乙女白球

~超乙女級の1番センターと女流ライアン~
totoko
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1年目4月 第3話

公開日時: 2020年9月3日(木) 10:00
更新日時: 2020年9月5日(土) 13:07
文字数:1,425

 友梨香の通う大西高校は一学年5クラスの地方にしてはそこそこ大きい高校である。逆に選択肢が少ない分集まりやすいのだろうか……。

 とはいっても基本的には地方の公立進学校であり、特別何かの部活動の強豪校ではない。運動部は存在しているが、どちらかというと青春の思い出作り程度の存在だ。

 先導する前のクラスの後を付けるように、友梨香たちB組は体育館を目指す。

 体育館の入り口前に到着すると、学年主任を名乗る別の教師が大声を出す。


「これから、入場していくが、A組から入場する。そして、横一列に椅子があるので空席がないように詰めて座るように」

「んなもん言わんでもわかるやろ……」


 友梨香は聞こえないように毒づく。どうにも、友梨香は入学式とか卒業式だとかいう、「◯◯式」とやらは苦手であった。形式張った感じがどうにも窮屈であり、さらにテンプレートだらけの代わり映えしない式の内容も、全く刺激がないからだ。

 かといって、彼女は素行不良の生徒なのかといえば違う。確かに態度は横柄なところはあるが、成績は優秀で、中学時代は野球の強豪校に行くか、大阪や京都、奈良などの近畿地方の有名私立進学校へ行くのかと学校内で意見が割れた程だ。

 まあ、結果としてはそのどちらでもなく、全く知らない土地の公立校だったのだから、当時の中学校の教師陣は驚いたものだった。

 ちなみに両親は、本人がやりたいことをやればいいと言っており、特に母に関しては、


「あんたは私の娘やから、どこ行っても変わらんやろ。大丈夫的な意味でやで」

 

 と完全に放任していた。

 それは見捨てたとかそういうのではなく、娘の実力への確固たる自信があったのだろう。なので、友梨香はお言葉に甘えて、好きにやらせてもらったわけだ。

 さすがに見知らぬ土地での一人暮らしは危険だと思ったのか、父親は付いてきたが……。

 ちなみに友梨香の父親は職業としてはフリーのエンジニアをしている。一度、彼のメールを覗き見してしまったのだが、英語のメールと日本語のメールがほぼ同じ量だったことから、色々な会社相手に働いているのだろうし、相当稼いでいるのだろう。

 友梨香の引っ越しなどのごたごたあり、ひとまず一ヶ月は地元の企業でお助けエンジニアとして過ごすかと言っていたので、彼女の父親は本日の入学式には来ない。

 別に寂しいというわけじゃないからいいが……。

 そういえば、松浦怜はどうなのだろうか?

 彼女も県外からやってきたのだとしたら、両親と一緒にやってきたのだろうか? それとも一人で……。いやいや、いくらなんでも年頃の娘を一人で県外に行かせるなんてことはないか。


「後で聞けばええか……」


 友梨香はあくびをかみ殺し、新入生の入場までを退屈さと戦いながら待つ。

 体育館内が静まり返った感じがする。さきほどまでのざわざわしていた声が聞こえない。そして、司会の教師の声が聞こえてくる。まあ、距離が離れているのでしっかりとは聞こえていないが何か始まった感じはする。

 体育館の扉が開き、A組から入場を始める。吹奏楽部のそこそこの入場曲と共に保護者や在校生の拍手が館内に響く。

 入学式に関しては特別記述することではない。

 一人ひとり名前を呼ばれ、返事をして席を立つ。そして、校長の話だとか色々だ。あとついでに入試成績がトップだった友梨香が新入生代表挨拶をした程度だ。

 程度というのはあくまでも友梨香の感想で、少し離れたところで座っていた怜の感想は違っていた。

 なんたって、友梨香の挨拶が問題だったのだから……。

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