第九話投稿です。今回のお話は主人公ルナンを悩ませる秘匿命令KーⅣの存在。何故彼女はこれまで得た具体的な情報を部下たちに開示できずに苦慮する事となっているかを中心に展開されます。そして前々から話の端々に登場して来た彼女の妹にも触れることとなります。
「立場が変わるとこうも違うものかな」艦長席に身を収めながらルナン・クレール艦長は独り言をつぶやいた。相変わらず心持は晴れない。誰もが自分を吟味する視線を向けている様な感覚にとらわれ、逡巡する心の内を見透かされているようでその誰とも視線を合わせられずにいた。
彼女はこの苛立ちを、俗に言う指揮官の孤独というものと自分を納得させようと躍起になった。つい数時間前まではムーア艦長の下で一介の中尉でしかなかった自分。艦内で手が足りなくなる度に修理作業で重宝がられ、都度クルー達と下世話な巷話や上官への愚痴に便乗して臆面も無く笑い声を上げていた。それが今や頼まれても御免こうむりたいと常々思っていた”最高責任者”という矢面に立たざるを得なくなった。何度も尻や背中の当たり具合を直そうと小柄な体躯を揺り動かすものの、ムーア艦長が長年占拠してきた専用シート。今は亡き彼の体にぴったりと金型のように仕上がっているのだ。すぐに彼女に馴染むわけがなかった。
クルーの視線とシートの具合、そして艦内を包み込む空気全体が“艦長に能わず”と断じているように勘ぐってしまい
「ここに座りたい奴はいるか? 替わってやるよ!」こう叫びたくなる衝動を抑え、何とかこの苦境を脱する手立てを模索するものの決定打に欠ける。秘匿命令『K―Ⅳ』の存在とその情報開示レベル”AA”の関しての危惧が妨げとなっていた。
ルナンは今一度、艦長席に装備されている液晶モニターに『K―Ⅳ』を表示させた。誰も艦長席を覗き込む不埒なクルーなどいない。彼女は大きく溜め息をつくと表示された内容に目を走らせた。
○命令書…実働試験航宙第二九号作戦及び追加付記事項
○追加付記事項…命令書『K―Ⅳ』極秘。秘匿レベルAA。
○開封時期…艦隊集合寄港地 軌道要塞『ディジョン・ド・マルス』進発後二四時間以降。
○発…西部方面軍管区艦隊司令本部 本部長シャルル アッテンハイム中将
○宛…第四制宙艦隊 特務訓練編制艦隊司令 旗艦『ルカン』艦長兼務 アレクセイ・ムーア少佐
○本文…第二九号作戦に参画せり特務訓練編制艦隊(以下、当該艦隊とス)に対し西部方面艦隊司令本部(以下本部とス)は以下の命令を付加するもの也。本文開示後は本件を最優先任務とすべし。
一、当該艦隊は以下設定宙域に赴き、本宙域においてドイツ選帝候領海軍の新鋭艦と接敵。その規模及び能力に関する情報を収集、これを送信すべし。(付帯事項A)
二、新鋭艦の名称、艦種並びに対象が単独航行か艦隊行動を採るかは不明。留意すべし。本部はこの新鋭艦をコードネーム”猟犬”と命名。当該艦隊各位は対象に関する呼称を以上に統一すべし。(付帯事項B)
三、猟犬の新式光学迷彩機能『ステルス・シールド』に関する情報を最優先に採取しこれを速やかに送信すべし。(付帯事項C)
四、当該艦隊は実力をもって”猟犬”の脅威を排除すべし。諸兄らの職責を全うせられ、国民国家に対する忠誠と献身を期待するものである。 以上
火星統合暦MD:〇一〇四年三月二二日。
西部方面軍管区 第四制宙艦隊司令 中将シャルル・アッテンハイム(直筆サイン)
ここまで所見したルナンは責務上甚だ不穏当な発言を漏らさぬよう唇を咬み、付帯事項に関する内容を吟味する事とした。
Aに関しては接敵予想宙域に関することなので省略。
Bは”猟犬”と称される新鋭艦に該当すると推察された三隻の艦艇の艦名、艦種、具体的な諸元が記載されていた。
この情報にルナンは食い入るように見入った。内容の艦種は大型巡洋艦クラス。艦名は『ケーニッヒ』『モルトケ』そして『ベーオウルフ』とあった。解像度はあまり良くはないが何枚かの静止画像も添付されていた。
『ケーニッヒ』と『モルトケ』はれっきとした士官の目から見ても艤装の六割は終了していると推測できた。
ただ『ベーオウルフ』のみ、船腹部の両サイドに艦首方向に伸びる深い溝のような箇所と砲塔部が鋼鉄製のフタで封印されていた。
