二一世紀の中盤から激変してしまった地球環境。海岸部における大都市が悉く水没する事態に至ってようやく世界の指導者らは、太陽系第四惑星火星への本格的な移住事業を開始させた。
以来一五〇年。火星の衛星軌道には軌道要塞と呼ばれる宇宙都市が林立し、それぞれが連合を組み列強と称される連邦国家を構成して群雄割拠の様相を呈していた。
その時代にあってその雄、自由フランス共和国から一人の女傑が生れた。その名はルナン・クレール。後に『火星のジャンヌ・ダルク』と呼ばれる彼女が風雲児として火星興亡史に名を連ねる事となったのがこのエピソードとなる。
一介の中尉でしかなかったルナンは次期決戦兵器の実働試験の任務にあたっていたのだが、編成された艦隊が未確認の敵からの攻撃を受け、一隻また一隻と撃破されてしまう。その際、自ら乗り組んでいるフリゲート艦『ルカン』の艦長、そして副長までもが相次いで死亡。遂にルナンが後継艦長を引き受ける事になる。しかし、彼女に突きつけられたのは軍上層部からの理不尽かつ非情な秘匿命令であった。
果たしてルナンはこの難局を乗り切って生還を果たすことが出来るのか?そして何故に、火星の地上には未だに誰一人として降り立つことが出来ないのか?ルナンらの先祖である初期入植者たちに如何なる悲劇が降りかかったのか?
新たな人類の版図として栄光を約束された火星世界を舞台に繰り広げられる治乱興亡、女傑たちの大河SF小説第一弾です。