名探偵、峰務シャロ。言わずと知れた本物の探偵である。幾多の事件を解決に導いた女子高生である。新聞や雑誌にも何度も取り上げられ、高校入学が決まったら『ついに、女子高生探偵誕生!』なんて、見出しがつけられたほどだ。
その探偵としての観察眼をもって野球では相手の選手の癖、動き、ピッチャーの調子、天候、ありとあらゆる変数を頭の中に入れ、瞬時にベストな回答を見つけ出してチームを支えてきた。
そんな彼女が高校へ進学し、野球部に入ったのだ。すぐに超乙女級に選ばれるのは必然だろう。なにせ、彼女以上にキャッチャーとしての資質がある選手は他にいないのだから。
「なんたって、この渡辺友梨香があいつと練習試合をするのを断ったほどやからな。一回でも試合してみ、あっちゅうまにウチのことなんか丸裸や」
「確かに彼女以上のキャッチャーは存在しないだろうな」
「せやな。間違いなくこれからの浜女は守備型のチームとして脅威になるはずや」
「それでこの3人にあんたを加えた4人が一年生の超乙女級ってこと?」
「そーゆーこっちゃな。まあ、全国制覇するにはウチ以外の3人との勝負は多分避けて通れないと思うで」
「名探偵に、島津示現流、それに友梨香ちゃん並の天才プレイヤー……本当に勝てるのかな?」
不安がる由貴の背中をバンバンと叩く友梨香。
「クケカッカ! な~にを心配してんねん。ぶっちゃけた驚異は上杉とシャロぐらいや。島津の脳筋はなんともないで!」
「相当な自信だね」
「そりゃそうよ、圭子ちゃん! 理由は簡単。ウチやから」
「……君が言うと本当にそう思えてくるよ」
怜は観念したように笑う。本当つくづく絵になる女の子である。彼女が微笑むだけでこの場にいる大概の女子が見惚れているのだ。もちろん、怜はそんなことなどつゆ知らず。そういえば、と友梨香に質問する。
「もう一人のメンバーに関してはどうするつもりなんだ? 彼女がいないと9人にならないからチームは完成しないと思うのだが……」
「あと顧問も必要よ。あれなんでしょ? 野球部今顧問いないみたいじゃない? 職員室で少しだけ話題になっていたわよ」
「立花リンナちゃんに関してはこれから会いに行くとして、顧問の方は詩織ちゃんの言うとおりなんよな~。一応、候補というか前任というか前監督というかそういう人はおるんやけど……」
ううむと腕を組む。
「まあ、考えても仕方ないし、ひとまず今日のところはリンナちゃんとこ行こか。ウチと……怜ちゃん、あとは由貴ちゃんの3人でいくで」
「え? わたしも?」
「せや。守備の要としてリンナちゃんのそれをみてほしいんよ」
「残りはどうしたらいいの?」
「残りに関しては……おい、コンチカ。今からみんな連れてスポーツ店行ってきて全員分の道具一式探してこい」
「わ、わかりました! けど、お金は?」
「おーせやったせやった! ほい、これ軍資金用の通帳。番号は3579や」
そう言って鞄から一冊の預金通帳を智郁に渡した。
「これから部費をはじめとする金の管理はおまえがせえ。ここの金もその一つや。遠慮せんと自由に使えってええからちゃんと道具揃えてこい。おまえならある程度わかるやろ?」
「ま、まあ一応……って!?!?」
通帳を開くとその額に智郁は目を見開いた。そして、数字と自慢げな顔をする友梨香を交互に見やる。
「ゆ、友梨香さん。これは……」
「んあ? 中学の時からコツコツと投機で稼いだ金や。高校でやりたいことのためにな」
そのやりたいことというのが、地方の学校で一からチームを作り乙女白球を制覇するということだったのだ。そのために友梨香は中一の頃から様々な方法を用いて軍資金を貯め、今こうやって使うことにしたのだ。
「クケカッカ! 砂の栄冠もびっくりやろ? 準備は念入りにってことや」
独特の笑い声を出すと怜と由貴を連れて部室を出て行った。
「ほんじゃあ本日の部活動はこの辺でかいさーん! 明日からよろしくなー」
通帳片手に呆然とする智郁に七絵が近づく。
「なによ? そんなにすごいの……って、え? 何これ? いち、じゅう……1千2百万!?」
「もしかしたらウチらすごい計画に巻き込まれたのかもね~」
悠はのんきにスマホをいじるとそうつぶやいた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!