これらの報告書は現況より約三ヶ月前に情報部のエージェントによってもたらされたものであった。
本来なら、こういった画像を安井機関長に所見してもらえれば、専門的かつ具体的な提案を得ることも可能であると、ルナンは考えたものの。発令所の中央部に設置されているテーブル型液晶モニターの前で部下に指示を与えている安井技術大尉の幅広い背中を見ては眉間に皺を寄せて頭を振った。
次に取り掛かったのは付帯事項C。添付されている猟犬の特筆すべき『ステルス・シールド』と称されるテクノロジーに関する記述は完全な学術論文。
その門外漢をにべも無くはねつける内容、特に何回か論文の中で羅列される『逆位相差視認空間』なる文言に、ルナンは完全に匙を投げた。
こうした学術的見解のアプローチに明るそうなのは例のケイト・シャンブラー博士なのだが、格納庫の一件以来声をかけずらい。
しかしいずれにも、僚艦を襲った青白い雷光。肝心な猟犬の主要攻撃兵器に関する記述が一切無いことに新任艦長は自らの目頭をきつく摘み、歯軋りと共に情報部のぞんざいな扱いの内容に憤った。
艦載兵器に関する一応の専門家である砲術士官ルナン・クレールの経験から、いずれの列強海軍が有する現行兵器では青白い雷光を迸らせて標的を射抜くといった類のものは存在していないという事実のみ。
最強のパワーを誇る戦艦、巡洋艦クラスの放つ主砲弾による精密射撃ではない事は間違いない。発砲時による強烈な赤外線を帯びる熱源反応が観測できていない。さらにミサイル、超高速の礫散弾を艦船の進行方向の鼻先でばら撒くTT魚雷の痕跡なども感知できていない。
選択肢として大口径プロトンレーザー砲も挙げられたが、これは充電に相当な電力を必要とされ、直撃に近い命中率でなければ分厚い装甲を貫通出来ず効果が薄いとの評価で現在においては廃れている点などがルナンの予測を鈍らせていた。
ルナンは更に最後のレベルAAに関する注意喚起の項目に目を奪われてしまった。
○秘匿レベルAA―この情報の転載・複写を禁ず。艦隊司令及び副官、麾下艦隊各艦長までの視認のみ。(アイズオンリー)
○艦隊司令による情報開示権限は海軍規定第七条第三項(参照不可)による。
○艦艇指揮官(艦長あるいは代理権限を有す将校)が麾下の士官並びに下士官に情報を開示する事を禁ず。違反の場合は指揮官及び士官・下士官共に身柄を拘束。憲兵隊による捜査対象とする。兵卒はその限りにあらず。
なお量刑は軍事法廷の裁定に拠るものとする。とあった。
これは仮に、艦長ルナンがスナール准尉にレベルAAの情報を開示、意見具申を求めた場合、帰還後に憲兵隊による審問を受け、何らかの処分を受けることを意味した。減棒、降格はもとより、量刑によっては数年に及ぶ懲役刑を課せられる可能性も否めないのである。さらに理不尽なのは連帯責任として士官全員がその秘匿レベルの認知如何に関わらず身柄を拘束される。例外なく全員である。
文言の中に”兵卒はその限りにあらず”とはあるが、これも情報開示を受けた士官の命令に服した場合のみ刑を免れるのであって、自ら進んで情報に接見した場合はやはり刑に問われることとなる。
ルナンは液晶モニターから作業に没頭している士官、クルーに視線を移した。
航法担当ベルトラン准尉の後ろ姿が目に入った。彼女には幼い娘が二人いる。共働きのため留守中は実家に娘を預けている。
甲板長のクラーク少尉は独身だが、年老いた両親と同居。面倒を見てやれるのは彼のみである。
今は発令所にはいないがヤンセン整備班長にも二才の息子があり、妻は妊娠中との事。
親友のアメリア・スナール准尉にも家族がある。今はルナンと同じ軌道要塞『ディジョン・ド・マルス』で一人暮らしだが、生まれ故郷には未だに両親が健在。手広く農場を経営している。弟が一人いて、跡取り息子として日々仕事に精を出していると聞く。
これは艦長を後継した際に開示された乗員の個人情報が基になってはいるが、彼女自身が日々の人間関係から聞き得た事情も多分に含まれていた。
自分が猟犬に関する情報を求められても、そうでなくても開示したという事実のみで、部下達は家族の下には帰れない。身柄を拘束されるに違いない。
それだけは何としても避けねば!と、ルナンは強く心に誓うのだった。
そして自分には?
