えー、第二話でございますが、この話も大筋は変わりませんが内容の七割を編集いたしております。『なろうサイト』とはまた違った味わいになったかと思いますので、ご賞味いただければ幸いです。
また、イラストのケイト・シャンブラーはここだけの初出となります。前髪ぱっつん、お下げにメガネッ娘の上巨乳は無敵ですな。ちゃんと美人さんに描けているとよいのですが。
緊急事態出来により、ルナン・クレール中尉がフリゲート艦『ルカン』の指揮権を継承せざるを得なくなってしまう時点から約一二時間ほど前のこと。
当直勤務を終えたルナン・クレールとアメリア・スナールは艦内における女子専用仮眠施設、男性クルーからは”スルタンのハーレム”と呼ばれる区画で、一回二〇分に設定されたシャワーを浴び、就寝前の軽装に着替え、その休憩室でフリードリンクのカップをすすっていた。
ここには五,六人掛け用の丸テーブルが四基。それぞれにはゆったりとした明るいグリーン色のリング型ソファーが設けられ、壁際にはカップ式のドリンク自販機、軽食、スナック菓子の物も用意されていて全て無料だった。天井には大型液晶モニターが据えられていて、そこからは女子クルー達に好評の”通販グッズ”の映像が流されている。今回は格安コスメ、基礎化粧品等を紹介している回だった。
ここには二人以外にも、非番となったクルーたち数名がラフな寝巻き姿で就寝前のひと時を過ごしている。
アメリアは丸テーブルの上に折りたたみ式の卓上ミラーを見ながら保湿クリームを丁寧にぬり込んでいる。タオルを頭に巻き、淡いベージュのナイトガウン姿のアメリア。しばし手を休め、片手で保湿クリームのチューブを化粧ポーチから取り出して、その先をルナンの方へ向けて”手を出せよ”と表情で促した。
ドリンクをちびちび舐めながら、左手の中指を差し出すルナン。アメリアはそこへたっぷりのクリームをしぼり出した。彼女は右手に持つカップを置こうともせず中指だけでぞんざいにもらったクリームをぬり広げた。
「ルゥナーンッ、鏡ぐらい使えてばさ!今のうぢがらしっかりケアしておがねぁーど、年いってから面倒になるかんねぇー」アメリアは、呆れたように、しげしげと士官学校時代からとなる親友の湯上り姿を見て
「まるでオッサンだでや。もう少し気を使ったらどうだねぇ?」と、遠慮することなくお国訛りで首を振って見せた。
「何がぁ?オレは鏡が好きじゃないんだよ」ルナンは合点がいかないままあらためて自分の姿を見定めてみる。
ルナンの格好と言えば、金色の頭髪は洗いざらし櫛も入れず、タオルは首に掛けっぱなし。黒の半袖Tシャツに下半身はこれまた男向けみたいなボクサーパンツ型ショーツだった。
お世辞にも女子力が高いとは言いがたい。そしてルナンはアメリアの卓上ミラーを伏し目がちに睨みつける。そこには彼女が忌み嫌う物がどうしても映り込む。ルナン・クレールという人物が存在する限り永久に。
「ピンクのネグリジェとは言わねけんど、せめてもうちっとマシな恰好しとけ」
「いいよ、別に。家と同じ格好でいた方が楽だぜ」
「あいつ、キサラギはなんも言わねえのけ?」
「まぁ『みっともない恰好でうろうろしないでよ。普通のパジャマ買っておこうか?』って言われたなぁ」
「ほうれ見ろ。当直の合間にメールしとけ。オラは淡いグリーン系の色がいいと思うけんど」
「ええっ面倒くさい。それにあいつもいろいろ忙しいからさぁ」
「遠慮することあんめぇ?おめぇの“娘さん”だっぺよぉ」
そこへ彼女らの背後のテーブルから不意に声がした。
「中尉さんって子供いらっしゃるの?……娘さん今おいくつ?」この落ち着き払った優等生風でやや高めの声音に聞き覚えがあったルナンは咄嗟に眉間に皺をよせ、ただでさえ目付きが悪いのにいっそう険悪な顔になった。が、それを務めて抑え自分なり精一杯の作り笑顔で声がした方に振り向いた。
「アミアン工科大学のケイト・シャンブラー教授。いつからそこに?気付きませんで」ルナンにしてみれば愛想たっぷりに応対したつもりだったが、当のケイト・シャンブラーなる女性はルナンに背を向けたままノートPCに向って、残務処理に追われているらしかった。タイピングする手を休めようともしない。彼女も湯上りで淡い水色のパジャマ、黒に近い艶やかな髪を後ろにオダンゴにまとめていた。その下から垣間見える細いうなじも色っぽい。
