「松浦さんのことかしら?」
チームメンバーに関しては、実は事前に友梨香から受け取っていた。静香が顧問になることは確定済みのような動きだ。
「せや。乙女白球優勝目指すとなったらずっと怜ちゃんに大車輪させるわけにはいかへんやろ? 壊れるし」
友梨香の言うことはもっともだ。高校野球は基本的にはトーナメントを勝ち抜いて行く必要がある。当然、上へ進むにつれて強豪が相手になるだろうし、そもそも大会におけるピッチャーの負担も大きい。
夏の乙女白球は決勝戦まで大体6試合ほどあるとして、すべての試合を怜一人で完投させるなんていうのは、いち野球経験者として、そして指導者としても避けたいことだ。
こればっかりは友梨香には言えないが、静香としては目の前の不遜な少女よりも、高身長の怜の方がのびしろがあるように見える。あの身長であの手足の長さ。そして、柔軟性のある体つき。しっかりとトレーニングをし、技術も磨けば超乙女級は夢でもない。
それだけに投球回数を増やして、彼女の身体を痛めるのは心が痛む。
もちろん、怜自身のためというわけではない。
連投すると当然疲労がたまり、パフォーマンスを十二分に発揮できない。ならば、控えの二番手投手を用意し、交代交代で運用していくのはわりかし間違ってはいないだろう。
近年の強豪校ではプロ顔負けの継投をはじめから前提として、チーム作りをしているというケースも珍しくない。
「なるほどね。まあ、いいわ。そこに関しては私のほうがあなたよりも一日の長があるし。適正も見て考えてみるわ」
「サンキュー! 恩に着るわ」
「思ってもいないくせに……」
「ホンマに思ってるって~。まあ、明日から頼むでー」
友梨香はクケカッカ! と笑うと保健室から出て行った。
嵐のようにやってきて嵐のように去って行った……。
かくして渡辺友梨香の乙女白球優勝に向けた最初の関門「仲間集め」は入学初日で完了した。
顧問も獲得し、これで明日から部活動を再開できる。
ただ、真の目的こればかりはまだ話すわけにはいかない。というよりも、言ったところで未経験者の彼女たちにはわからないだろう。恐らく中学もやっていた怜も知らないだろう。
もうしばらく――このチームがそれなりに形になってきたら、怜や由貴、あと顧問の静香辺りには話しておくべきだろう。
リンナ? いや、彼女は辞めておこう。なんとなく賢くなさそうだ。お嬢様口調なのに。
「さてと、さっさとまずは実戦からやな」
友梨香が強豪校へ行かずに長崎の無名校に来た理由――というよりも、無名校でなくてはならない理由。それは一言で言えば、強豪校では真の勝利を得ることができないからだ。
『今のままでは多分、君は勝つことができないだろうね』
帰り道、友梨香は中学三年の夏のそれを思い出してしまった。
ぶんぶんと頭を振ってそれを払うと大きく息を吐く。
「はいはい。目の前のことからコツコツと、やな」
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