一人いた。居留地である軌道要塞『ディジョン・ド・マルス』で同居して一年。里親として引き取った一五歳になるキサラギ・スズヤと言う、いつも黒髪をツインテールにまとめ上げる艶やかな日本系少女の事をルナンは思い起こしたが、すぐに
「ま、オレが居なくなっても大丈夫だろう。あいつはぁあれでも苦労人だし。それにアメリアにも懐いているし」と、呟いた。気がかりではあるが、先ずは部下への配慮を優先すべきと同居人の事を頭のすみっこへ押しやった。
では生来の家族は? 次にルナンの脳裏にはある光景が。あまり想起したくはない忌まわしい過去が甦ってきたのだった。
ルナンは暗い表情を悟られまいと顔を足元へと向けてしまった。
そこは雑木林の中で黄色い阻止線テープが広範囲に木々の間を縫うようにして張り巡らされている。先頭を警察官、次に母、そして最後に自分が藪の中へ歩みを進める。
昨晩降った雨のせいで足下がぬかるむ。記憶の中の季節は晩夏。
林の中は日陰のくせに蒸し暑く草の蒸した生臭い香りが鼻に着くのに加え、小さな羽虫がまとわりついてくる。普段ならこんな所に近づくのもゴメンなのだが、そんなことも言っていられなかった。イヤだ。嘘だ。人違いであってくれとの心持ちでいっぱいだった。
先頭の警官が歩みを止め、母と自分に草むらに埋もれるようにして置いてあるグレーカラーの死体袋を指差した。
そこには既に私服警官と鑑識らしき人物がいて、彼らはこちらを認めると手招きする。私服警官がジッパーを少し開けて袋の中に収められている被害者の顔が判るようにした。
それは妹のアンナだった。
ルナンとは二卵性双生児として生を受けた双子の妹。とは言え、姉は金髪小柄でソバカスが目立つ少年のような顔付きなのに対して、妹アンナは容姿も雰囲気も姉よりもぐっと大人びていた。
茶色の髪をいつもお下げに編み、卵形の輪郭と少したれ目気味の大きな眼。美女と言うより、可愛らしいという印象を周囲に与える。
愛想も良く家の細々とした事にも気の付く娘で、近所の人の中にはアンナが姉、ルナンが弟と勘違いするくらいだった。
その妹の顔からは完全に血の気が失せて白い陶器のようだ。母はしばらく立ち尽くしていたが私服警官の事務的で抑揚の無い
「娘さんで間違いありませんか? ブッセルさん」がきっかけとなって、泣き声とも唸り声ともつかぬ叫びをあげるや、娘の身体を袋の中から引っ張り出すようにして抱きかかえ号泣しはじめた。
ルナンはここに連れてこられるまでの淡い期待が裏切られ、最悪の予想が的中してしまっている事に呆然となり、袋の前でしゃがみ込んでいる母の背中を見つめていることしか出来なかった。
鑑識らしき人物の方が近づいてきて
「一応、確認して欲しいんだけど。悪いね」と、携行していたタブレット端末から、ルナンに一枚の画像を見せた。
そこには発見された時のアンナの遺体の画像が映し出されていた。うつ伏せ下半身を露出させたままで靴も無く、ソックスは片足だけ。上半身には白いブラウスがおざなりに掛けてあるだけの状態で草むらにうちすててあった。
愛する妹がこうなる前にどんな恥辱を受けたかは聞くまでも無い。
さらに不幸の上書きするように直接の死因も告げられた。過剰な薬物投与によるショック死との事。要するに妹をさらった連中は彼女を慰み者にする前、暴れないようにと危険なドラッグを脇の下、太ももといった血管が集中している部位に何本も注射器で投与したらしい。
