「つーわけで揃ったみたいやな」
翌日。
部室前には野球部9人全員と、マネージャーの智郁が揃っている。昨日の今日であったので練習着は用意できず、ソフトボール経験者の圭子は中学時代の、それ以外は学校指定のジャージ姿だ。
「うんうん。ええな。全員揃っていると気持ちがええ!」
友梨香はご満悦のようでニコニコ笑顔だ。
「まだ練習はしないのか?」
「まあまあ慌てなさんな。顧問兼監督の紹介がまだやろ?」
「え? 決まったの?」
「決まったというか、決めたというか、無理矢理決めたというか……」
友梨香はごにょごにょと口ごもる。
事実、顧問兼監督は静香だし、昨日ちゃんと話したし問題はない。さらに言うと、今日だって空き時間に保健室によって彼女に声はかけた。
「あんた、それ大丈夫なの?」
詩織が訪ねるが、ふははと答えるだけだった。
「大丈夫大丈夫! ちゃんとサインはもらってんねん。ついでに練習場所も確保できているし」
ここら辺はさすがの友梨香であった。
女子野球部が半ば休部状態にあってから、グラウンドの大半は男子野球部のものだった。正確には今まで女子が使っていた部分を男子が間借りしていただけだが。
友梨香が真っ先に行ったのはその練習場所の確保であった。
先んじて、女子野球部復活を流布し、空き時間に男子野球部の主将と顧問とご相談。双方合意の上で、本来の女子野球部の練習場所を取り戻したのだ。
渡辺友梨香が他の超乙女級の選手群と違うところはそこにあるだろう。
裏の商売というか、根回しというか、暗躍という言葉が一番似合うのは彼女かもしれない。とにかく、実際のプレイだけじゃなくて、こういう盤外戦術をやらせれば恐らく、右に出る者はいないだろう。
「いつの間に……」
唖然とするリンナ。そりゃそうだろう。入学式から何をどうやってそこまで話を進めたのだろうか……。
怜としても不思議だが、まあそこは突っ込むだけ野暮というやつだろう。
しばらくすると、
「ごめんね~ちょっと職員会議が長くて」
静香が申し訳なさそうに部室に入ってきた。
「この人が顧問の先生なの?」
圭子が誰に聞くわけでもなくつぶやいた。
「せや。確かにちゃんと紹介してへんかったな。そ、我が、大村西高校の女子野球部の顧問兼監督の明石静香ちゃんや!」
「だから、先生と言いなさい!」
ごちんと友梨香にげんこつを食らわせた。
この姿に怜は実はおお! と感心した。あの傍若無人な友梨香に手を出す人がいてくれるとは……。いや、手を出すことの是非は置いておくとして、誰かストッパーがいるとこれだけで楽になるはずだ。
怜はふふっと微笑むと、静香に向かって手を伸ばす。
「監督、と呼べばよろしいですかね? 私は、松浦怜です」
「……」
「……監督?」
静香は怜の顔を見て、固まってしまった。
そして、友梨香の首根っこをつかむと、
「ちょっと、ちょっと、大丈夫なの? あの子天然よ。本当に天然よ。大丈夫? 部内に不和起きたら、乙女白球どころじゃないわよ!」
「それやねん! あかんって、怜ちゃん無自覚イケメンなんやねん!」
友梨香と静香が危惧しているのは未経験者多数の野球部ではなく、怜の女たらしであった。
すごい久しぶりです。
コメントもなんもこなくてモチベが下がっていて……。
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