沙良ちゃんの料理を食べられると知った雫が、途端に身を乗り出してリクエストする。
「沙良お姉ちゃん。私、久し振りにオムライスセットが食べたい!」
「おじさん、オムライスセットでいいですか?」
「あぁ、沙良ちゃんの料理は何でも美味しいからな。雫の食べたい物でいいぞ」
何度か妻の料理を雫だけに食べさせてしまったから、今回は彼女の希望を優先させよう。
沙良ちゃんが席を立ち料理を作り出す。
俺はその後ろ姿を見つめ、雫を可愛がってくれた娘を思い出した。
年が離れていた所為か、双子の弟達と一緒によく遊んでくれたな。
「お待たせ~。オムライスセットだよ!」
「わぁ~、美味しそう! 頂きます!」
「エビフライとハンバーグも付いてるのか。なんだか得した気分だ」
オムライスセットには、一緒の皿にメイン料理が2つも添えられていた。
お子様セットの大人バージョンみたいで、お得感がある。
雫はちゃっかり自分の分だけオレンジジュースを用意し、妻の苦いお茶を回避していた。
美味しい料理が食べられるなら、苦いお茶も少しは平気になるだろう。
「料理にアイテムBOXは便利よね~」
妻はそう言うが、大量に作るのは止めてほしい……。
オムライスはとろとろで半熟状態の卵が掛かっており、見るからに美味しそうだ。
スプーンで一口食べると幸せな気分になる。
あぁ、毎日でも食べたい。
食後、苦い麦茶を一気飲みした俺に沙良ちゃんがケーキを出してくれた。
娘の優しさが身に沁みる……。
マジックバッグ作製のお礼を言い、娘は帰っていった。
それにしても、あのポシェットは誰が使用するんだろうな?
アニメのキャラである熊の〇~さんが刺繍されていたが……。
妻と娘は、これから買い物に出掛けるらしい。
1人になったので世界樹の苗木に咲いた花を採取しよう。
精霊王の加護を受けた俺が手を触れると、抵抗なく花が枝から離れた。
白い花には沢山の花びらがあり、植物に興味のない俺でも綺麗だと感じる。
見た目から甘い香りがしそうだが全く匂わなかった。
咲いている花を全て採取し、家にあった鞄へ空間魔法を掛けマジックバッグにした中へ入れる。
魔力を帯びた花だから、1ヶ月はその状態のままだろう。
どうせなら、時間停止機能の付いたマジックバッグが作製出来たら良かったのに。
この花の効能が何か精霊王へ聞いてみようと、大きくなった苗木の幹に手を置いた。
『精霊王。世界樹の苗木を成長させたら白い花が咲きました。この花は何の効能があるんですか?』
『ヒルダかい? 世界樹の花が咲くのは珍しいね。花には癒し草の100倍の効果がある。それでポーションを作れば大抵の怪我は治療出来るだろう』
へぇ貴重な花なんだな。
明日ポーションにしてもらおう。
『教えて下さりありがとうございます』
効能を聞き出し納得した俺は響へ会いに行き、稽古後2人で抜け出し薬師ギルドへ寄りたい事を伝える。
薬師ギルドマスターは獣人らしく、響の国王時代の知り合いだと言っていた。
300年前から生きているなら、獣人の中でも長命な種族かも知れない。
翌日、日曜日。
子供達の炊き出し後、ガーグ老の工房へ移動し、現在槍術Lv7だと言う娘の稽古に付き合い楽しい時間を過ごした。
上空から笛の鳴る音が聞こえ顔を上げると、ガルムの姿が見える。
ガーグ老が申請していた騎獣が届いたようだ。
その数は10騎。
2人乗りすれば、20人は楽な移動が出来るだろう。
庭にガルム達が降り立つと、ガーグ老が声を上げる。
騎獣に乗って移動する俺達の護衛が大変だと言っていたから、これで少しは楽になると嬉しそうだ。
「おおっ、やっと騎獣が届いた!」
「翁、大変お待たせ致しました。ご依頼の騎獣を、先ずは10匹納めさせて頂きます。残りの騎獣は調教が済み次第運びますので、もう暫くお待ち下さい」
「騎獣を待っておったのだ、本当に助かるわい。無理を言ってすまんの、遠くまでご苦労だった。今夜は家に泊まるがよい。帰りは、こちらで手配する」
「はっ! ありがとうございます」
ガルムに騎乗していたのは、王宮の騎獣を担当していた者か……。
嫌な予感がするなぁ。
彼が振り返りティーナを見た瞬間、驚いた表情を見せた。
「……ヒルダ様? いやあの方は……、それに幼い姿でいらっしゃる……」
俺そっくりに育った娘を発見し動揺している。
そして近くにいた俺を見るなり大声を上げた。
「姫様!?」
あ~、ここで姫様呼びは止めてくれ!
響の背中に隠れてみたが、彼は俺を無視出来ず態々回り込んで王族に対する礼をする。
「その~何だ……、俺は姫様じゃない。魔力が似ているそうだけど、理由はガーグ老から聞いてくれ」
「何か……あるのですね。分かりました」
後はガーグ老に丸投げしよう!
「ガーグ老。この魔物は何という名前なんですか?」
娘はガルムを知らないのか質問している。
「ガルムです」
王族からの問いに彼が答えた。
「羽もないのに、どうやって空を飛んでいるんですか?」
「風魔法を使用しているのだと思います。魔物の生態は未だ謎の部分が多く、はっきりとは申し上げられませんが……」
「沙良。風魔法が使えるからといっても、お前に空は飛べない」
興味を示している妹へ賢也君が牽制している。
「わっ、分かってるよ。空を飛ぶ従魔が欲しいと思っただけだもん。え~っと、この騎獣は私でも乗れますか?」
「サラ……ちゃん。調教はされておるが、空を飛ぶ騎獣に乗るのは訓練が必要だでな。騎乗するのは、止めた方が良い」
今は記憶がなく精霊魔法も使用できないため、空から落ちたら大変だ。
ガーグ老の言葉に俺も内心で賛同した。
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