「わかったから! もう止めて」ルナンはそれを投げ返すようにして、母の後ろでしゃがみ込んでしまった。泣き叫ぶ母の背中越しに見える妹の顔。
アンナは母と瓜二つ。ルナンは多忙な母の笑顔をよく覚えてはいなかった。が、その分妹が事あるごとに笑いかけてくれていた。常に愛してくれていた。
そんなかけがえのない妹は今や物をも言わない。それなのにその時彼女は妹が眠っているかのように思えて、母の後ろから回り込んで妹の頬に触れようとした時
「あたしのアンナに触るな!」と母が今まで聞いたことが無いくらいの大声を挙げ、姉である筈のルナンの手をまるで虫を振り払うかのように乱暴に跳ね除けた。
「母さん?」あまりに突然の母の言動にこういうのがやっとのルナン。
「お前、この子が連れて行かれるのを見たんだろう?何していた!その時」母は涙で真っ赤になった目を姉に向けた。その瞳に明らかな嫌悪と非難の色を湛えている。
「だって、母さん。あの時オレは……」と言いかけた姉の言を母の辛辣な言葉が遮った。時折り、ルナンはこの言葉を思い起こして眠れない時がある。
「お前がこうなれば良かった! ハンナァー!」と。
雷に打たれたようになってルナンはその場で固まってしまった。追い討ちを掛けるように、記憶中の母は忘れてしまいたいかつての名前を連呼する。
「あたしはアンナさえ無事なら良かったんだ! ハンナお前はいつだってあのクソ亭主と同じ顔で家の中で踏ん反り返ってばかり。胸くそ悪くってしかたなかった。あんたの顔が心底嫌いだよ! あたしとアンナがどれだけ苦労したと思ってるんだい!」
気がつけばルナンことアンナの姉、ハンナは現場から少し離れた木の根っこに座り込んで泣いていた。泣きじゃくり鼻をすすり上げて、涙でにじんだ目で周囲を見渡すと、今まで判らなかったが、黄色の阻止線で囲われた中、そこかしこで自分たちと同じ境遇に苛まれて死体袋に縋って悲嘆にくれている被害者家族の姿が見て取れた。
ハンナの脳裏に銃を携えた集団がアンナと同僚の女性たちを兵員輸送トラックの荷台に物のように詰め込む様子が甦ってきた。
(奴ら妹を。アンナの同僚連中まで殺しやがった! 傭兵くずれの海賊どもがぁ)
膝を抱え込んだ姿勢のまま拳を強く握り、こみ上げてくる怒りに身を震わせるハンナ。
「来ちゃダメェー! 兄ちゃん逃げてぇ」連れ去られる際に聞いたアンナの声がくり返し、くり返し彼女の胸を抉るのだった。
(そう、オレには家族なんてない。妹を亡くしてから、母とは疎遠となって縁を切った。親父……。思い出したくも無いあいつの事は!あの日以来行方知れず。どうでもいい!)と、現在はルナン・クレールとして生きているかつてハンナ・ブッセルと名乗っていた女性は記憶の奥から立ち戻り
(オレはいい!どうせ人並みの幸せを得る価値のない人間さ。妹を、家族を見殺しにしたのだから。ただ他のクルーには帰りを待っている人がいる。オレのせいで累を及ぼす訳にはいかんのだ!)との思いを新にした。
「クレール艦長。艦長、大丈夫ですか?」
突然の声に思わず身を硬くさせるルナン。声の主は甲板長のクラーク少尉だった。
「何か?問題ない」ルナンはそう言いながら、そっと液晶画面の電源を落とした。
「赤外線センサー、3D測位レーザーセンサーの修理完了。といっても現状では通常の六割程度ですが。船首区画の第三砲塔及び魚雷発射管の二番、四番は封鎖。残りは使用可能です」
「了解した。ご苦労、あとは?」
「如何でしょうか?『モンテヴィエ』との邂逅の件は……」
そこに航法士官のベルトラン准尉の声が割って入ってきた。