「今日はお疲れ様でした。中尉のおかげで大変有意義なデータが収集できました。それと付け加えれば教授ではなく博士号を取得しておりますので、今後は博士と……それで?」とゆっくり生徒に諭すように低めのトーンである。
「すいませんねぇ、きょーじゅー!本日も実働試験が良好で何よりですなぁ…。まぁ、上手にあの土建屋重機どもを手懐けていらっしゃいますな」ルナンはあくまでケイトの事を”博士”とは呼ばず慇懃に教授と呼んで揶揄した。
一度だけ肩を落としたケイトであったが仕事を続けながら
「はぐらかさないで欲しいわね。おいくつなの?」と、“娘さん”の件を聞き返した。
「えーっと今年で十五歳だった……かな?」ルナンはあっさりと答える。
つかの間の沈黙が三人の間に横たわった後、ふいに
「じゅ、じゅうごぉー!」ケイトがスルタンのハーレム内に響き渡る大声を上げた。室内にいた他の女史らも一斉に何事かと振り返る。
ケイトは作業の手をここで初めて休め、テーブルをぐるりと囲むリング型ソファーに膝立ち。まるで幼児が車窓にかじりつくようにして二人に身体を向けた。
ケイト・シャンブラーはインド系で褐色の小ぶりな卵型の輪郭。グリーンフレームの丸メガネに円らで知性的濃いブラウンの瞳で、鼻筋細く、ふっくらとしたこれまた小ぶりな唇を持つ。美女と呼ばれるに相応しい容貌である。ただその表情には、ルナンに対して不憫な者を見る哀れな表情を思いっきり浮かべていた。
「まぁ……今時、シングルマザーなんて珍しくもないけどねぇ」と、言うや目線を上に十本の指を折りつつ首を傾げる。どうやらルナンが娘を産んだ歳の逆算を始めているらしかった。
「ねぇあなた……ずいぶんと年齢をさば読んでるんじゃありません?軍公示の情報ではあたしの二つ上で御年二四のはず。でも三十過ぎでないとねぇ~ちょっと計算合わないんですけどぉ」
「お、おいちょっと待てぃ」ケイトが変な勘違いを始めていると察したルナン。首を捻じ曲げて彼女を見つめ補足説明の要有りと踏んだのだが
「ま、まさか小学校の時分で妊娠、出産を!何があったかは知らないし、とても聞けませんけどねぇ」ケイトは悲し気に目を伏せ両手で口元をつつんでは俯き始めてしまった。
「だ・か・らぁ~話をなぁ……」ルナンもケイトに向き直り、鼻を突き合わせるが彼女の目はどうしてもケイトの胸元、パジャマのボタンがはち切れんばかりに実ったたわわなバストに釘付けとなり、ソファの背もたれに“どん”と鎮座まします二つのマンゴーに気圧されたのかつい
「このメガネ巨乳!」とまぁいきなり言い放ったものだから、ケイトの方も憐みの表情から眉間に皺を寄せ
「ないよぉ!こんソバカス女んくせに!」標準語は吹き飛び、お国訛りでもって喰ってかからんばかりに詰め寄り始めた。
「いやぁ可愛らしいでねぇの。素敵なセンスだねぇ。シャンブラーさん」
ここで二人の様子を窺っていたアメリアがさっと割って入り、話の取っ掛かりにケイトのパジャマを褒めてみせたのだった。
「どけぇ!アメリア。この失礼な巨乳女はさっきから訳のわかんねぇ……なっ!」アメリアは右手でルナンのソバカス顔の真ん中を鷲づかみにしてグイッと向こうへ押しのけ、左腕でケイトの肩を包んではパジャマの襟をつまんで白い歯を見せた。
「え~っと、スナール准尉さんでしたよね?」ケイトは今までの喧嘩腰からふいに怯えた様な表情になった。アメリア・スナールは目尻を下げて笑みを湛えてはいるが、やや切れ上がった眼に輝くグレーの瞳。ケイトはそこからもの言わせぬ迫力を感じ取ったか思わず息を呑みこんだ。それにアメリアの鼻梁に走る横一文字の刀疵も功をそうしたのであろう。
「ご、ごめんなさい。場所をわきまえずに」ケイトはかすかに呟くのみ。
「気にしねぇでいいがらね。コイツの言葉さ足りねぇのが悪いんだがらさぁ」アメリアはケイトの肩を解すように柔らかに叩くと
「コイツの娘ってのはね、一年ぐれぇ前さ任務で保護した子を養女にしたんだよ。名前はキサラギ・スズヤ。そんでもっておらの剣の弟子さね」屈託なく笑うアメリアはルナンを押し退けたままで
