乙女白球

~超乙女級の1番センターと女流ライアン~
totoko
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1年目4月 第15話

公開日時: 2020年9月25日(金) 15:00
文字数:2,221

「ほい」

 

 友梨香は冊子を近くにいた圭子に投げ渡す。


「これは理事会が発行している四半期ごとの冊子や。通称「全書」。書いてる内容はインタビューだったり、トレーニング法だったり色々なんやけど……圭子ちゃん、その付箋のところ開いてみ」


「う、うん」


圭子の周りに友梨香以外のメンバーが集まる。

 言われるがままにそのページを開くと。たくさんの名前が書かれた名簿のようなページになっている。右上には「今期選手評価」と書かれてある。

 B、A、そして、『超乙女級』と書かれている。


「うちらが気にするのはこっちやな。うちらは簡単に『ランク』って言ってんねんけど、こうやって四半期ごとに理事会が選手のランクを付けしてんねん。まあ、大概はスカウトの評価だったり、他校の戦力分析に使ったりとかしてるんやけどな」


「へえ~こういうのがあるんだ。それでこれが何かあるの?」


「ぶっちゃけ、BとAは気にすることないわ。せいぜい、野球がお上手なやつ程度やから」


 由貴の質問にあっけらかんと答えると、冊子を指さして、


「そこの超乙女級の部分に関しては別モンや。ぶっちゃけ超一流の中の超一流だらけや。ここに関しては多くても18人までしか選ばれへん」


「へーそんなに少ないんだ……あれ?」


「お、悠ちゃん気がついたん?」


「そりゃ嫌でも気がつくよ。何? この『超乙女級のキャッチャー』とか『超乙女級の三番バッター』とか?」


「そっ、これが超乙女級や。よーするに各ポジション、各打順につき一人だけが選ばれる――まあ、ベストナインとゴールデングラブを合わせたようなもんや」


 友梨香は続ける。


「大概は2年と3年が中心なんやけどな。たまーにおんねん。この時期からすでに超乙女級になってる1年生ってのが」


「なあ、友梨香、どうして笑いをこらえるように話しているんだ?」


「あーすまんすまん。どうしてもおもろくて……」


「ん? 『超乙女級のセンター:渡辺友梨香』、『超乙女級の一番バッター:渡辺友梨香』……え、マジ?」


 ゾッとした顔で友梨香へと目線を移す詩織。ついに我慢の限界になったのか友梨香は大爆笑をする。


「そーなんやねん。強豪校のスカウトぜーんぶ蹴ったウチがちゃんと入ってんねん。まあ、当たり前といえば当たり前なんやけどな。ぶっちゃけ、今の女子高校生でウチより優れたセンターも一番バッターもおらへんからな」


「でもそれだけじゃないんですよね? 言いたいことって?」


「おー、コンチカ、鋭いな。今から話すのが本題や。ぶっちゃけ入学時からすでに超乙女級に選ばれてる一年生ってのはどこもかしこも異常やねん。ぶっちゃけ数十年に一人って言われても過言ではないねん」


「ということは他にもいるのか? 一年生で超乙女級の選手が」


「せやで、今のところウチを含めて4人おる。で、この4人がしばらくの女子高校野球、もしかするとその先も中心になるって言われてんねん。ぶっちゃけウチも含まれてるからちょっとこっぱずかしいけどな。ただ、一年で選ばれるってことはそれぐらいの価値というか存在感があるってことや」


 そういうと友梨香はその一年生の超乙女級を一人ずつ紹介し始めた。


 一人目の超乙女級は『超乙女級の五番バッター:島津弘美しまづひろみ』、鹿児島の名門「島津学園高校」の一年生である。友梨香とも中学時代に何度も対戦した「島津四姉妹」の次女である。

 その女子高生離れしたパワーと島津家伝統の打法「島津示現流」によりホームランを量産。姉の「島津義乃しまづよしの」と同じ島津学園に入学。そして入学と同時に超乙女級として選出された。また、双子の妹である「島津歳華しまづとしはな」も超乙女級ではないが、優秀な選手である。

 ちなみに弘美のポジションはファーストだが、今は四女である「島津愛家しまづあいか」が中学三年生で不在のため、ピッチャーもやっている。

 ついたあだ名は先祖である島津義弘の異名から取られた「雄武英略ゆうぶえいりゃく」だ。


「えっと、島津示現流……打法って確か……」


「お、さすがは由貴ちゃん知ってんねんか。そ、あの脳筋一族が先祖代々使ってるバッティングスタイルや。一振一殺いっしんいっさつをモットーにしたアホンダラ打法や。よーするにホームランか三振かというアダムダンみたいなもんや。しかもおもろいことに一打席で一回しかそのスイングはできひん」


「それってつまり、もしその打席で空振りでもしたらその打席はおしまいってこと?」


 七絵の質問に友梨香も呆れた顔でうなずく。


「そーいうこっちゃ。ただ、それでも当たれば基本はホームランやからな。その中でも弘美は別格や。ありゃ全身筋肉みたいなもんで示現流の完成形の一つって言われてる」


「そこまでの選手ならば超乙女級と言われても間違いないか」


「あ、あの、でもそれなら四番じゃないの? 野球の一番すごいバッターは四番って聞いたことあるんだけど」


「そんな緑ちゃんの質問に対して存在しているのが、次に紹介する『超乙女級の四番バッター』であり『超乙女級のサード』であるこいつや。ぶっちゃけ一年生の超乙女級の中ではウチと同等レベルの選手。言ってしまえば確かな天才や。というかそもそも、一人の選手が表裏、つまり攻撃も守備もどっちも選出されるってのはまれやねん。選ばれても3年生がざらや」


 暗に「1年生でそれに選ばれている友梨香も相当すごい選手だ」と言っているようなものだ。


「で、話戻すけど、こいつがいる限りあの弘美バカが四番として選ばれることはないで。それぐらい突出した奴や。越後学院えちごがくいん上杉龍妃うえすぎたつき――『英雄』なんて大層なあだ名で呼ばれてるわ」

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