翌日、水曜日。
依頼を受けるため、樹おじさんと一緒に迷宮都市ダンジョン地下16階のテント内へ移転して、アマンダさんの下に向かう。
彼女は朝食を食べ終わり、メンバーと装備の確認をしているところだった。
「アマンダさん、おはようございます。母を連れてきました」
「おはようサラちゃん。お母さんも、態々ダンジョンに来て下さりありがとうございます。じゃあ、返事はテント内で聞かせてもらうよ」
ここじゃ拙いのかな?
テントの魔石に樹おじさんが血液を登録し中へ入る。
3人になった瞬間、アマンダさんが両膝を突き両手を組み深く頭を下げた。
私は突然変化した彼女の態度に驚き固まってしまう。
樹おじさんを、エルフの王女だと勘違いしてるのかしら?
その状態のままアマンダさんは黙っているので、おじさんが仕方なく口を開いた。
「楽にしていいわ。今日は貴女の依頼を受けにきたのよ」
「姿を偽り、王女様の前にいる事をお許し下さい。私はエンハルト王国の第二王子、ヴィクター・エンハスと申します」
うん? 第二王子って聞こえたけど、聞き間違いよね?
「……姿変えの魔道具を使用していたの?」
「はい、禁制品を使っているため身分を秘密にしておりました」
なんと!? アマンダさんは男性だったのか……。
体格の良い姉御肌の女性だと思っていたよ!
あ~、婚約者の話は本気だったらしい。
樹おじさんの方へ視線を送ると、
「また、男か……」
少し、がっかりした表情をして呟く姿があった。
いや、それより王族なのも問題だよ!
婚約者と紹介するのは王様なんじゃない?
そんな身分の高い方を騙せるのかしら……。
「ええっと、アマンダさんじゃなくてヴィクター様? 母が婚約者のフリをするのは、難しいと思いますけど……」
一度、紹介してしまったら後に引けなくなりそうだ。
「それは大変申し訳ありません。王女様へ依頼したい内容は別にございます。実は数十年前から我が国を守護する青龍の声が届かず、巫女が困っております。精霊の加護を受けた王女様に、一度来て頂きたいのです」
「依頼内容は婚約者のフリではなく、青龍の様子見という事かしら?」
「私では王女様と身分が違い過ぎますから、結婚相手にはなりません。青龍の件は秘匿事項ですから、嘘を付きました」
「何故、私が王女だと?」
「カルドサリ国王との挙式に、我が国も招待されておりました。その時の絵姿が残っております。私も何度か見た事があるので……」
それならそっくりな私を彼女は、いや彼はエルフだと思っていたのか……。
しかもヒルダさんの子供と勘違いされていそう。
親切にしてくれたのは、同じ王族だと考えていた所為?
しかし、こちらもヒルダさんの姿をしているのは樹おじさんだと言えない。
姿変えの魔道具ではなく、女性化の魔法を使用出来るのは秘密だ。
もう、このまま通しておこう。
「お母さん、どうする?」
「青龍ねぇ~。私で役に立つかしら? 水の精霊王なら……」
おじさんは、そう言って私の方を見た。
「青龍と通じるか確約は出来ないけど、やるだけの事はしてみるわ。その代わり、私達の件も秘密にしてくれるわよね?」
「勿論、口外は致しません」
樹おじさんは、依頼を受けると決めたようだ。
「ヴィクター様。兄と妹とセイさんを同行しても良いですか?」
「はい、王女様の護衛の方々もお連れ下さい」
護衛ときたか……。
「そう、じゃあ少し人数が増えても大丈夫ね。移動は移転陣を利用するのでしょう?」
「王宮にある移転陣を借りて、国へ帰る心算です」
カルドサリ王国からエンハルト王国へは、移転陣を使用するらしい。
王宮にある移転陣は王族が利用出来ると聞いた。
本人が第二王子なら、他国の移転陣を借りられるんだろう。
「じゃあ、兄達に事情を説明してきますね。出発はいつですか?」
「なるべく早い方が助かります。可能なら今週の土曜日にお願い出来ますか?」
「分かりました。では土曜日、私の家で待ち合わせましょう」
「依頼を受けて下さり、ありがとうございます」
もう一度、彼は私達に頭を下げる。
テントから出てホームに戻り、樹おじさんは表情を改め父を呼んだ。
兄と茜とセイさんも呼び、6人で依頼内容の変更を話し合う。
アマンダさんがエンハルト王国の第二王子だったと伝えると、父が顔色を変えショックを受けている。
兄と茜とセイさんは驚きに声も出ない様子。
姿変えの魔道具で性別を偽っているとは思わなかったんだろう。
実際、彼は女性のフリが上手かったし……。
本当は、どんな姿をしているのか興味がある。
「彼は、お前と沙良をエルフの王族だと勘違いしているのか……。結婚式の時の絵姿を他国も持っていたとは……。絵師達が小遣い稼ぎをしたようだな。婚約者のフリより厄介事の臭いがするが、大丈夫なのか?」
父が樹おじさんを見て眉を顰めた。
「まぁ、青龍に関しては問題ないんじゃないか? セイもいるし、護衛を連れてもいいらしいからガーグ老達にお願いしよう」
元々、土曜日はダンジョンの魔法陣で次の階層を調べる予定だった。
ガーグ老達に護衛を依頼しているから、ついて来てくれるだろう。
茜が一番強いと感じるセイさんとガーグ老達が一緒なら、危険は回避出来る筈。
「アマンダさん……いやヴィクター王子は、お前を見て何故依頼しなかったんだろうな」
兄がぽつりとそう零した。
彼と知り合ってから2年近く経つ。
私をエルフだと分かっていながら黙っていたのは、切迫した状況じゃなかったからか……。
それとも見た目年齢から疑問を感じて、憶測が外れるのを心配したのかしら?
偽装結婚式で会った、女性化した樹おじさんを見て確信し依頼に至ったとか。
「自分の身分を打ち明けるリスクを避けたのかもね。姿変えの魔道具は禁制品だし」
「はぁ~、結婚式が終ったばかりなのに面倒だな……。俺達は護衛として行くんだろう?」
「うん、そう思ってるみたい」
「きっと青竜王は、ご機嫌を損ねているだけですよ」
セイさんは軽い口調でそう言い、依頼内容を一蹴した。
聞いた父と樹おじさんは、安心したのか笑顔を見せる。
「とっとと依頼を片付け、帰ってこよう!」
宣言した樹おじさんは、これからガーグ老へ伝えに行くらしい。
私はガーグ老の工房までおじさんを送り届けてから、メンバーを連れ残り3日間の攻略を始めた。
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