「あー知ってる知ってる。どーせあれやろ? 『私は入るつもりは』ってやつやろ?」
見事に見透かされた。
まさしくその通り。怜は観念したように息を吐く。
「ああ、その通りだ。私は去年の夏の大会であんな負け方をした。私のせいで彼女たちの夏を終わらせてしまったんだ。
そんな私が高校で悠々自適に野球をするわけにはいかない」
「あほ」
友梨香の返事はその一言だった。
あまりのあっけなさにぽかんとしていると、友梨香は続ける。
「あのな。その理屈やと、全国大会の優勝投手以外は野球やったらあかんのか?」
「いや、そういうつもりでは……」
「でもそういうつもりやん。今の理屈やと」
有無を言わせないド正論に言葉を窮する。確かに友梨香の言うとおりである。
「ぐ……。いや、だが確かに君の言うとおりではあるが……」
それでもなお食い下がる怜に友梨香は呆れる。
「ったく……。あのな。大体責任だかなんだかを感じて、東京からここまでやってきたんやろ? それでええやん。それともあれか? 東京出る前に、かつてのチームメイトに野球やるなとか言われたんか?」
もちろんそんなこと言われていない。
むしろ怜にスカウトが来た際には、応援されたぐらいだ。
「もちろん、そんなことは……」
「ほら、それならええやんけ。なーにを気を使っているんか知らんけどさ」
友梨香の歯に衣着せない言葉にただただたじろぐ。
「うちとしてはとーちゃんかーちゃんの元を離れてやってきたって時点で十分禊ぎはすんだと思うんやけどな」
「いや、それはなんというか……プライドというかなんというか……」
「あほか。プライドで飯が食えるわけないやろ。そんなつまらんプライドにしがみついて何にもできへんのなら、捨てちまえ邪魔やじゃーま!」
そこまで言い終えると友梨香は立ち上がり怜をじっと見つめる。
かわいらしい顔ではあるがその目は真剣そのものだ。
以前にテレビや雑誌で見たことのある「渡辺友梨香選手」の姿だ。
「ええから、野球するで。安心せー入学式んときも言ったやろ? 三年の夏までに必ず乙女白球優勝するって。そしたら、怜ちゃんは優勝投手やで」
そして、怜の手をぎゅっと握る。
「うちはな、怜ちゃんの力が……いや、怜ちゃんが必要なんやねん!」
それは愛の告白とも言わんばかりの情熱であった。
「いい……のか?」
「何が?」
「私は再び野球をしても……」
「だーからええって言ってるやろ! 安心せえや。たとえ100点取られてもうちらが101点取り返したるから」
女子中学野球のトップオブトップともいえる友梨香からそこまで言われるのは……やはり嬉しい。
ここまで信頼というか期待されているのならば……。
「わかった。私の力でよければ十分に君の力となろう」
多分、怜も思ってはいたのだ。
ここまで来たのだから野球は続けたいと、今度彼女たちと会うときは、成長した姿を見せる時だ、と。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!