10話までたどりついたら反応の良かった話を参考に少し分量を増やそうと思っています。皆様はどこが好きなのでしょう?もう少しこなれたら一番初めに私の一番好きな食べ物の話を追加しようかなと考える今日この頃。
ホカホカと湯気の上がるシチューの香わしいバターの香りが扉を開けた私の鼻を直撃する。厨房を覗けば思った通りの光景が私の目に映った。もうすぐ出来上がるのだろう。その様子を見たヴィーシャが二階にサムを呼びにいっている。私を呼びに来たばかりなのに忙しい人だ。私も何か手伝えればいいのだが、手伝わせてはもらえない。そろそろ料理がしたいのだがなかなか理由が見つからなくて困っている。どうしたものか。
日中も長期間持つ食材は買ったがそれ以外のものを保存食にする時間が取れていない。足りないのか?と言われてしまえばどうにもできない。準備されたもので冬を越すのは余裕だけれど塩漬けばかりなのが気にかかる。そもそも荷物の片付けが終わっていないのだからそれどころでないと言われればそれまでなのだけれど。
この家の人たちは嫌いみたいだけれど私はピクルスが大好きだし、塩漬け野菜ばかりだと体調を崩すのよね。どうしたものかしら。
仕方がないので苗を買って屋上で家庭菜園を始めた。カブは冬でもプランターで育てられる。意外と人気が無くて驚いたが、葉を厚く剥いてじゃがいものようにシチューの具材にするのが私は一番好きだ。葉は塩漬けにすることもあれば一緒にシチューにすることもある。
デミグラスソースを作ってビーフシチューを食べるのがこんな風に食生活の充実に努める私の目標だ。
家畜の死亡率は夏がダントツで高いが、病気を除いたら冬の方が圧倒的に死亡率が高い。人間の居住区ほど家畜の放牧場は雹から守られていないからだ。人間のこぶし大の雹が直撃するとまず間違いなく即死だ。そうやって死んだ家畜の肉が冬になると大量に市場に流れるため畜肉の価格が下がるのだ。
そんなことばかり考えているのは食事に失礼なので目の前の食事に集中する。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、この黄色くて甘いのはカボチャかな?高くはないけど珍しい。
レタスのサラダというぜいたく品つきの食卓を囲んで若干なれてきた私はモリ―に頼み事をしようと思い立った。
「何か女性にできる内職ご存じありませんか?」
「あなたには立派な息子がいるでしょう?」
案の定、いぶかしげな眼で私を見るモリ―、確かに養ってくれる男性がいる女性は働かないのが一般的だ。冷ややかな目で見る人もいる。付き合いのある相手はお貴族様の揉め事に巻き込まれる可能性もある。下手なことをしないのが賢明だ。相手が情報を出したがらないときに情報を聞き出すのは至難の技。私はそこまで話術が得意なわけではない。ここで押して、相手の自分に対する評価を下げるのは悪手。だから、ここでするのは意思表示のみ。
「人とのつながりは絶やすな。というのが私のポリシーでして、今は離婚したばかりですしおとなしくするにしてもいつかのためのネタ作りくらいはしたいなと。私は刺繍が上手ですよりも自分の作った作品を見せる方がずっと話がはやいですから。」
相変わらずめんどくさそうな顔をしているのでこれ以上は何も言わないで話題を変え、その後の夕食は穏やかに過ごした。
やっぱり、私はこの町に歓迎されていないのね。あんまり努力するつもりもないけれど。ここに居を構えたのは兄の代になった実家に帰ることが厳しかったからだ。特に、私は兄嫁との仲があまり良くなかった。
離縁のほとぼりが冷めたら適当なサロンにでも顔をだそうか。そのためにも一つ良い服を仕立てましょう。時間ならたっぷりあるし。紺色のワンピースにレースは若々しすぎるかしら。いや、ぜったいアイリーンからじみすぎると言われるわよね。一人で考えていても仕方がない、アイリーンに手紙を出そう。私は帰り道にそんなことを考えた。
回遊魚のように私は立ち止まると窒息死してしまうから今は隠れ潜みながらも決してその歩みを止めない。
翌朝、サムを連れて市場に乗り出す。品質はピンキリだが身の安全を護れて見る目が確かなら店舗よりもずっと安く材料が調達できる。
買い出しにつき合わせること数回、彼の信頼を得ることができたようで彼もいっしょになって店を冷やかすようになっていた。
「今日は野菜は買わないのか?」
「ええ、今日は布を買うの。」
また来いよ。という声を背にいつもとは違う場所に足を向ける。この先はいうなればいうなればフリーマーケット。食器やアクセサリー、工具類、かばんなどなどなど、地方から持ち込まれた産品が所狭しと並べられている。その中にはもちろん反物もあって。
「手に取っていい?おっちゃん。」
「おう、べっぴんさんじゃねえか。それに目を付けるとはお目が高い。その布は、、、」
大した意味のない売り文句に適当な相槌をついて物品を鑑定する。鑑定は私のユニークスキルだ。おそらく、同じものを持っている人はいない。非常に便利なので重宝しているが、同時に利用されるリスクもあるので私は真っ先に隠蔽のスキルを得たのは言うまでもない。
表向きはその隠ぺいをユニークスキルとして申請している。
ユニークと言ってもその人しかもっていないというわけではなく、生まれ持ったものという意味で、ほかの人よりも初期の熟練度が高いというだけだ。
とっくの昔に厄介な王子様に目を付けられていたのはまた別の話。
鑑定様様で上質な布、すぐに店舗に並ぶであろうそれを獲得した私は、ほくほく顔で家に帰った。
そして最後に、私はサム君にこう伝えた。
「今日の夕飯はさっき買ったので済ませるからいらないっていっといて。」
そういって帰り道でかったパンの山を掲げる。まだ、お昼には早い時間。準備もまだしていないはず。
帰った私は、念願の自炊に取り掛かるのです!
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