乙女白球

~超乙女級の1番センターと女流ライアン~
totoko
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1年目4月 第28話

公開日時: 2020年12月19日(土) 14:00
文字数:2,113

 静香は友梨香を放すと、再び部員の方へ向き直す。


「うう……」

 

 長身の怜の顔がどうしても視線に入る。顔が良すぎるのも目に毒だ。


「改めて、よろしくね。まあ、監督って言っていいし、普通に先生でもいいし。そんなに気にしなくていいわよ」


 友梨香が彼女を監督に選んだのはこういうところだ。割かし年が近いというのもあり、親しみやすく、ここら辺の上下関係をさほど気にしない人柄は正直やりやすいと感じたからだ。それでいて、野球経験もあり指導者としての担保も取れる。


「まあ、私も私で仕事あるから毎日ずっと教えるってことはできないけど、なるべく顔を出すようにするから、そこは安心してね」


「なんて言ってるけど、養護教諭なんて放課後は暇なんやから多分毎日来るで……イテッ!」


 クケカッカ! と笑いながら話す友梨香に静香は再びげんこつを食らわせた。


「あのねえ、先生ってお仕事はあなたの考えている以上に大変なのよ~」


「わーたわーた」


 閑話休題と言わんばかりに咳払いを一つ入れると、


「で、静香ちゃんにはそんな感じや。まあ、練習試合とか何とかはウチが取り付けたりはできるけど、どーしても大人の色々が入った時には力を貸して貰う感じになるな。で、ぶっちゃけここからが大事なんやけど……。

 静香ちゃんは大学時代にめちゃくちゃ活躍してた選手やねん。『静御前』なんて大層なあだ名つけられたレベルのピッチャーや」


「ピッチャー! ということは……」


 怜が目をキラリと輝かせる。


「せや。静香ちゃんには怜ちゃんと、あともう一人ピッチャーを育てて貰おうと思ってる」


「もう一人のピッチャー……?」


 予想外の内容に怜は困惑する。他の面々は特段リアクションはないが、由貴は察したのか「あーなるほど」とぼそりとつぶやいた。


「ま、待て! 友梨香。ピッチャーは私がいるだろう! 私では不安ということなのか!?」


 珍しく声を荒げた怜に対して、呆れたようにため息をつくと、


「アホか。んなわけないやろ。てか、大体、怜ちゃん全試合完投する気やったんか?」


「当然だ」


「アホ。んなことしたら壊れるやろ。そうならんための二番手ピッチャーを用意すんねん。大会は長丁場になるんやから交代交替で使って行って少しでも負担を減らす。割と当たり前のことや」


「そう……なのか?」


「この子の言うとおりね。中学と違って高校になると選手のレベルもプレイの質も格段に上がるわ。それに大会の試合数も多いから一つの大会でずっと同じ選手が投げっぱなしというのは、正直おすすめしないわね。

 だから、怜さんの代わりに先発をする人を用意して、後半、投げて貰ったりとかそういう扱い方をするのよ」


「なんにせよ、誰がセカンドのピッチャーだとしても、うちのエースは怜ちゃんなんやからそこは胸を張ってくれへんと」


「なるほど、そういうことだったのか……。すまない。思わず声を出してしまった」


「かまへんかまへん。むしろ、思ったことははっきり言ってこ。チームってのはそういうもんや」


「あの~」


 おずおずと智郁が手を上げた。


「ん? コンチカどうしたん? あ、こいつはコンチカって言って奴隷や」


「マネージャーですわよ」


 即座にリンナが突っ込む。


「それで当面の目標はやっぱり夏の県大会でしょうか?」


「そういえばそれ確認していなかったわね。どうなの?」


 静香に尋ねられて、友梨香はきっぱりと答える。


「んにゃ。今年の夏の県大会はでないで」


「ええ!?!?」


 友梨香を除くすべての人間が声を揃えた。


「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。あんた、大会出ないの? 全国行くって言ってたでしょ?」


「あーほ。今年の夏は出ないって言ってんねん。さっきも言ったやろ。二番手ピッチャーもまだ用意できてへんし。そもそもここのほとんどが野球素人や。そんな連中で大会全部乗り切れるとは思ってない。1試合・2試合はどうにかできても絶対どっかでぼろがでる」


 友梨香の冷静な解説に一同のざわめきが落ち着く。


「とはいえ何もせえへんってことはないで。しっかりと練習しつつ、合間合間に練習試合を挟んで実践はする。これで秋大会を目指してまずは春のセンバツ出場を目指す」


「なるほどなるほど~まずは基礎固めってことだね~」


 悠は相変わらずの口調だが、理解はしたようだ。


「そゆこと。というわけで五月の頭に練習試合入れといたから」


 …………。


「ええ~~!?」


 またしても一同驚愕。何より焦ったのは顧問の静香だった。

 

「ちょっとちょっと。それ私聞いてないわよ! いつしたのよ!?」


「えっとー一週間位前やったかな?」


「あなた入学してないじゃない!」


「うん。やから静香ちゃんの名前借りて勝手に向こうと連絡とった」


 静香は顔を押さえると、


「あんたねえ~……」


 うなる静香を無視して、友梨香はパンパンと手を叩くと、


「というわけで、4月いっぱいは基礎連や。筋トレと守備練習が中心。二番手ピッチャーは夏ぐらいを目処に用意しようと思ってる。

 やから、今度の練習試合は怜ちゃん。当然、怜ちゃんが先発や。頼むで」


「ああ! 任せてくれ!」


「というわけで、くそみたいに長かった4月編はここで終わりや。次からいきなり5月やで。ここからどんどんテンポ上げてくからよろしく~」


「友梨香ちゃん、誰に言ってるの?」

というわけで、4月編というなのプロローグ終わりです。

次回からいきなり5月。

練習試合から始まります。

その後はぽんぽんテンポ良くやっていきます。多分つきごとに試合したりしなかったり

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