──破滅回避の悪役令嬢── 転生令嬢、世界を救うため「書記長」というハズレ職業から冷たい戦いを制し、世界を二分する勢力の指導者にまで成り上がります

悪役令嬢×異世界転生 破滅から世界を守るため、もう一人の自分と行く異世界ファンタジー
静内
静内

第93話 置物

公開日時: 2022年2月22日(火) 21:30
文字数:2,140

 フッ──。


 体の感覚が戻った。

 真っ白だった視界が戻る。


 しかし、目の前の風景は、先ほどまでの物とは全く違っていた。


「センドラー様。ここは、どこですか?」


「リムランドの城門よ」


「城門?」


「城壁に囲まれた都市国家なのよリムランドは。長らく戦乱があって、その名残で街が城壁に包まれているの」


 そして、城門を目指して歩こうとすると──。


「センドラー様。あれ……」


 ライナが指さした先──。

 灰色の光の柱が城門の前に立っていた。


 その灰色の光が強さを増し──。


「あれ、ブルムじゃない」


 思わず声を漏らしてしまった。その通り、ブルムだ。

 光が消えるなり、力を抜いたように肩を落とす。



「ふう、ゾドムの転移魔法。便利で使えるぜ──。ありがとな」


「はい」


 隣には、1人の騎士。灰色の光に包まれている。


 二人とも私達には、全く気付いていない。

 そんな声を漏らしながら、門番の兵士の元へと向かっていった。


(あの真っ黒い光──。魔王軍とか、闇の魔術師が使っているものよ)


(つながりがあるってことね……。それにソドムって魔王軍の幹部の一人じゃない)


 こいつ、色々と黒いつながりがあるのね……。

 というか、転移魔法自体、相当ランクが高い魔術師でないと使えない代物。


(あいつ、かなりのやり手ね)


 こんな術式までつかって高速でリムランドまで帰ってきたのだ。絶対に何か目的があるはずだ。


 警戒はしておこう。


「じゃあ、行くよ」


 カルノさんが複雑そうな表情で話しかける。

 確かに、気持ちはわかる。


「はい、わかりました」


 私にとってはかなり久しぶりの場所だ。懐かしさすら感じるくらい。


「確かに、センドラー様が育ってきた街ですもんね」


 かつては、この街で権力をふるい、問題だらけだったこの国を何とかしようともがいていたものだ。


 力づくで強権をふるいすぎて、こうなってしまったわけなのだが。


 そして、久しぶりに見た街並みを懐かしさ交じりに眺めていると、とある変化に気付く。


(センドラー、なんか亜人の数が増えてない)


(私も同じこと考えてたわ)


 以前と比べると、亜人の人が増えたような気がする。毛耳や、うさ耳など、様々な耳をした人たち。


 私がいたときは、亜人の数なんて人ごみに一人いるかいないかくらいだったのに、今は10人のうち、2.3人くらいは亜人といった感じだ。


 何があったのか。


「やっぱり、亜人の数増えてますね……」


 ライナがぼそりと呟く。何か知っているみたいだ。


「ライナ、亜人のこと、何か知っていたの?」


「はい、以前聞いた事があるんです。今リムランドは、各地から亜人の移民を集めているのだと──」


「そ、そうなんだ……」


 完全に初耳だ。しかし何で急に──。


「そのこと、私に教えてくれる?」


「センドラー様……、私を頼りに──はい、喜んで!」


 ライナが目をハートマークにしながら、説明を始めた。

 リムランドでは、これから経済力、軍事力を高めるため、居場所を求めている人に声掛けをしているということらしい。


「人口を増やし、国力を高める目的だと言ってました」


「でも、管理とか大変そうよね」


 それに、全く違う価値観の人たちが一斉に住んだら、間違いなく争いに発展する。


 いくら国を強くするためとはいえ不安に思ってしまう。

 今回は関係ないけれど、これからいろいろと影響は出てきそうだ。


 それから、カルノさんとはいったん別れとなる。彼は彼で、やることがあるのだ。


「では、センドラー。ご武運を、祈ります」


「こちらこそ。本当にありがとうございます。このご恩は、忘れません。いつか、恩返しさせてください」



 ──成功、させよう。

 そんな事を考えながら、私は宮殿へと向かっていった。


 ──不安いっぱいな気持ちを抱えながら。



 ブルム視点。


 政府の宮殿。

 俺はソニータの事務室の前でドアをノックする。


 コンコン──。


「俺だ」


 ノックをした後、しばらく声が帰ってこない。

 俺に対して、何か考えているのだろう。まあ、無駄だろうだな。


 そして、しばらく時間が経つと、とげのある──ボソッとつぶやいたような口調で帰ってきた。


「入れ」


「はい」


 すぐに返事をして、ドアに入る。


 部屋の中は、歴史を感じさせる書物の棚に、奥には事務仕事用の机。

 その前には応接用のソファーが向かい合わせに並んでいる。


 そして、机に手を組んでソニータは座っていた。

 ソニータは目が合って意味なり俺様をにらみつけてくる。


 そして──。


 ずかずかと俺様に向かって歩いて来た。

 俺は、余裕ぶった表情で言葉を返して来る。


「おいブルム!」


「おおっ、これはソニータ様。そんなご機嫌斜めでどうされましたか?」


「どうされましたかではない!」


 怒りのあまりその拳を壁にどんと叩きつけた。

 よほど怒っているのだろうな、この無能クソ女。


「なんだあの書類。バルティカの件、取引に推薦する商人はお前たちと私達会派の人を担当に割り当て、利益は折半のつもりだったろう」


「ああ……確か、そんなことを言ってましたね」


「それがどうだ。最終決定の書類では、バルティカとかかわるのはお前やヘイグの息のかかったやつらだけじゃないか。まるで、私をのけ者にする手はずだったかのように」


「ようやく気付いたんですか。そんなんだから俺や他の奴らに出し抜かれるんですよ。王国内でも置物扱いされるんですよ」


 歯ぎしりをするソニータ。残酷だが事実だ。

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