「いやまず、出来た娘でなぇ。この生活破綻女の世話焼いてくれてるんさぁ。剣の腕も見込みあり。今は兵科付訓練校で就学中って訳だべし。なぁルナンよぉ、おめぇん家はキサラギのおかげでゴミ屋敷にならずに済んでるんだっぺよぉ」ケタケタ快活に笑うアメリアはケイトの肩を昔馴染みのように揺らす。顔面を鷲づかみにされていたルナンはようやく振りほどいた後は一人そっぽを向く。
「それを先に言ってくれれば。いきなり十五歳の娘って聞いたら、どうしたって出産した歳を追いかけますよ。ねぇスナールさん」と、やや緊張がほぐれたケイトもアメリアに笑みをこぼして見せた。
「オラのことはアメリアでいいでね。で、コイツはルナンって呼んでやってくれや」
「じゃぁ私はケイトでかまいませんのでアメリアさん。……で?どうします中尉さんは」
任務中の海軍艦艇内で、頼もしい味方を得たケイトは勝ち誇るようにルナンを見やった。当然彼女はソバカス女がこれで少しは折れてくるであろうと予測していたのだが
「オレはイヤだね」この一言で、またケイトは肩眉を吊り上げ、アメリアはこれまで何とかこの場を和やかに収めんとした気遣いが徒労に終わった事に天井を見上げてから
「この野郎、大人げないねぇ。まだ実働試験の事さ根に持ってるんか?素直に負け認めろや」半ば呆れて嘆息をつく。ルナンは次にアメリアに突っかかる。
「やられっ放しでいられるか!たかがお喋り上手な土建機械によ。アメリアも何か言ってやれ」唇をとがらすルナンにアメリアは涼しい顔で
「やられたのは大砲屋(砲術士官の俗称)のおめぇ。オラは艦艇制圧戦の戦士だ。兵科が違う」さらりと受け流すのみ。
「また、土建機械って言ったわね。私はその呼び方が一番嫌いなのよ!」アメリアに肩を抱かれたままのケイトが小刻みに身体を震わせているのを感じ取ったアメリアは咄嗟に彼女を抱きかかえんとしたが、間に合わず
「このわからずやのソバカス女!あんた、このままだとこの艦を沈めることになるわよ!」一段と身体を前に挑みかかるように、ルナンの鼻先まで顔を寄せる。
「どういう意味だ?教えてくれや教授さんよぉ」ルナンはまるで新任の若い女教師にからかい半分でちょっかいを出す不良学生のように意地悪くにやにやする。それと同時にケイトが“沈める”を口にした途端にバツが悪そうに視線をそらしたのを捉えていた。
「撃墜数ゼロ。三連敗!」ケイトは三本指をぐいっとソバカス女に付き付ける。ルナンはさらに表情を強張らせて睨みつけてきた。
これはケイトが投入した実験機、人工知能搭載型無人機動兵器”アクティヴ・ドローン”が本日の運用試験において、仮想敵と想定されたフリゲート艦『ルカン』に対する模擬戦闘の結果を示している。
要するにルナン側からすれば、自分の乗り組む現役のフリゲート艦がドローンによって三回撃沈され、逆に撃墜したのはゼロという惨敗を示していた。
ルナン・クレール中尉とて士官学校を卒して初任官から二年。その前の義勇兵扱いで軍務の下働きとして入隊して生まれ故郷を出てからを合わせれば約八年になる。常に現場で過酷な宇宙空間での任務に従事し、ハードな海賊掃討作戦で血道をあげたこともある兵でもある。砲術士官として火器管制を預かりその運用実績と射撃の腕は確かだったが、今回の模擬戦闘の結果は全く以って意に沿わぬものであり、この事実はルナンの態度を硬化させるに十分だった。
「まぁ見ていろ。今日の試験はこちらに制約が多かった。明日は至近距離でTT魚雷をお見舞いしてやるからな。礫散弾の礫を喰らうがいいぜ」
「おめぇ礫散弾って言ってもよぉ、今回は全部ペイント弾だっぺさぁ」
「ああそうだよ!真っ赤な模擬弾浴びてボイルされたカニの化け物たちが宇宙空間を漂うことになる」ルナンは精一杯の虚勢を張るものの、当のインド系才女は落ち着きはらって
「何度やっても同じことです。その戦法はこれまでの有人複座攻撃機『バラクーダ』や『ヘル・ダイバー』あたりなら有効な迎撃方法でしょうけど。私の子供たち”アクティヴ・ドローン”には無駄な足掻きです。それとね、彼らをお化け呼ばわりはやめてもらえます?三機、いや三人それぞれ『ジャン』、『オスカー』、『マークス』ちゃんと名前と個性があるんですからね」と、豊満なバストの下で腕を組むケイト。更にこうも付け加えた。
