フォッシュ視点
そして私は、ペタンとウェイガンの会議に入った。
まず両者。裏切り行為があったから当然なのだが、部屋で目線があった途端互いににらみ合い、挨拶一つかわさない。
極めつけは緊急会議が始まってから──。
最初こそピリピリしながらもペタンはガルフに対し、何とかこの国に戻るよう説得を心掛けていた。
しかし、ガルフは最初っからいい加減ででかい態度をとっていた。
「何度言ったって一緒だ。俺達は、もうこの国から出る。もう、俺の意思じゃどうすることも出来ないんだよ」
「ふざけるな、この裏切り野郎!!」
会議が始まった途端、ペタンはなんと椅子をガルフに向かってぶん投げたのだ。
「よくあんなことをして、再び俺の前に顔を合わせることができたな。その無神経さだけは褒めてやるよ」
まずい。怒っているのは分かるけど最初から感情を前面に出したら話し合いなんてできない。
冷静になだめるようにこの場を何とかしようとする。
「と、とりあえず理由を聞きましょう。どういうことか教えてください。もしかしたら、私達が力になれるかもしれません」
「わかったよ。お前に免じて見せてやるよ」
ガルフは床に置いていたカバンから一枚の紙を取り出して来た。
私達はその紙の内容を読んでみる。
「お前、なんでバルティカやリムランドから資金なんて借りたんだよ」
思わずペタンが問い詰めた。私も、その事実に驚いている。
なんとガルフたちは資金に困ったあまりバルティカやリムランドから多額の資金を借りてしまっていたのだ。
これといった産業も資金源もない彼らには、到底返せるはずのない金額。
「そして、この借りた資金を出しに俺達を裏切ったってことなのか」
「ああ、この資金の工面を何とかしない限り、どうすることも出来ねぇ。リムランドの指示一つで、俺達は無一文で路頭に迷う運命さ」
「待ってください。彼らに弱みを握られたら、何をされるかわかりません。それは、理解していたんですか?」
「だが、それしか道がなかった。もう、俺達だけじゃ明日の食糧すら危うい。それくらい貧窮しちまってるんだよ」
以前から気になってた。この人たち、どうやっていろいろな国から逃げ惑う中で食料や物資を工面していたのか。
どこか資金源になってくれている所があるというのは予想していたが、まさかリムランドやバルティカだったとは。
「プライドや筋を通すって考えはねぇのかよ」
「そんなことより、大事なものがある。配下の命を守らなきゃ、俺がここにいる意味がねぇ」
ガルフは冷静な態度でそう言い切った。
確かに正論だ。配下達の命を預かっている以上、意地やプライドを捨てても彼らのことを守るのがガルフの責務だ。
その姿勢については間違っているわけではない。私が、もし彼の立場だったら、同じ道を取ることだって十分にあり得る。
「それで、俺達から逃げ出そうってことか。それで、どうするつもりだ?」
「しらんな……。何とかして、生き延びるさ」
互いににらみ合い、ピリピリとした空気がこの場を包む。
「つまり、お前は──バルティカの犬になって、居場所さえも捨てちまうってことだろ」
「余計なお世話だ。もう一度裏切られないとわからないのかよ」
「ふざけるな。もう一度行ってみろお前!」
そして両者は再び椅子を投げ合った。そしてペタンは本気で机を叩く。
「ハハッ。そうだ、憎いだろう、だから出ていくんだ」
そして、二人は無言でにらみ合った。明らかに嫌悪感丸出しの雰囲気。
まずい、二人とも、一番の利益というふうに考えれば、このままコボルトたちをマリスネスに済ませるというのが最善策のはず。
私達は新しく国民達を獲得。コボルトたちは住処を手に入れる。
そかし、いくら二人の利益は共通しているといっても、ここまで感情的になっていたらまともな協議なんてできるはずがない。
まずは、二人を落ち着けさせないと。
「二人とも、気持ちは分かりますが、今は落ち着いてください」
両者に視線を配り、感情を抑えるようにジェスチャーをして乱闘ではなく議論に戻るようにするが──。
「お前に何がわかるってんだよォォォォォォォォ」
「その通りだ。すでに、言葉で語るには、感情を違えすぎている」
二人とも、感情を収める様子はない。
確かに、今の発言はうかつだった。ガルフのした裏切りは、言葉だけで収めるのは不可能だ。
特にこの国全部を守らなければいけないペタンの立場ならなおさら。
どうすれば彼らの気持ちをわかるのか……。
その時、私は以前センドラー様に言われたことを想い出した。
「そう、今までの。今まであなたとペタンのこと。互いに何を考えて行動しているか。それを全部思い出して──」
互いに……なにを考えているか──。
その言葉で、私は理解した。
そうだ、いくら二人のことをわかろうとしたところで、完全に理解することなど不可能だ。
私はいくらペタンの幼なじみで彼と戦いたいといってもしょせん一人の役人。対して、彼らは国のトップに立つ国王と、一亜人の一番上に立つ首長。
それなら、理解できなくても、私が思っていることをぶつければいい
互いに、国民や配下の亜人。よりどころとなっている彼らのことを考えているということ。その想いに、違いはないということ。
ただ、今は今まで怒ったことで感情的になり、忘れてしまっているということだ。
まずは、二人が何を大切にしているかを思い出させることだ。
自然と、表情に自信が戻る。
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