「てか、断ったとしても無理矢理入部させて、無理矢理投げさせてたけどな」
恐ろしいことを簡単に言ってのける……。
しかしこの女ならばやりかねん。だが、怜には一つ疑問があった。
わりかし協力的である自分でさえ過去のあれこれがあって躊躇していたというのに……。
「ちなみにだが、他のメンバーは野球経験者なのか?」
「んにゃ」
さも当然のように素っ気なく答える友梨香に口をあんぐりさせる。
「んにゃって、野球未経験者集めて乙女白球を勝つと言っているのか君は!?」
「せやけど、なんか問題あるん?」
「問題って……」
問題というか、なんというか……。当然ながら乙女白球常連校なんて中学校どころか、小学校の時からやっている連中ばかりだ。そしてその中のさらに才能がある選手が、全国制覇をしプロへと進んでいくのだ。
もちろんできないことはないだろうが、相当な茨の道であることは言わずもがなだ。
「まあ、そこらへんの疑問はメンバー集まったらちゃーんと説明するわ。少なくとも運動部素人ではないから安心してええで」
ニコニコ笑う友梨香は思い出したようで、「あ」と言うと、入学式の時に出したメンバーが書かれたメモ用紙を怜に見せる。
「この立花リンナって子は経験者。ただまーちょ~っと事情が複雑なんよなー」
「事情?」
「うん。こればっかしはさすがに本人の許可なく話すのはさすがのうちでも厳しいな」
「君でもそこらへんのモラルは持っているんだな」
「なんやねんそれ!」
ぷんぷんとわざとらしく怒る。
うーん、本人は言えないが正直友梨香はめちゃくちゃ可愛いと思う。怜とは真逆だ。自分はこの身長だったり顔つきだったりのせいで可愛いとはほど遠い。
そう思うと友梨香のような天真爛漫――傍目には――な子というのはなんというか憧れてしまう。
さきほどの由貴も年相応のかわいらしさはあるが、友梨香のどこかいたずらっぽさの残る子供っぽいところは彼女だけが持つ唯一無二の魅力だろう。
なので思わず彼女の黒髪に手を伸ばし軽くなでる。
「ふぁ!?」
素っ頓狂な声を出す友梨香に対してできる限りのいい笑顔を作る。
「いや、君は可愛いな、と」
ついつい口に出してしまった。
まあいいか嘘でもないし。
「ななななななな……」
ふるふると震える友梨香、実際にはそんなことはないのだが、漫画やアニメでよくある髪がふわあと浮き上がるアレを感じた。
「何いってんねん!! ばーか! ばーか! 怜ちゃんの女ったらしいいいいいいいいい!!」
そう言って友梨香は教室を飛び出していった。
「……っておい、女たらしとはなんだ女たらしとは!」
慌てて後を追いかけようと教室のドアを開けると、
「きゃっ」
怜のふくよかな胸がクラスメイトの女子に当たってしまい、バランスを崩しそうになる。
「危ない!」
とっさの反射神経で腕を伸ばし、後ろへ倒れそうになるクラスメイトの肩を抱き寄せる。右側にまとめたサイドアップがぽんとはねる。
なんとか後頭部直撃なんていう事故には至らずよかった。
「ふう、大丈夫か?」
「は、わ……はわわわわ」
クラスメイトは真っ赤な顔で目をぐるぐると回しガクッと力つきる。
「お、おい!!」
何事かと他の生徒も集まってきた。これだと自分が彼女に何かしたように思われかねん。何を隠そう松浦怜はこの身長体格から、どうも怖い人のイメージがついてしまっていたのだ。
せっかく長崎まで来て誰も知らないところにいるというのに、入学早々から変なイメージを持たれたらたまったものではない。
「おとなしくしていてくれ」
怜は空いている左腕を彼女の膝裏へと回し、抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
その状態で友梨香が行った方向とは逆――保健室のある方向へと駆けて行く。
怜の体格や筋力を持ってすれば同い年の女子をお姫様抱っこして走るなど造作もないことだ。
こげ茶色のサイドアップのクラスメイトは時折、「はわわわわ」と言ってはいるものの、はっきりとしていないようだ。
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