やれるものならな」
本当に、今の街の騒動。ヘイグが関係しているのだろうか。
分からないけれど目の前のことに、取り組んでいくしかない。
そうすれば、今までみたいにわかってくることだってある。
行こう──。
小走りで兵士の人が言っていた場所へと急行。
先日訪れたスラム街の地区。場は、すでにヒートアップしつつあった。
人間と亜人が互いににらみ合い、再び対立していた。
今度は何が原因なのか、野次馬のような形でにらみ合う亜人の男の人の肩をたたき、聞いてみる。
「ねぇ、どうしてにらみ合っているの?」
亜人の男の人は不機嫌そうな声で答える。
「当たり前だろ。人間の奴らが、俺達のエリアに
「亜人達が街をめちゃくちゃにしたんだ。ほんとクズだなあいつら」
「もう許せねぇ。あいつら全員街から排除してやる」
人間たちの集団から、そんな亜人達への憎悪の声が聞こえてくる。本当にまずい。
人間というのは、一人一人はおとなしくても集団になると流されて普段では取らないような行動をとってしまうことがある。
一部の人間が暴力行為に走ったら、すぐに他の人達も流されて同じような行動に走ってしまうだろう。
そうなったら暴動になってしまう。やめさせないと。
「みんな、落ち着いて。私の話を聞いて」
精一杯叫んで集団の方へ移動するが、人間たちは話を聞いてくれない
私が名はしている横で、うさ耳をつけている親子に人間たちが石を投げつけている。
「街から出てけ。この足かせどもが!」
どうすればいいのか、たとえ殴ってこの場を止めたとしても、彼らはまた別の場所で同じようなことをするだろう。いや、私が殴った分の報復行為をすることだってあり得る。
(元々、街の人たちの中に彼らのことを個々と良く思っていない人はいた。元々火種はあったのよ)
(そしてそれが、一気に爆発したというわけね)
別に、誰かが無理やり作り出したわけではない。
元々、持っていた感情なのだ。誰にだって身の回りに不満を抱くことだってある。
そして、そのはけ口として、自分とは違う人たちを敵に仕立てているのだ。
どうすればいいか考えこんでしまう。もはや、彼らの関係の修復は不可能である。
私の心にそんな言葉がよぎる。
(強大な魔力を感じる)
センドラーの囁きに、思わず後ろを振り向いた。
(どゆこと?)
センドラーは、深刻そうな表情をしている。
(感じるの。今までにないくらいの、強大な魔力を──)
(どこから?)
周囲をキョロキョロとするが、とくに違和感はない。
センドラーは、目をつぶって精神を集中させている。少したって目を開けて、答える。
(この場所全体からよ。多分、人型じゃない。すごい巨大な──)
この場全体?
じっと思考を重ねていると、センドラーがカッと目を開けた。
(わかった。地下よ。来る!)
その言葉通り突然ゴゴゴと地響きが鳴り出す。そして──。
ゴォォォォォォォォォォォォォォン!!
聞いた事もない地響きが鳴った後、この辺りの地面一帯が紫色に光り出す。
争いを続けていた人も、次第にその様子に気付き始め、周囲がざわめきだす。
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