友梨香はすっくと立ち上がる。
「おーい怜ちゃーん! 由貴ちゃ~ん!」
彼女の声に気がついた怜たちは友梨香の元へと戻ってきた。
「その様子だと決まったみたいだな」
「ええ、改めて、わたくしは立花リンナ、小学校の頃は一応キャッチャーしていましたわ。よろしく」
「キャッチャーか。ならば私の球を受けてくれるのは君ということか。私は松浦怜だ」
二人はがっちりと握手を交わす。その手の上に由貴が右手を乗せる。
「わたしは芳村由貴。よろしくね」
「ええ、こちらこそ……。で、せっかくだし見せてくださいますか? あなたのバッティングを」
意地悪そうに口角を上げ、リンナが友梨香の方を見る。
「ウチ? 別にええけど」
そう言うとバッターボックスに入り、お金を入れる。
「やけにあっさりですのね」
「別にこれから嫌ってほど見ることになるんやし。せっかくやし3人には先行で見せてやるわ。これが超乙女級のバッティングや」
ヘルメットを被り、左バッターボックスへ立つ。
怜は友梨香のバッティングは映像で見たことはある。おそらく野球好きの由貴もだろう。だが、こうやって生で見るのは初めてだ。
友梨香のバッティングフォームはオープンスタンス。ただ、非常に極端なオープンスタンスだ。
軸足となる左足はピッチャープレートと平行。これは基本的な位置だが、右足が大きく異なる。上半身が完全に開ききっている。へその向きは、眼前にあるピッチングマシンをしっかりと向いている。それに合わせるように右足はつま先をまっすぐピッチャー方向へと向けている。
バットを持つ両腕だが……生で見るとこれほどか。けだるそうにバットの先端を左肩に軽く乗せる。端から見ると構えているのかどうか定かじゃない。正直やる気が感じ取れない。
あんな極端なオープンスタンスで中学時代ヒットを量産していたのだから不思議なものだ。
ここのバッティングセンターはピッチングマシンの前に映像パネルが貼っており、実際のピッチャーの投げる映像と合わせてボールが飛んでくるようになっている。
映像のピッチャーの振りかぶりに合わせて、友梨香は動き始める。構えている時の緩慢な雰囲気から一転。右足をすっと上げる。ずっと正面を向いていた上半身が入る。
コンパクトなスイングでボールを捉え綺麗なセンター方向へ持って行った。
ああ、確かにあの新聞記者が称していた「打撃はイチロー」というのはあながち間違いではないかもしれない。
今はマシン相手の打撃だが、インパクトの後からの移動がとてもスムーズに見える。実際の試合だとバットに当てたと同時に走りだしていくのだろう。
その後も右へ左へ自由自在に打ち分け、1プレイ分すべてヒット性の当たりで終えた。
「ふ~マシン相手やけどやっぱ気持ちよく打てるってのはええもんやな。ほい、ほな次はリンナちゃんや」
「わたくしは先ほどまでやっていましたし結構ですわ」
「いやいや。ウチが見たいのはあんな軽い運動みたいなバッティングやなくて、リンナちゃんの本当のバッティングや」
「本当のバッティング? 友梨香ちゃん、どういうこと?」
「なぜウチがここまでリンナちゃんにこだわるのか、それは簡単や。どうせ試合ではこれがリンナちゃんの役割なんやからもったいぶらずに見せてよ。どっから手に入れたのかしらへんけどさ」
友梨香はバットの持ち手をリンナへ差し出す。
「島津示現流打法、できるんやろ?」
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