「艦長、可能であれば『モンテヴィエ』に曳航してもらう事も検討して戴きたいのです。メインエンジンがこのままですと自力による帰還が難しくなります」
僚艦『ダ・カール』の惨劇から既に三時間余りが経過していた。
ルナンは前に佇む二人の部下とは目を合わせようともせずに、発令所中央の吊下げ式大型モニターに表示されている『ルカン』と『モンテヴィエ』の位置関係を確認しながら
「旗艦との邂逅は無い。本艦はあくまで自力による帰還を目指す。これは艦隊司令シェーファー少佐との協議の結果である」こう二人に告げた。声の抑揚を低く、極めて事務的に。
そのタイミングで旗艦からのルナン宛の通信が入ったとの報告が上がった。
「読め!」と、ルナンに命ぜられた通信士は自分の部署から立ち上がり、発令所全体に響き渡るほどに声を張り上げ
「『本艦はこれより帰還軌道へ遷移。一次加速に入る。貴艦におかれては予ての指示通り、現状を維持せよ』であります」と告げる。
その途端に、発令所に居合わすクルー達の間からどよめきが湧き上がった。ルナンの前に控えている二人の士官も怪訝な表情を顕わにしている。
「置き去りかよぉ!」と不満と苛立ちを込めた言動がふいに上がった。その後、場の空気が張り詰め沈黙が支配した。
「任務中である。不穏当な発言は慎め!」とルナンはその沈黙の帳を薙ぎ払うかのように一喝した後
「問題ない。この宙域は通信状態が芳しくない。ゆえに『モンテヴィエ』は一旦、ここを離れるだけだ。二日もすれば救援の艦隊と共にこちらを捜索する手はずになっている。大丈夫!見捨てられたわけではない」と今度は声のトーンを柔らかく、高圧的な物言いから努めて明るく宥めるように諭した。
ルナンは未だ何か言いたげな二人の士官を、目だけで部署に戻るように促した。ベルトランは無表情でその場を辞去したが、ルナンはクラークが去り際に目ざとく舌打ちしたのを見て取ったが、あえて咎めようとはしなかった。
ルナンは液晶モニターの画像を『ルカン』が漂流している宙域から『モンテヴィエ』の映像に切り替えさせた。拡大映像で映し出されている旗艦となった僚艦はゆっくりと船体を一八〇度回頭。三角形状に配置された船尾部を向ける形となった。
ルナンと発令所のクルー一同が見つめる中、三つのオレンジの光彩が各噴射孔から迸りはじめた。一次加速が開始されたのだ。彼女が、ほぼ反射的にその映像に向けて艦長席に座ったまま敬礼を送ろうとした時だった。
あの青白い破壊の閃光が走った。
ルナンを始め、映像を見ている全員の衆目が集まる中、それは『ダ・カール』を屠った時と同じように『モンテヴィエ』のエンジン部を貫通。そして次なる碧い死の宣告が船体中央部を真っ二つに粉砕。前半分はすぐさま真っ白な火球と化し、残った機関部は制御を失いあらぬ方向に暴走。それも数秒後には爆裂四散して虚空に消えた。
ルナン・クレール艦長は敬礼をやり掛けた手を下ろせぬまま、その場で金縛りのように体躯を強張らせるのみとなった。
遂に三隻目の被害が艦隊を襲いました。これでこの周辺に生存しているのは、『ルカン』のみ。被弾して未だ復旧状態もままならぬまま、ルナンは更なる苦境に立たされる結果となりました。このまま彼女は猟犬とKーⅣの存在に押しつぶされてしまうのか?
次回はいよいよケイトとルナンの対立がピークに。どうする?ルナン・クレール。
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