「クレール中尉、あなたは彼らが次期決戦兵器としての可能性を十分に認識してますね?あなたはこれまでのリモートタイプ戦闘ドローンとの違いに気づいているんでしょう?」
これにルナンは彼女から目を逸らし悔し気に親指を噛み始めた。
「私が今、検索していたデータ、もちろん艦長の許可を取ってありますが。これはあなたが模擬戦闘中にあの子たちが、『ルカン』のえーっと何と言いましたか?艦内生命維持と各セクションのAIを統合制御するぅ……あれはぁ」
「“ライオンハート”だろ。ケイト」ここで助け舟を出したのはアメリア。彼女は二人のやり取りに気付いた他の女史クルーらが集まって来ているのを見て、彼女らに“お手上げだよ”と両肩をすぼめるジェスチャーをして見せた。
「そう、それ!中尉あなたは途中で、私の子供たちとライオンハートとのアクセス記録を調べていましたね?これまでの戦闘型迎撃ドローンならコンマ数秒で千回以上の記録が残るはず。どうでした?」ルナンは完全にケイトに背を向けたままぶっきらぼうに
「ゼロだった。完全なるゼロ!」と、吐き捨てた。
「それはどういう意味か、それもあなたはお判りでしょう?」
「あいつら三体は個々に状況を判断。互いの連携を図りつつ攻撃パターンを選択していた!ライオンハートと言う、艦内サーバにアクセスせずプログラムに基づくコマンドの送受信を必要としない存在だった」
「やるわね。初の模擬訓練でそこまで探求するなんて。私があなたに興味を持った点がそこでした」
「ケイト・シャンブラー。君はあいつらに何を与えたんだ。第七世代型自律AIに。これまでのAIは常に宇宙空間では宇宙船内臓のライオンハート。軌道要塞では統合電算意識集合体ゾディアックとのコマンド連携が不可欠なはずだった。あいつらは単なるツール、デバイスの範疇を越えている」
ルナンがたたみ掛けるようにして身を乗り出させれば、ケイトはその答えを受け満足げに微笑む。そして徐にこう言った。
「それも、中尉はお気づきでしょう……そう想像力、イマジネーションです」
「おいっ!シャンブラー、あんたはそれがどれだけ危険な事か知らない筈はない!何て事を!」
ケイト・シャンブラー博士。軍属としての階級は技官中尉である彼女は、ルナン達の母国、自由フランス共和国内では有数の宇宙開発、特に惑星改造開発技術に特化した工業技術系の最高学府として有名なアミアン工科大学にあって、軍主導による、無人機動兵器の開発と研究を担う若き秀才。
十代の頃より大学構内を闊歩し当時、主任教授として在籍していた実の叔母、マリア・シャンブラー博士の助手を務めていた。二二歳の現在においては彼女の叔母は病を得て長期入院中なので研究、開発の重責をケイト一人が支えているのが実状である。
口さがない年下の優等生相手にさっきから大人気ない中尉に呆れ顔で応対するケイトは更に
「教えておいてあげるルナン・クレール中尉。あたしのアクティヴ・ドローンは”本物”なの。自我を持ち、自らの認識能力で最も有効な戦術を展開できる人工知能、いや自らのイマジネーションで行動可能な新たな知性…といった方が的確かしらね」
「はぁーい先生質問でぇっす。普段の生活でもぉAI君たちは私らの会話にちゃんとついて来てくれてアドヴァイスしてくれてましたよねぇ?」これは周囲に集まって来たクルーの一人。
アメリアを始め皆は大きく頷くが、ルナンだけはまたも親指を噛み考え込んでいる。
「…そうね。今までのAIは実は、ディープラーニングという手法で得た膨大な蓄積データを元に言葉を取捨選択、私たちに提示しているだけなの。如何なる場合でも決定するのは人の方だったはず」皆が一応に首を傾げているのを見て取ったケイトはここで一つ息をつき
「人との会話がちゃんと成り立っているから、どうしてもAIに感情や心があるように感じてしまうのは、実は人間側の勝手な錯覚なんですよ」
アメリアと女子クルーらは“はぁそうなんですか?”と、言いたげな顔を並べるが、ルナンだけはまた、挑みかかるようにして
「さっき“本物”と言ったな?それは?」と、問うた。
