やがて杉山圭子もやって来た。
「ここが女子野球部で……君が噂の渡辺友梨香さんだね? ぼくは杉山圭子、よろしく」
爽やかな少女がポニーテールを揺らしながら部室に入ってくる。友梨香を見つけると指を指した。
友梨香はすでにやってきた圭子のことよりもその少し後ろにいる、背の低い巨乳の少女に対して眉をひそめた。
「誰や?」
「いや、さっき言ったじゃん。ぼくは……」
「おまえやない。おい、そこの後ろのロリ巨乳。誰や?」
「誰って彼女が最後のメンバーじゃないのか?」
「んなわけあるかい。似てんのはおっぱいの大きさぐらいや」
怜の疑問に友梨香は首を振る。友梨香の声におどおどと圭子の背後からやってきたのは小柄な少女。制服のリボンからすると怜たちと同じ一年生なのだが……。身長がなかなか低い。150cm程度か。そして、なるほど確かに胸が大きい……。
「えっとーそのー……」
友梨香の呼び出しでおどおどしている。なんとも小動物的だ。抱きしめたくなる。背の高い男性は自分より低い女性を好きになると聞いたことがあるが、怜も女性ではあるがその気持ちがわかってきた。あーこれが守ってあげたくなるというやつか。といっても怜からすれば大概の女子はみんな自分よりも背が低いので守ってあげたくなるというか、後ろからそっと抱きしめたくなるのだが……。
友梨香はこの子より背丈は高いがなんというかこの小生意気なところが愛おしくみえてくる。
「そんなに緊張しなくていい。皆、同じ一年生だ」
怜の言葉に緊張が和らいだのか、ほっとを息を吐く。
「わたしは根智郁といいます」
「根か、珍しい名字だな」
「はい、なのでコンチカと呼んでもらえると嬉しいです」
「ほんで、コンチカ。自分、何しに来たん?」
「あ、そうでした! わたし、マネージャー希望です!」
「マネージャーか。確かにいるとありがたいかもしれないな」
マネージャーがいれば日々の練習のサポートも頼めるし、道具の整備もお願いできる。無論、彼女一人に任せっぱなしにはしないがそれでもこういうところを補佐してくれる存在はいるだけでありがたい。
「どうだ? 友梨香? 私は智郁がマネージャーとして来てくれると助かるのだが」
「なーんで怜ちゃんはそうやってすーぐ呼び捨てで呼んじゃうかなー?」
ぶつぶつと何か言っているが、ふむと軽くうなずくと、
「コンチカ。野球はどれくらいわかる?」
「えっとー基本的なスコアはつけられますし、道具の整備もある程度は。父が野球好きでその影響ですね。あ、掃除洗濯炊事には自信ありますよ!」
「よし、採用」
「えらいあっさりだね」
「当たり前や。大体入学式の日ですでに13話も使ってる時点で大分異常やねん。アニメやったら1クール終わってんねんで」
「何の話をしているの?」
由貴の突っ込みに咳払いでごまかすと、
「ほなこれで一人を除いて全員そろったな」
「ちょっと待ちなさいよ。結局、8人しかいないじゃない。野球って9人でやるスポーツでしょ? もう一人はどうすんの?」
「クケカッカ! 詩織ちゃん安心せえ。それはこの後、捕まえてくるわ。その前に改めて、この女子高校野球の世界ってのを教えておこうと思うわ」
「世界?」
緑の質問にニカッと白い歯を見せる。
「せやで、今の女子高校野球の縮図とか何やらや。まずはそれを知っておいた方が何かとモチベーションも出てくるはずやろ」
そう言って友梨香は鞄から一冊の冊子を取り出す。
表紙には「全国女子高校野球理事発行 乙女白球全書 2020年春号」と書かれてある。
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