「…嘘…でしょ…?」
「は?なにが?」
…何が?
空は、午後に向かって回転していた。
ひぐらしの声が、涼しい風の向こうに流れていた。
降り注ぐ夕陽。
木漏れ日の下に隠れる、——石垣。
嘘だ。
見開いた目の奥で、時間が止まる。
真っ二つに割れている空と、色鮮やかな情景と。
亮平が、目の前にいる。
亮平に間違いなかった。
間違いなく、それは「彼」だった。
一目でわかったんだ。
何気ないその仕草や、立ち姿を見て。
…だけど、そんな嘘みたいなことが…
目を擦る。
何度も、瞬きをする。
あるはずのない景色を目の当たりにして、とめどない感情が、胸の奥から込み上げてきて。
“そんなわけない”って、思えた。
彼は今病院にいて、ずっと寝たきりだった。
ずっと会えずじまいだった。
今日だってそうだ。
会いに行こうとしたけど、結局…
「はよ行くで」
行く…?
行くって、どこに?
わけもわからないまま、その場に立ち尽くしてた。
思うように足が動かなかった。
頭も、声も。
「…亮…平?」
彼の名前を呼ぶ。
目の前にいる人が誰かを、確かめようとする。
そんなのは、わざわざ確かめるまでもないことだった。
見ればわかることだった。
亮平。
言い慣れたその名前を、声に出せば——
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