「今までのAIでは言葉の意味とそれが意図する所までも掴むことができなかった。あたしの叔母マリア・シャンブラー博士の目指した人工知能は、言葉の意味を判別して自身の行動を独自に選択するの。それに不可欠なのが想像力!そこには何者の意思も介在しないわ。そういう意味で”本物”なの。叔母は自分が創造した存在をAIとは一線を画する者として別の名称を与えたわ……。”シヴィリゼーション・アンカー”よ」
「あんたはあいつらに自我だけでなく存在意義すら与えるつもりなのか?」
「……そう。『文明を担う者』という意味です」ケイトはクソ真面目に、ルナンに対して自論をどんどん展開していく。またそういう所も、ルナンにしてみれば鼻持ちならない。
「いいこと中尉。今までの艦隊規模での戦術思想は大きな転換点を迎えつつあるのよ。この状況判断を誤ると、あなたはいずれ立ち行かなくなる!あなたの言う”土建屋の重機群”がいずれ、自由フランスのみならず列強各国の艦隊を翻弄して圧倒するでしょう。その時に『文明を担う者』の意味する所をあなた自身が悟ることになる。そして全てが手遅れであることも思い知らされるのよ」かく言うケイトは勝ち誇って居丈高に振舞うが、ルナンは憮然として視線を外さない。
「眠いべしーっ!もうヤメッペよぉー」ここでまた、アメリアが二人の会話が一旦途切れた頃合いを見計らって声を上げた。これに他のクルーらも乗っかって、場を後にして就寝するため、手持ち品を片付け始めた。
オネンネ前のお話はここまでと言う訳である。
「ルナン、おめぇの娘さんの話からとんでもねぇことになったっぺよ!」と、アメリアが親友の金髪頭を軽く平手打ちすると周りからはクスクス笑いが。
ケイトも言ってやりたい事を言い放ちスッとしたのか、ルナンから自分の席に向き直り、ノートPCをかたずけながら
「ホント。私は中尉さんに海賊にさらわれた経験でもおありなのかと変に勘ぐってしまいました」と、何気なく呟いたその時だった。
「……今、何て言ったぁ!」“スルタンのハーレム”の空気を揺るがすような怒号が上がった。
皆が一斉に声のした方を見やれば、何とルナンがいきなりケイトのお団子にまとめた髪と後ろ襟を引っつかんで仰向けに押し倒しているではないか。
「もう一回言え!何と言ったぁー!」
「イヤッ!な、何するのぉ!止めてぇ!」二人の叫びが同時に上がると、
「止めろ!ルナン放せ。バカやろ!」、「中尉いけません!」、「離れてください!二人を離せぇ!」、「放して!中尉やめなさい!」アメリアを始めその場に居合わせたクルーらが二人を引き離さんとする中、ケイトのPCが床に落ち乾いた音を響かせた。
皆がなんとか二人を引き離すと、クルーらに抱きかかえられたケイトが涙声で
「いきなり何なのぉ!もう知らない!少しは物分かりの良い人だと思っていたのに!」こう叫んだ後、乱れた髪と着衣を直しながら
「この事はしっかり報告します!それとルナン・クレールとの話には必ず艦長か先任に間に入ってもらいますから!」PCを拾うなりアメリアにソファに押し倒されているルナンに一度怒りの表情を向けるも、すぐさま大粒の涙を流しながらクルーに付き添われてその場を後にした。
一方、ルナンを押さえ込んだアメリアは、
「後は任せて皆は休んでくれ。迷惑かけたな。私がこのバカにお灸をすえてやるからよ」と、この場を立ち去るように促すが、馬乗りに押さえ込んでいるソバカス女は唸り声を挙げるばかり。仕方なくアメリアはそいつの鼻頭に頭突きをガツンとお見舞いすると、ルナンは白目を向いて昏倒してしまった。
第二話は以前、『小説家になろう』サイトに投稿した時とは少し内容を変えてあります。こちらの方が最新版であり、余計な描写を削除してよりAIと人間、そして新たな知性化AIともいえるアクティブドローンに関しての立ち位置を明確に編集してみました。
次回第三話は、この後、アメリアとルナンが自分たちの祖先、火星移民者の歴史を振り返り、そこで何が起きたのかを明らかにする回となります。
こちらも内容をいくらか変更、修正した物となるでしょう。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!