ひどいと物の所有権という言葉自体が理解できず ケンカになってしまうことがあった。
しかし、彼らはそんなことがない。
支配層は、配下の人たちのことをよく考え、大切に扱っている。
それに、子供たちへの教育への意識。これもプラスポイントだ。
こういった亜人達と交流して困ることが、子供への教育だ。
貧しい地域から来た人だと、子供に対して安価な労働力としかみなしていない。
すると、まともに字を読み書きすることができず、まともな仕事に就くことができない。
そして、貧困から抜け出せないという負のスパイラルに陥ってしまうのだ。
おまけに子供たちに教育をしても、その重要性を理解しない両親が「そんなことをさせる時間があったら働かせてほしい」と駄々をこねてきたことは記憶に覚えてる。
以前、スラム街で子供に簡単な算数や読み書きを教えた時、母親から真顔で「どうして引き算が必要なんですか?」と真顔で聞かれた時は困り果ててしまった。
しかし、彼らにはそれがない。子供たちに教育をするということが必要であると理解している。
以前住んでいた街でも、他の亜人の人たちともうまくやっていたみたいだし──。
その他にも、いろいろ話を聞く。
子供たちに視線をあわせ、どういうことを教わっているの? とか、以前の街ではどんな生活をしていたの? とか──。
しばらく会話を楽しんでいると、センドラーが話しかけてきた。
(ここはもう大丈夫ねぇ。次行きましょう)
(わかったわ)
「じゃあみんな。お話ありがとうね!」
「お姉ちゃん。ありがとう」
子供たちは手を振って私達を見送ってくれた。本当にいい子たちだ。
そして歩きながら私達は話す。
「センドラー様。いい人たちでしたね」
「そうだね、ライナ」
(私も彼らの倫理観に関しては、合格点を上げてもいいわね)
関して「は」ね……。
なんか、歯に何かが詰まったような言い方だ。何か気になるところでも、あるのかしら──。
すると、センドラーが話しかけてくる。
(ちょっと、変わってくれるかしらぁ?)
私にはわからないけれど、センドラーには、何か狙いがあるのだろう。
(うん、いいよ)
そして私はセンドラーと交代。
さっきウェイガン達がいた場所へと向かう。
その隣にあるコボルトの中で一番大きいテント「ゲル」。そこに行くと軽くノックをして中へ入って行く。
私らライナ、ミットも後を追うように中へ。
そこにはいろいろな書物があった。
センドラーは真ん中で毛ボルトの人となにやら交渉をしている。そしてその人がコクリとうなづいた。
「資料で見たいもの──ですか? 記録されると困るものもあるのですが……」
センドラーはウィンクをして、言葉を返す。
「じゃあ、あなたが後ろについていてくれるかしら? それで、私が変な事をしているというのなら止めていい。それではダメ?」
「はぁ……。それなら、大丈夫です」
「ありがとうね。じゃあ、思う存分調べさせてもらうわぁ」
センドラーはにっこりと笑みを浮かべ、手を振ると、部屋の中へ入って行く。
「あそこね……」
部屋の壁際にある棚へと向かっていくと、そこからいくつかの書類や本を取り出す。
ミットとライナ、後ろからその姿を興味津々に見つめていた。
いろいろと書類をパラパラ見たり調べていた。
時折書類をめくる手を止めて、コクリとうなづいたりしている。
ポーカーフェイスといった感じで、表情に変わりはない。
そして、しばらく書類たちをめくってはコクリコクリ頷いた後、その本や書類たちを元に戻し、「ゲル」から外に出ていった。
私はセンドラーと肩を並べ、話しかける。
(どう? 何か怪しいことあった?)
「まあね。絶対ってわけじゃ、ないけれど……」
なにか引っかかったような言葉。センドラーのことだから、私ではわからない何かを見つけたのだろう。
何もないといいけれど……。
そしてペタン達の方も査察が終わったらしく、フォッシュやウェイガン 達と一緒に仲がよさそうに談笑している。
私は彼らに接近。
「お疲れ! そっちはどうだった?」
「こっちは大丈夫です。センドラー様は、何をなさっていたのですか?」
フォッシュからの質問。何とか取り造らないと……。
しどろもどろしながらも何とか答える。
「え、ちょ、ちょっと、いろいろ見て見たくって。素晴らしかったわ、この人たちと手を組みたいって、本当に思った」
「ペタン。フォッシュ。私は、彼らなら信用できる。と思うわ。あなた達はどう思う?」
二人とも、どこか明るい表情だ。聞くところによると、話をするうちに明るい雰囲気になり、最後の方が談笑をしながらの監査になっていたという。
「この人たちなら、大丈夫だと思います。一緒にあって、ウェイガンや周囲にいる人たちを見て、大丈夫だと感じていました」
「俺もだ。礼儀作法や倫理観。人々。どれをとっても大丈夫。こっちこそ、一緒にバルティカのために頑張ろう」
そしてペタンは彼らを国民として受け入れると、高らかに宣言。
コボルトたちは、大喜びし始めた。抱き合ったり、拍手をしたり。
それから話は早かった。側近のベルクソンが出てきて、書類を持ってくる。
そして机にそれを出す。
机にある書類を、ペタンとフォッシュが念入りに不備がないかチェック。
皆、取り囲むように物珍しそうに私達やペタンを見ていた。
「これから、よろしくな」
「ああ。お前達のこと、絶対に守ってやる」
それから、ペタンはその書類に不備がないかを確かめてから、自らのサインを書類に書いた。
「これで、契約成立だ」
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