「すごいな……」
その控室には想像よりも遥かに大勢の人がいた。それぞれの女の子に対してヘアメイクさんや衣装の係の人がいるっぽい。それも結構な女性比率でしかも美男美女が多い。やっぱりアイドル業界の関係者というものは美男美女が多いのだろうか。
「あっ、いたいた! ゆかり!」
「のぞみ〜こっちこっち!」
川端さんの親友がいたようだ。
「ライブすっごい良かったよ! あっ、紹介するね。前に話していた立原くん! 柔道を習っててすっごく強いの!」
「初めまして、立原です。川端さんのクラスメイトで柔道の黒帯なんで多少は役に立てるかと思います。よろしくお願いします」
ということにしておこう。普通の学生というよりもそっちの方が安心してくれるだろうし、強さは黒帯以上だしな。
佐山さんは同い年にしては背が高めのキリッとした黒髪ロングの美人さんだ。アイドルなんだから当たり前だがとても綺麗で歌も踊りもとても上手かった。ライブでも結構真ん中の方で歌っていたから、このグループの中でも結構人気があるのかな。
「初めまして、佐山ゆかりです。この度は護衛を引き受けてくれて本当にありがとうございます! どうかよろしくお願いします」
佐山さんが手を差し出してくる。これは握手ってことでいいのかな? 大丈夫だよね、手を握ったらセクハラとか言われないよね?
この世の中は肩を叩かれただけでセクハラと騒ぐ女子もいっぱいいるデブには厳しい世界だ。今は痩せてるし、川端さんの親友なら大丈夫だと信じたい。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ちょっとだけ戸惑いながら差し出された手を握る。女の子の手を握るなんていつ以来だろう。握手をするだけなのにものすごくドキドキしてきた。
女性特有の柔らかくて細い指が俺の手をぎゅっと握る。今初めてわざわざ数秒握手するためにCDを何枚も買って握手券を集める人たちの気持ちがわかったかもしれない。
「……いつまで握手しているのよ」
「あっ、ごめん!」
川端さんに声をかけられて慌てて手を離す。いや違うんだよ、佐山さんの手が小さくて可愛らしかったから、ずっとこのまま握ってたいなあとか思っていたわけじゃない。こういうのっていつ離せばいいのかタイミングがわからないんだよ。
「あはは、ごめんねのぞみ! 大丈夫だよ、立原くんは格好いいけど別にのぞみの彼氏を取ったりしないから!」
「ななな、何言ってるのよ、ゆかり!? 別に立原くんとは付き合っているわけじゃないわよ!」
「あれ、そうなんだ? のぞみは中学の時からあんまり男の子の友達とかいなかったから彼氏かと思ったよ」
「……ちゃんと昨日彼氏じゃないって説明したわよね! からかっているでしょ?」
「あはっ、バレたか。相変わらずのぞみは可愛らしい反応してくれるよね! とってもからがいがあるわ」
「まったくもう!」
なんだか置いてけぼり感がすごい。どうやら2人はとても仲がいいらしい。
「改めてよろしくお願いしますね、立原さん!」
うっ、これが現役アイドルの笑顔の破壊力か。確かにこれは入れ込む人達の気持ちがわかってしまうな。
「はい、こちらこそお願いしますね」
「それじゃあ細かい話はどこかに移動してからにしようか。すぐに準備するからあと5分だけ待っててね!」
「うん、そしたら控室の外で待ってるね」
どうやら一度退室して佐山さんを待つようだ。よかった、正直この部屋の女子比率にちょっと圧倒されていたから助かる。しかも部外者だからかみんな結構こっちを見てる気もするし。
「あれ〜ゆかりちゃん、誰この男?」
川端さんと控室の外に出ようとしたところ後ろから声がかかった。振り向くとそこには金髪でピアスを付けたイケメンが俺を指さしていた。
「茂木さん……えっと、この人は友達の友達です」
「なんだ友達の友達か〜。あれ、もしかして例のストーカーへの護衛的な?」
「えっと……その……」
「なんだよゆかり、護衛なら俺がやるって言ってんじゃん! ほら俺ってば総合格闘技もやってるし超強えしさ!」
「いっ、いえ……茂木さんもお仕事があるでしょうし、そこまではしていただくわけにはいきません!」
「大丈夫、大丈夫! 俺、仕事よりもゆかりの方が大事だし! なんならゆかりの部屋の中まで護衛しちゃうよ」
「えっと、あの人は誰?」
「このアイドルグループの衣装を担当している茂木さんっていう人なんだけど、ちょっと前からゆかりに言い寄ってきてるの。ゆかりは迷惑しているんだけど、事務所とかの関係もあってあんまり強く言えないらしくて……」
川端さんと小さな声で話す。どうやら見たまんま佐山さんに言い寄ってる感じらしい。佐山さんもストーカーにこの人と、やっぱりアイドルはいろいろと大変なんだな。
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