「キャッチボールするんやろ?」
…キャッチボール?
…誰と、誰が…?
彼が誰であるかも、なんでユニフォームを着ているのかもわからなかった。
亮平は亮平でも、自分の知っている「彼」には思えなかった。
野球はもう辞めてるはず。
耳にはピアスをして、髪は茶髪で…
なんでそんな髪型なの?
…なんで、そんな格好なの?
自転車になんか乗って、おまけに、グローブなんかカゴに乗せて。
「…よくわからんのやけど」
夢じゃないなら何…?
もしかして、幽霊…?
足はちゃんとあるし、…影も。
…じゃあ、何…?
どうしても信じられなかった。
彼がここにいること。
目の前にいること。
そして、何より…
「…手術は?」
「手術…??」
「あんたが亮平なわけない。あんたは今病院にいて…」
「病院?…何言っとんやお前」
「…なんでユニフォームなんか着てんの?」
「練習があったからに決まっとるやろ」
「…練習?」
「大丈夫か…?なんかおかしいで?」
…おかしい?
…私が?
何も考えられないまま、ただ時間が過ぎた。
呆然と立ち尽くすそばで、「後ろに乗れ」って、彼が。
私は言われるがままだった。
気がついたら自転車に乗っていた。
地元の商店街を抜けて、海辺へ。
彼のバイクに乗っていた、あの頃のように。
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