友梨香の言うとおりだ。
確かにリンナのスイングはすさまじいものだった。これが実践で使えるのならば文句なしの四番バッターとして大西を牽引するバッターになるのは明らかだ。しかし、気になるのはスイング後の彼女の様子だ。
全身を蒸気させ、汗を滝のように吹きだし、疲労感で座り込むようでは到底実践では使えない。もしこれが2アウトの状況だったらどうなるだろうか?
リンナがこの打席でアウトとなり、攻守交代。しかし、リンナは示現流による疲労でまともに動くこともできない。当然そんな状態でまともにキャッチャーが務まるわけがない。
仮に打てたとしてもホームランじゃなかったらどうなる? ふらふら歩いてファーストまでたどり着けずにアウトになるなんてことも……。
「それだったら普通に打てばいいのでは?」
わざわざハイリスクハイリターンの示現流を使わずとも普通のバッティングでよいのでは?
ホームランは減るかもしれないが、あのスイングができるフィジカルがあるのならばそれなりに期待できるのでは?
「まあ、確かに怜の言うとおりかもしれないね。うちのチームには俊足の友梨香ちゃんもいるんだから、わざわざホームランを狙わなくても得点できると思うよ」
「いや、それだとアカンねん」
「なぜですの? いや、わたくしが言うのもなんか変ですけど」
「そりゃ、インパクトがない」
友梨香は腕を組むとどや顔で言った。
「イン……パクト?」
「せや。ええか? 大西みたいな弱小公立高校が乙女白球制覇なんて宣言して戦うのならば、そんなありきたりな野球じゃあかん! ウチにはなぜか示現流の使い手がいて、そいつが四番を張ってるってのが大事なんや。
それだけで相手に対して脅威になるからな」
「ちょっ……ちょっと待ってくださいまし」
リンナは呼吸を整えながら、言及する。
「わたくしの役目ってそれですの?」
「うん。今んところは」
「いや、もっとこうありませんの?」
「ありませんの? って何が?」
「チームの顔とか、チームの美少女枠とか、名バッターポジションとか、悲劇のヒロイン役とか色々ありますでしょうに?」
「悲劇のヒロイン……」
怜は思わず復唱してしまった。もしかすると、いや、もしかしなくとも……。
なんと言えばいいか悩む。いや、言わなくてもいい余計な一言であるのはわかるのだが、わざとしているようにしかみえない。
「なあ? リンナちゃん」
「なんですの?」
あ、やっぱりこういうのは友梨香の役目みたいだ。
「リンナちゃんってさ、バカやろ?」
「はあああああああああああ!?!?!? 何を言うのかと思いましたら!!」
リンナはすっくと立ち上がると大げさに踵を返して歩き出す。
「お、おい。どうしたんだ?」
「やっぱり入部の件、なかったことにしてもらいますわ!」
「ちょっ、ちょっと待って……」
店から出て行こうとするリンナを呼び止めようとする怜を友梨香が止めた。
「ほっとけほっとけ見てみ」
「見てみって……あ」
リンナは店をでてすぐのところで力つきたらしくへたり込み倒れた。
友梨香たちも店を出る。
リンナは虫の息で店の前で横になっていた。
「まだ完全に回復してへんのに立つからや。さてと運ぶで。怜ちゃん抱えて」
「あ、ああ」
怜はリンナを抱える。彼女の鞄は由貴が持つ。
「それでどこにいくの?」
「部室や。こいつだけ先に入部届書かせて既成事実作っておくわ」
友梨香の言うとおり、リンナと共に部室へ戻ると、嫌がるリンナに、「ここまで運んであげたのはウチやで」と恩着せがましさを見せつけて無理矢理入部届を書かせた。
もちろん運んだのは怜だし、鞄を持ったのは由貴。友梨香はニヤニヤしながら先頭を歩いていただけなのは言うまでもない。
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