当初、俺と響が立てた作戦は結婚式当日、襲撃してくる敵の1人に捕まり大人しく王宮まで連れ去られる方法だ。
こちらの人数は影衆達を数に入れ12人と2匹の従魔にガルム達を合わせても極少数だから、正面突破は考えていなかった。
結界がある王宮は妻として望んでいるなら問題なく入れると踏んでいたし、王と対面する時に俺の守護精霊達を出せば、なんとかなると思っていたんだよな。
国の規模が不明な時点で、大掛かりな襲撃は出来ない。
王宮内なら制圧する敵の人数も限られる。
精々、数百人程度を相手取れば済む話だ。
それくらいなら、影衆達が10人いれば事足りる。
俺も響も丸腰で行くわけじゃないし……。
王さえ拘束してしまえば、騎士達も手は出せなくなるだろう。
そう算段を付けていたが、ケスラーの民が現れ予定変更を余儀なくされた。
味方が増えるなら、大々的に襲撃しても大丈夫だろう。
ただ人質に取られた族長の娘が、何処にいるか分からないのは少し問題だな。
ケスラーの民達が派手に王宮を襲撃する間、隠形した影衆達に潜入してもらい助け出すしかないか……。
俺達が襲撃に関する相談をしている間、天幕へ怪我が治ったケスラーの民達が引っ切り無しに顔を出すため、一度ハイドが外へ出て事情説明をしにいった。
聖竜のセイが怪我の治療を行ったと伝え、アシュカナ帝国へ向かう準備を指示する。
竜族がいると知った民達は高揚し戦に備えるため、それぞれの天幕へ息せき切って戻っていく。
作戦が煮詰まった頃には夕方を過ぎていた。
族長は時間が惜しいとばかりに、これから出立すると言い張る。
いくら治療したとはいえ、今まで怪我を負い臥せっていた者達ばかりだ。
今日1日くらいは、しっかりと寝て明日の早朝出発すればいい。
そう諭し、夕食を食べようと提案する。
腹が減っては戦は出来ぬ。
俺も、そろそろお腹が減ってきた。
「では、細やかですが歓迎の印に料理を振る舞いましょうぞ」
それを聞いた俺と響は顔を見合わせる。
異世界の料理は過去に散々食べたが、どれも非常にシンプルな味付けだ。
調味料が少ないから仕方ないと諦めていたけれど、今は日本の食材や調味料が使用出来る。
今更、異世界料理を口にしたいとは思わなかった。
アシュカナ帝国に乗り込むと決めた時から、食事に関しては調味料や食材や保存食を大量に購入してある。
アイテムBOXと違い、マジックバッグは時間停止機能がないのが残念なところだ。
それでも、インスタントやレトルトは賞味期限が長いから問題ない。
「あの……是非、エルフ国の料理を食べてみて下さい」
歓待される側として、そんな意見を述べるのは失礼だと分かっている。
郷に入っては郷に従えじゃないが、訪問先では相手側の料理を食べるのが礼儀だろう。
「おおっ、そうでございますか! 姫の口に合う料理に致しましょう」
族長は嫌な顔を見せず、俺の意見に沿った返事をしてくれた。
あれか、毒を警戒していると思われたのかも知れない。
それとも、ここまできた俺達の意向を蔑ろに出来ないと思ったのかも?
まぁ、異世界料理を食べなくて済むなら助かる。
かと言って、俺が作れる料理なんてないんだけどな!
メニューはバーベキューにしよう。
あれなら、野菜と肉を切って焼肉のタレを付ければ誰でも簡単に出来る。
ガーグ老から腕輪に収納しているバーベキュー台を出してもらい、野菜と肉を切り分けようとしたところで、響から待ったの声が掛かった。
「お前、野菜を切った事はあるのか?」
「ないけど?」
「それじゃ手を切るのが落ちだ。皮を剥いた後、身がなくなるんじゃないか?」
「そう言うお前こそ、出来るのかよ」
「……やった経験がない」
「……」
20歳で結婚した俺達は、実家を出て家庭を持ったため料理は妻に任せきりだった。
異世界に転生後も、王族だったので料理をする機会がなく包丁を握った事さえない。
2人共、役立たずだな……。
「あの……、私がしましょうか?」
食材を前に固まっている俺達の様子を窺いながら、セイが助け船を出してくれた。
「そう? 悪いわね。任せても大丈夫かしら?」
「はい、材料を切るくらいなら私でも問題ありません」
うっ……、俺には出来ないけどな!
夕食の準備はセイと影衆達がしてくれるそうだ。
その間、俺は初めて会ったセキと親しくなろうと声を掛ける。
「セキ。ティーナとは、どんな風に過ごしていたの?」
「なんだ、婆ちゃん。ちい姫から聞いてないのか?」
婆ちゃんって言われた……。
娘が2匹を育てたのなら、母親同然だったのだろう。
その娘の母である俺は祖母に当たるから、間違いではないが衝撃的な言葉だな。
自分が婆ちゃんと呼ばれる日がくるなんて思わなかった。
「娘とは色々あって、まだ詳しい話をしていないのよ。出来れば、教えてくれると嬉しいわ」
顔を引き攣らせながら、なるべく笑顔を保ちつつお願いしてみる。
「精霊王の森で、俺とセイとフェンリルのリルは一緒に育てられたんだ。ちい姫が毎日昏倒するまで魔力を与えてくれたお陰で、俺達は死なずに済んだようなものだな。ちい姫が猫と勘違いした傷を負った獅子族の獣人を助けてから、彼が森へ頻繁に訪ねてくるようになり俺達は兄と慕っていた。精霊王が張った結界の森で、穏やかに暮らしてたよ。まぁ、かなりの箱入り娘だけど……。子供は卵で産まれると思ってたし」
2匹の契約竜の他に、フェンリルの子供を育てていたのか。
兄と慕っていた獣人は年上だったんだろう。
獅子族なら獣人を束ねる王の一族だ。
娘の周囲は大物ばかり揃っている感じがする。
6人の精霊王の加護を受け、大切に育てられたようだ。
しかし、精霊王達は何を考え子供が卵で産まれると教えたのか分からない。
300歳になっていた筈なのに……。
誰か訂正してやれよ!
「そう、娘は1人じゃなかったのね。危険な目に遭わなかったみたいで、安心したわ」
「……」
何故、そこで黙る。
何かあったのか?
「あ~、少し森を離れたりしたかも?」
娘の好奇心旺盛な性格は昔からなんだな。
きっと、契約竜の背に乗り色々な場所へ行ったに違いない。
行き先は、フェンリルの女王が支配する森と獣人の国に竜族の棲み処か?
聞くのが恐ろしい場所だな。
おいっ! 精霊王! 娘が、勝手に抜け出してるぞ!
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