「えっと……」
男がサングラスをしきりに触る。
「ええっと……」
女が妙にソワソワとする。
「おい……」
「は、はい!」
男が背筋をビシっと正す。
「……」
「貴様もだ、女……」
「あ、は、はい!」
女も背筋をビシっと正す。
「それで?」
「自分たちに何の用だ?」
クラウディアとザビーネが向かい合って座る男女を睨みつける。
「え、ええっとですね……」
「うん?」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
「早くしろ……」
「はい、それはもちろん! ……おい!」
男は女に顔を近づける。
「先輩、なんですか?」
「なんですか?じゃない! なんだこの迫力は! どう見たってカタギじゃないだろう⁉」
「それはそうですよ……」
「え?」
「騎士団の部隊長と魔族の方ですからね」
「なんでそんな連中に声をかけた⁉」
「リストアップされていたからしょうがないじゃないですか」
「ぐっ……」
男が唇を噛む。
「おい、まだか?」
「あ、す、すみません!」
男がザビーネに頭を下げる。
「自分はこれでも色々忙しいのだ」
「……ふん、わざわざアピールしなくても良い……」
クラウディアが口を挟む。
「……魔族は暇なのか?」
「それを聞いてどうする?」
「いや、暇ならそれで結構だ。自分たちの仕事も減るからな」
「……暇で暇でしょうがない」
「そうか……」
クラウディアの答えにザビーネは笑みを浮かべる。
「それもこれも……」
「ん?」
「どこかの騎士団さんがまったく歯ごたえがないからな……」
「なんだと?」
「まっっっっったく弱っっっっっちいのでな」
「強調しなくて良い……!」
「いや、事実はしっかりと把握してもらいたいからな」
「それは事実とは少々異なるな……」
「なに?」
クラウディアが首を傾げる。
「単に運が良かっただけだ」
「運が良かった?」
「いや、この場合は悪運と言った方が良いか?」
「……どういう意味だ?」
「自分と遭遇しなかったからな」
「何が言いたい?」
「分からないか?」
「回りくどい、騎士ならばはっきりと言え」
「自分なら魔族など大した問題ではない」
ザビーネは自らの刀の鞘をテーブルに当ててわざと音を鳴らす。
「……言うではないか」
「はっきり言えと言われたからな」
「ここで会ったがなんとやらだ。決着をつけるか」
「望むところだ」
ザビーネとクラウディアが立ち上がって睨み合う。男が慌てて声を上げる。
「ああ! ちょ、ちょっと待って下さい!」
「なんだ?」
「貴様らまだいたのか?」
「そもそも何者だ?」
「は、はい、私たちはこういう者です!」
男が名刺を差し出す。ザビーネとクラウディアはそれを受け取る。
「……! こ、これは……」
「貴様ら、カクカワ書店の者か?」
「はい、そうです……」
「何の用だ?」
「とりあえずお座りになって下さい……」
「ふむ……」
「ふん……」
ザビーネとクラウディアが再び席に座る。やや間をおいて男が口を開く。
「た、単刀直入に申し上げます。当社から小説を出しませんか⁉」
「何?」
「むう……」
「い、いかがでしょうか?」
「そう言われてもな……」
「ザ、ザビーネ様は騎士団の部隊長になられるとか!」
女が声を上げる。ザビーネが慌てる。
「い、いや、そんなことを大声で言うな……!」
「し、失礼しました! しかし、まことにご立派でございます。もう溢れんばかりの眩いオーラを感じてしまいます! 正義というものを体現しておられます!」
「そ、そうか……?」
ザビーネが照れくさそうにする。女がクラウディアの方に向き直る。
「その一方、クラウディア様からはそんな眩いオーラにも負けず劣らずの邪悪な禍々しいオーラをひしひしと感じます! 悪というものがなにかということが言葉にせずとも伝わってきます!」
「そ、そうか? ま、まあ、禍々しさにはこだわっている方だからな……」
クラウディアが鼻の頭をこする。
「そんな御両方にふさわしい作品作りが出来るサポート体制が当社はパーフェクトに整っております! 是非、当社と一緒に仕事をしましょう!」
「ま、まあ、そう言うなら……なあ?」
「ああ、話だけなら聞いてやっても……」
「ありがとうございます! では打ち合わせの日時を……」
女が手帳を取り出す。ザビーネが戸惑う。
「い、いや、あくまで話だけであって……」
「……只今、このお店の限定パフェを持ってこさせます」
「そうだな、三日後はどうだ?」
「案外チョロいな……」
男はボソッと呟く。
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