冒険者ギルド前から馬車に乗り1時間。
ダンジョンに到着する。
もう一度、入場料の銀貨1枚(1万円)を払いダンジョン内に入っていく。
沙良は2人分の入場料銀貨2枚(2万円)を払うのに、嫌そうな顔をしていたけどな。
なんならダンジョン前~冒険者ギルド間の乗合馬車1人銅貨2枚(2,000円)×4の8,000円も勿体無いとか思っていそうだ。
だが簡易トイレでしたくないからとダンジョン攻略を中止したのは自分なので、何も言わないみたいだ。
魔物を狩りながら安全地帯まで1時間。
空いてる場所を見付けてマジックテントを設置する。
マジックテントの中は思ったよりも広く6人用にして正解だった。
大体6畳くらいあるだろうか?
床は断熱材のような物で出来ていてクッション性がある。
ダンジョン内は気温が低い(15度くらい)ので、床からの冷気を防ぐ仕様になっているのだろう。
日本製の寝袋を使用すれば、テントの中で寝るのは意外と快適かも知れない。
いやこれだけ広いんだから普通に布団と毛布が入るな。
侵入者防止の結界があるから、テント内には何を置いてもバレないし。
沙良がアイテムBOXから、ホットコーヒーを出してくれたので一息吐く。
すると、テントの傍で誰かが舌打ちする音が聞こえた。
沙良の肩がビクッと跳ねる。
どうやら既に目を付けられているらしい。
「マジックテントにしておいて良かったね~」
「なんだか、ここの冒険者はタチが悪い」
「外に出る時、気を付けないと。マッピングを使用して人が近くにいない時に出よう!」
「ああ、用心するに越したことはない」
暫くの間、テントの傍でウロウロしている気配が続いたが、30分程すると諦めたのかいなくなった様だ。
攻略に行く前に、もう一度自宅に戻ってトイレを済ませる。
この日は結局、リザードマンもファングボアも狩る事が出来なかった。
見付けたと思っても、直ぐに男性冒険者が駆けつけて先に交戦を始めてしまうからだ。
ダンジョン初日の収入は、銀貨65枚(65万円)と銅貨3枚(3千円)。
う~ん、このままじゃ余り稼げそうにない。
4つの属性魔法を覚えた分、良しとするか。
ホーム内に戻ってから、沙良とダンジョン攻略の初祝いだとして外食に行く事にした。
ちょうど沙良の自宅から半径10kmの間にある寿司の旨い店があったので、食べたい物を聞かれた時にリクエストしたのだ。
自動車を運転して店に着くと、明らかに回転寿司じゃない店構えを見て沙良は目が点になっていた。
1人暮らしの派遣の給料じゃ、縁のない店だったか。
店内に入るとカウンターしかない。
ここは旭とよく来たお店だ。
目の前で少し厳つい顔をした大将が、その日仕入れた新鮮な魚介類で握ってくれる比較的良心的な値段の店だった。
頭を角刈りにした大将は無愛想で、凡そ客商売に向いているとは言えない。
体の何処かに、入れ墨でもあるんじゃないかと思うくらい迫力がある人だ。
旭が亡くなってからは、自然と足が遠のいてしまった店でもあった。
思い出すのが辛かったんだろうな。
あれから9年以上経っていたが、店は変わらず営業していたらしい。
2人でカウンターに座り、電子メニューを見ながら何を食べるか相談する。
「沙良、言っておくがこの握り寿司の値段は1貫分だから間違えないようにな」
「えっ!? じゃあ、2貫だと倍になるって事だよね」
「ああ、そうだ。この大将の本日のお任せ10貫3,000円のコースは、握り寿司の他に刺身・天ぷら盛り合わせ・茶碗蒸し・味噌汁が付いているから、10貫でいいならこのコースにした方がお得だぞ」
「じゃあそうする。値段が最初から決まっている方が、ドキドキしなくて済むから」
「俺も同じコースにするが、10貫だと足りないから安いのを何貫か頼む事にするよ」
「そうして下さい、お願いします」
電子メニューで注文すると、直ぐにカウンターの上に全ての料理が現れる。
目の前で握って出してもらえない分、少し味気ないが無人なので仕方がない。
本日のお任せの握りは、だし巻き卵・イカ・甘エビ・ホタテ・鯛・鯵・鮪の中トロ・鰤・ウニの軍艦巻き・イクラの軍艦巻きと実に美味しそうだ。
刺身は、鮪・サーモン・イカの3種類。
天ぷら盛り合わせは、大きな海老が1本とキス・穴子・蓮根・南瓜だった。
沙良には充分な量だ。
これで3,000円なら結構お得だと思う。
こぢんまりとした店で、席はカウンターのみとなっていたのでタイミングが悪いと1時間程待つことになる。
ホーム内のこの店は、利用客が俺達しかいないので待たなくて済むのが良い。
沙良は、揚げたての天ぷらから食べる事にしたようだ。
何故か蓮根から食べているが、妹は昔から好きな物を最後に食べる派だったので好物の海老は最後にするんだろう。
いつもフライは俺の好きな豚カツに付け合わせのナポリタンを作ってくれるが、沙良は海老フライが好きだ。
タルタルソースをたっぷり付けて、美味しそうに食べる様子は子供みたいだった。
まぁ、実際まだ20歳前の少女なんだが……。
今日は冷凍の海老じゃないから、ぷりぷりで旨いだろう。
俺は逆に好物を最初に食べる派だ。
お腹が一杯になった状態で食べたら、美味しさが半減するじゃないか。
まずは刺身から頂こう。
うん、今日も魚の鮮度は抜群だ。
出来れば一緒に日本酒を飲みたいが、非常に残念な事に酒が飲めない沙良は運転免許を持っていない。
俺が車を運転する事になるので、酒は飲めないんだよなぁ~。
美味しい寿司を食べながら、沙良と2人で旭の思い出話をする。
初めてこの店に入った時、大将にビビッて旭が店を出ようとした笑い話なんかも披露しながら……。
旭、お前の墓参りに行けなくてごめんな。
俺は異世界で元気にやってるよ。
天国がどんな所か知らないが、俺達2人の事を見守ってくれよな。
特に沙良は、美少女になってしまったから悪い虫がつかないか心配なんだ。
お前の初恋は叶わなかったが、沙良は旭を大切な幼馴染として今でも覚えているぞ。
こうやって、一緒に思い出話に花を咲かせるくらいにな。
ダンジョン初日の夜は、美味しい食事と楽しい話で盛り上がったのだった。
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