乙女白球

~超乙女級の1番センターと女流ライアン~
totoko
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1年目4月 第24話

公開日時: 2020年10月15日(木) 15:00
文字数:1,633

 かくして大村西高校女子野球部の部員集めは友梨香の尽力? もあり、入学初日で終了した。


「いや、というよりも長々と部員集めやってる場合やないやろ。テニプリ形式で試合試合の連続の方がええと思うんやけど」


 時たま友梨香が言っていることがよくわかっていない怜であったが、それはそれとしてこうやってまた野球を始められるということが何よりも嬉しかった。

 今度は絶対に失敗しない!

 なんて意気込んでいたのだが、


「いやいや、だから全部自分で背負うことないやん。ウチらがいるし、何よりもウチがいる」


 とあっさり返されてしまった。これが彼女なりの気遣いなのかは定かではないが、肩の力が幾分か抜けたかもしれない。明日からの部活動へのモチベーションが上がった。

 怜が現在住んでいるのは大村市の親戚の家である。昔からの馴染みでもあるので全く知らないわけではないし、親戚も息子が結婚し夫婦だけだったので、新しい娘が来たようだと喜んでくれていた。

 帰宅後、野球部に入ることになったと話すと、「怜ちゃんは昔から野球が上手だったからね」とやっぱり好印象。部活も自由にできるみたいだ。

 自室へ戻ると、クローゼットの中にしまっておいた段ボールを運び出す。引っ越す際に最後まで持って行くかどうか悩んでいたが、今となっては良かった。

 ビリビリとガムテープを剥がす。段ボールの中に入っていたのは一個のグローブと、ナイロン製の袋に入れたスパイクであった。ついこの間まで怜が使っていたものだ。あの試合から全く触っていなかったので土汚れがついている。


「すまなかったな。綺麗にしてやるからな」


 怜は新聞紙を広げてその上にスパイクを置く。右手に持った布でグローブの手入れを始める。ここら辺の道具は部室に置いてあったので黙って借用させてもらった。明日返すことにしよう。

 途中、風呂に入ったり夕食を摂ったりで中断したものの、怜が床についたのはスパイクとグローブが新品同様にまで磨かれた後だった。





「というわけで、部員とラッキーなことに奴れ……じゃなかったマネージャーも入ったわけやから、顧問兼監督頼むわ」


 リンナに入部届を書かせ、怜たちと解散したあと、友梨香は一人保健室へと向かっていた。

 生徒が誰もおらず、養護教諭の明石静香だけだったのはラッキーだ。

 友梨香は近くのベッドに腰掛けると足を組み、ばつの悪そうな表情をする静香にそう言った。


「えっとー渡辺さんだったわよね?」


「そこは親しみをこめて友梨香ちゃんと言って欲しいわって2週間前にも言ったやん」


「あのねえ……」


「まあまあそんなことはどーでもええねん。とりあえず後は顧問が入れば正式な部活として、活動再開できるんやから頼むわ」


 友梨香は部活動申請用紙を持って静香の前に置き、顧問名と書かれたところを指さす。その様子は何か契約を急がせるビジネスマンのようでもある。

 静香は諦めたのかため息を吐き、こめかみを数回もみほぐす。ラフに着こなしたシャツからは怜にも負けず劣らずのたわわなそれが除き見える。

 いくら今日は入学式で、放課後だからとはいえ教師としてそれはやや煽情的ではないだろうか? 思春期まっただ中の青少年が見たら、性少年になってしまう。


「はぁ……。わかったわよ。確かにそういう約束してたものね」


「そういうことや」


 静香は机に置いてあるボールペンを取り出しサラサラと名前を書く、そして、自分の印鑑で判をすると「ん」とぶっきらぼうに友梨香に返した。


「まいど~」


「しかし……よく知ってたわよね。私が顧問兼監督だったってことは」


「逆にしてなかったらおかしいやん。大学野球の名選手がプロ入りせずに保健室のエッチなセンセしてるのは意外やったけど」


「後半の部分は余計よ……」


 こほんと咳払いをして空いていたシャツの胸元を閉める。


「なあ、せっかくやし聞いてもええか?」


「何を?」


「なんでプロ入りせえへんかったん? センセの実力なら引く手あまたやったやろ?」


 静香は視線をそらし、窓を見る。沈みかけている夕日がまぶしく、目を細めた。

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