「あ……」
「今、『なんでもする』と言ったな?」
「ええ? 言いましたっけ?」
「いや、確かに言ったぞ。我の耳は誤魔化せん……」
「地獄耳というやつか」
「貴様は黙っていろ……」
クラウディアさんがザビーネさんを睨む。
「ふん……」
「……気を取り直して、なんでもしてくれるのだな?」
「い、いや、それは……」
私はわざとらしく目線を逸らす。
「まさか……」
「え?」
「嘘をついたのか?」
「う、嘘と言いますか、何と言いますか……」
「もしも嘘だと言うのならば……」
「ならば?」
「この建物のみならず、この辺一帯を灰燼に帰してやっても良いのだぞ?」
クラウディアさんが右手の手のひらを上にする。手のひらから小さな火が出る。
「そんなことを自分が許すと思うか?」
「貴様の許可なぞ求めていない」
「求められてもそんなものは却下だ」
「止められるものならやってみろ……」
クラウディアさんとザビーネさんが睨み合う。
「おおっ、これは激戦の予感っすね!」
「ア、アンジェラさん、だから無邪気に煽らないで……」
ルーシーさんが慌てる。
「熱そうなのは人魚的にはちょっと嫌ね……」
「ヨ、ヨハンナさん、そんな呑気なことを言っている場合ではなくて……」
ルーシーさんが呆れる。
「かぶりつきで見たい戦いですね。なにぶんスライムには縁遠い世界ですので……」
「マ、マルガリータさんもちょっと冷静に……」
ルーシーさんが頭を抑える。
「オッズはどうなるのかしら? 賭けたら盛り上がるわよ~」
「へ、ヘレンさん……そういう欲求もあるのですか?」
ルーシーさんがため息をつく。
「あ~! 皆さん、落ち着いて下さい!」
私は声を上げる。皆さんの注目が私に集まる。
「……」
「なんでもします! ただし!」
「ただし?」
クラウディアさんが首を傾げる。
「皆さんの執筆する小説がヒットを飛ばしたらの話です!」
「「「「「「「⁉」」」」」」」
ルーシーさんがおずおずと尋ねてくる。
「み、皆さんというのはワタシたちも対象に含まれるのですか?」
「え? えっと……」
「モリさん、これは大事なことですので」
「ああ、まあ、はい、そうなります」
「そうですか……」
ルーシーさんが深々と頷く。
「ふ~ん、面白そうじゃないっすか……男に二言はないっすね?」
「え、ええ……」
私はアンジェラさんに応える。どういう問いかけだ?
「……う~ん、食べちゃおうかな」
「はい?」
マルガリータさん、聞き捨てならないことを呟いたような……。
「人間、しかも異世界の方……それならお許しが出るかも……」
「え、えっと……?」
ヨハンナさんが顎に手を当てて呟く。お許しって何の話だろうか?
「ふふん、異世界の殿方……興味深いわね。あんなことやこんなこと……」
「ちょ、ちょっと……」
ヘレンさんが艶めかしい視線を向けてくる。確実によからぬことを考えている。
「な、なんでも……」
「あ、あの……?」
ザビーネさんが顔を真っ赤にされている。何を考えているのだろうか>
「ふん、なかなか愉快なことになってきたな」
「は、ははっ……」
クラウディアさんの言葉に私は苦笑する。私は今一度皆さんを見回す。
「………」
な、なんだろう皆さんの眼の色が変わったような……気のせいだろうか。
「……ということはだ」
「はい?」
クラウディアさんに私は視線を戻す。
「ヒット作を出すために入念に打ち合わせをしないとならんな」
「そ、そうですね……」
「では、早速我と打ち合わせをするぞ」
「え? えっと……」
「他の者は席を外してもらおうか」
「ちょっと待て、勝手に決めるな」
赤面状態からキリっとしたお顔に戻ったザビーネさんがクラウディアさんを制止する。
「なにかと言えば突っかかってくるな……」
「この場合、極めて正当な抗議だ。他の皆はどうする?」
「我の打ち合わせが終わるまで待て」
「いつまでだ?」
「さあな? 暗くなるまでかな」
「なんだと?」
「我も色々と忙しい。今日以外はなかなか予定がとれんのでな、出来るだけたっぷりと打ち合わせをしたいのだ」
「それは皆一緒だ。そうであろう?」
ザビーネさんが皆を見回す。皆は揃って頷く。クラウディアさんが面倒そうに問う。
「では、どうするのだ?」
「順番を決めよう」
「どうやって? 戦ってか? まあ、それも構わんが……」
「それではフェアではない。くじを引いて……」
「くじは誰が作るのだ? それこそフェアではない」
「モリ殿に作ってもらえば良い」
「む……」
「異論はないな?」
「いや……ちょっと待て」
「なんだ?」
「一組の打ち合わせがどれくらいで終わるか分からんだろう?」
「半刻ほどに区切れば良いではないか」
「はっ、たったそれほどで満足のいく打ち合わせが出来るものか……浅はかだな」
「なにを……」
ザビーネさんとクラウディアさんが再び睨み合う。
「あ、あの……皆さん合同で打ち合わせをするというのはいかがでしょうか?」
ルーシーさん、何を言い出すんだ。
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