乙女白球

~超乙女級の1番センターと女流ライアン~
totoko
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1年目4月 第19話

公開日時: 2020年10月5日(月) 11:00
文字数:2,063

「お、おい! 友梨香!」


 怜は慌てて制止するが友梨香お構いなくでリンナの元へと駆けて行った。

 彼女のことだまたトラブルを起こしかねん。

 友梨香に遅れて、怜と由貴も二人の元へ近づく。


「……誰ですの?」


 友梨香の声に気がつくとバッターボックスから離れて、訝しげに目を細めると、氷のような冷たい声で金髪の彼女は返事をした。


「そら、わかるやろ? こんなところにわざわざやってくるってことは」


「あー入学式の非常識関西人ですわね」


「おっ! 言うねえ! せやでーウチがその非常識美少女関西人の渡辺友梨香ちゃんや!」


 ブイッ! とぶりっ子のようなピースをする。

 リンナはため息を吐くと無視してバッターボックスへと戻る。投げ込まれる球を軽いスイングで打ち返す。


「なーなー、なんで部室に来てないん? 言ったやろーちゃんと来なさいって」


「いくわけありませんわ。第一、わたくしは野球部に入るなんて一言も言っていませんわ」


 そりゃそうだ。

 怜は口にはせずともリンナの言葉に賛同する。というか、むしろ彼女の反応が普通で今まで入ってきた他の9人がおかしいだけなのだ。


「なあ、友梨香、彼女もそう言っているんだ今日のところは退散しようじゃないか」


「いーやーやー」


「友梨香ちゃんってたまに子供みたいにだだこねるよね……」


 あははと由貴は苦笑い。

 だがこのままだと話は進まないと思う。リンナの背中からはさっさと帰れオーラが見える。

 ただ、友梨香も帰るつもりはなく腕を組んで頬を膨らませる。可愛いな。

 しばらくすると打ち終わったのか、リンナがバッターボックスから出てきた。3人の横を通り過ぎ自販機でミニペットボトルのウーロン茶を買うとぐびぐびと飲む。

 完全に無視されている。


「で、どうしても入らへんのやな?」


「しつこいですわよ」


 友梨香は肩をすくめると、


「そうかー入ってくれると助かるんやけどなー、立花……んにゃ、高橋リンナちゃんと言った方がええかな?」


 高橋?

 彼女の名前は立花リンナだったはず……。わざと言い間違えたようだが……。


「!?」

 

 友梨香の言い間違えにリンナは血相を変えて近づくと、右手で友梨香の襟首をつかむと高々と持ち上げた。

 女子とはいえ片腕で持ち上げるとは何という力を持っているのだ……。


「あなた、どこでそれを知ったのですか?」


 リンナは極力冷静に聞こうと努めていたが、どう考えても、どう見ても激怒している。このまま友梨香を投げ飛ばしてしまいそうだ。


「ちょっ、ちょっ!?」


 由貴はあわあわと慌てふためく。

 いくらなんでも校外で暴力沙汰となると、部活動以前の問題だ。


「お、おい。友梨香。あと……えー立花リンナだったか? 君も何をしているんだ」


「クケカッカ! ええよええよ。怜ちゃん止めへんで」


 ふひひひと気味の悪い笑みを浮かべてリンナを見つめる。


「そのパワーやっぱウチの乙女白球制覇に必要や。やから黙って入部しろや。高橋リンナちゃん」


「あなた!」


「やめないか!」


 さすがの怜も語気を強めてリンナの右腕をつかむ。背の高い彼女ならば多少、パワーに差があってもその腕を下ろすぐらいはできる。

 

「ふん!」


 観念したように手を離す。友梨香は落下するも起用に着地。少し苦しそうな顔をしたが、すぐに何事もなかったかのように立ち上がる。


「しゃーない。そこら辺含めてお話したるわ。どーしてリンナちゃんを誘ったのか」


「なぜ聞く必要があるんですの?」


「お? そんなこと言っちゃってええの?」


「どういう意味ですのよ?」


「そりゃ~」


 友梨香は自販機へ向かうと上にあった小さな箱を取り戻ってきた。中にはスマホが一台ある。


「こんなこともあろうかとここに隠しカメラを置いといたんよ。リンナちゃんの暴力行為がちゃ~んと映ってるでー」


「脅していますの?」


「そうやけど、何か?」

 

 リンナがひと睨みするもそれをひらひらと躱すように右手を振る。

 まさに一触即発。

 というか、いつの間にカメラなんて置いたんだろうか? 友梨香が少し怖くなってきた。

 飄々した姿に毒気を抜かれたのかリンナは勘弁したようにベンチに座る。


「いいですわ。聞いてあげますわ。入部するかはその後考えますわ」


「いや、それはアカンやろ」


「はあ?」


「まず、ここで入部するって言えや。お話はその後や」


「あなたですねえ!」


「カーメーラー」


 友梨香はスマホをリンナの目の前に突きつける。


「安心せえ、聞けばリンナちゃんもウチで野球したくなるわ」


「……わかりましたわ。話してくださいまし」


「ええで~。ただまあ今はまだこの話は二人にはセンシティブ過ぎるから、怜ちゃんたちはちょっと席外してくれへんか?」


「あ、ああ……。由貴、行こう。せっかくだし打っていくか」


「それもそうだね。私も怜ちゃんのバッティング見てみたいし」


 由貴と怜は二人から離れた端のバッターボックスへと向かっていった。

 それを確認すると友梨香は脚を組む。


「まあ、そんなに長くならへんよ」


「いいからさっさと話してくださいませんか?」


「そー焦んなや。そうやな~」


 どこから話そうかと友梨香は考えると、


「よし、単刀直入に言っちゃおう。ウチで野球やれば、島津に復讐できるで」

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