友梨香たちは部室を出ると他の下校中の生徒に交じって学校を後にする。
上機嫌なようで、鼻歌交じりに迷いなく歩いて行く。
「なっ、なあ友梨香?」
「んー? どした?」
「ずいぶん迷いなく歩いているが、彼女の居場所はわかっているのか?」
「そりゃ当然よ。知らんかったらそもそも呼んでくるとか考えへんよ」
「そういえば道具買ってこいって言ってたけど、もうポジションの方は決まってるの?」
友梨香は「んー」と少し考えると、鞄から1枚の紙を由貴に渡した。あれは入学式の時に読み上げたメンバーリストと同じように見えるが、名前の方にさらに書き込みがされてある。
「一応、現状のポジション候補としてはそんな感じやな。打順はまだや。そこら辺は練習でみんなの打撃みて決めようかと思ってる」
背の高い怜は由貴の後ろからのぞき込むようにその紙を見る。
1:怜
2:リンナ
3:圭子
4:由貴
5:緑
6:七絵
7:詩織
8:ウチ
9:悠
1番が怜であることを見るにこの数字は守備位置のことだろう。怜はピッチャーなのは当然といえば当然だろう。
「私がピッチャーであること、君がセンターであることは理解できるが、他は何か理由はあるのか?」
「そーやなー。まずファーストやけど割と大事な守備位置やと思ってるから、ソフト経験者の圭子ちゃんにしてる。素人集団やからなるべくファーストのエラーは減らしたいからね。
んでもってセカンドは悩んだけど、割と女子高校野球は右方向への流し打ちの打球が多いからセカンドに由貴ちゃんをおいてライト方向は少し強めにした感じやね。
三遊間はバドミントンとテニスと横と縦の動きをしてたスポーツやってた七絵ちゃんと緑ちゃん。まあここは割と消去法やな。センタ―はウチにしとけば、ライトとレフトの定位置まではウチの守備範囲やから負担は小さいだろうから、悠ちゃんと詩織ちゃんを入れたわ。詩織ちゃんは陸上部だったし足も使えるから外野手適正の方があるやろな。
で、キャッチャーはリンナちゃん。これは苦労したわ。何せ中学時代野球してなかったからな。ギリギリ小学校の時のポジションがキャッチャーやったから当てはめたわけや」
少し早口でポジション決定の理由を話してくれた。
本人は言わないが、失礼ながら関心してしまった。天才肌である彼女はあまりそういうこと――チーム事情のようなもの――は興味がないかと思ったが、相当コアな部分で考えている。
それもそうか、ほぼ素人だらけで乙女白球制覇を目論んでいるんだ。
「まあ、割といい感じだと思うよ。守備はとにかく反復練習だろうし」
「せやろ。バッティングに関しては二の次やな。今年一年は守備をきっちりするぐらいでもええかと思ってるわ」
そんな感じで話していると、「ここや」と言って友梨香は指を示した。
「ここは……バッティングセンター?」
「そっ、大村市唯一のバッティングセンター。ここにリンナちゃんはおんねん。中学の時から放課後はだいたいここに行ってるらしいわ」
友梨香がバッティングセンターの扉を開けると、すでにいくつかのバッターボックスにはお客がいた。その多くは男子高校生ばかりで、談笑しながら金属音を響かせている。
その中でひときわ目立つ子がいた。
左バッターボックスに立ち、天然物の長い金髪の下の方で軽く束ねている。彼女のスイングに合わせるかのようにその髪は揺れている。
この中で女子は彼女だけ、ということはおそらくあの子が友梨香の言っていた最後のメンバー、立花リンナだろう。
「さて、どう声をかけたものか……」
いきなり声をかけるのは迷惑だろう。ただでさえ友梨香の入学式のアレがあったのだ。その中で素直に部室に来なかった子。それだけで一筋縄ではいかないことはわかりきっている。
ううむ、と怜が悩んでいると。
「お、いたいた~」
まるで友達と待ち合わせをしていたかのような気軽さで友梨香が、金髪のその子の元へ駆けて行った。
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