数十秒後。
固まっていたカマラさんは、客の前だという事に気が付いたのか表情を改めて頭を下げる。
「申し訳ありません。こんなに沢山のリッチのマントを見た事がなかったものですから失礼致しました。買取規則ですので、これから魔道具にて浄化済みであるか調べさせて頂きます。少々お時間が掛かりますので、今暫くお待ち下さい」
一礼してカマラさんは一度部屋を出ていく。
再び戻ってきた時には、商業ギルドの職員が5名増えている。
6人で、1枚ずつマントに魔道具を当てながら確認をしているようだ。
私達は出された紅茶に口をつけ、何枚買い取ってもらえるかワクワクして待っていた。
需要があるのなら、個人店の華蘭より資金が豊富な商業ギルドで沢山購入してくれる筈だ。
商業ギルドが持っている販売ルートも多いに違いない。
30分程して全部のマントが浄化済みであると分かると、カマラさんの表情が真剣なものに変わる。
マントの確認を手伝っていた職員5人が部屋から出ていった後で、カマラさんが漸く口を開いた。
「お客様。決して口外は致しませんので、これだけのリッチのマントをどなたが浄化したのかお教え願いませんか?」
これは浄化が出来る人間と懇意になりたいんだろうなぁ~。
ダンクさん情報だと、浄化は教会の司教が行っているらしいし。
リッチのマントを浄化する費用は金貨10枚(1千万円)だ。
それより安い金額で請け負ってもらえるなら、当然その人間を囲いたいだろう。
果たして、ここで兄の名前を言っても良いものだろうか?
秘密は、いつか必ずバレると相場が決まっている。
そして私は最近兄にお説教されてばかりいるので、これ以上怒られたくないのだ。
「すみません。浄化した人物を教える事は、本人から確認を取らないと無理です」
判断は兄に丸投げしよう!
でも私達は3人パーティーだから、少し情報を調べれば兄の存在は簡単にバレるだろうなぁ。
ダンクさんとアマンダさんのパーティーには、敢えて口止めはしていないけど同じ冒険者だから秘密は守ってくれると思う。
「そうですか……。非常に残念ですが、冒険者でいらっしゃるのなら仕方ないですね。今回、このリッチのマントは全て商業ギルドで買い取らせて頂きます。1枚金貨11枚ではいかがでしょうか?」
私は値段聞いて隣の旭と頷きあった。
華蘭と一緒の値段だ。
「はい、その値段でお売りします。お金は別々に用意して下さい」
「畏まりました。今からご用意致します」
もう一度カマラさんが部屋を出ていった。
「旭、やったね~。金貨1,100枚(11億円)だよ!」
「マントを収納しておいて良かったよ。また買い取ってくれるといいけど」
「カマラさんに後で聞いてみようか。まだまだ沢山あるからね~」
私達はマントが100枚売れたのでホクホクだった。
2つの袋を持ってカマラさんが戻ってくる。
お金を1人ずつ受け取り、直ぐにマジックバッグへ収納。
残りのマントを卸す事が出来るか質問しよう。
「あのぉ、リッチのマントがまだ沢山あるんですが、また買い取りしてもらえますか?」
「今回200枚を買い取らせて頂きましたので、売れるまで少々お時間を下さい。可能になりましたら、ご連絡させて頂きます。ご宿泊している宿は何処でしょうか?」
この世界の宿には泊まっていないとは言えないので、不審に思われないように返事をした。
「1ケ月後、商業ギルドに確認にきますので連絡は不要です」
「承知しました。本日は貴重な品を迷宮都市の商業ギルドに卸して頂き誠にありがとうございます。今後も是非、当ギルドに卸して頂けると幸いで御座います」
おや?
商業ギルドも王都でギルドマスター会議があるのかしら?
リースナーの冒険者ギルドのマスターは、王都のギルドマスター会議で良い思いをして帰ってきたそうだけど……。
やっぱり売上とか支店毎に張り合うんだろうか?
異世界も、こんな所は世知辛いわね~。
そうだ!
地下14階を攻略してマンションをホームに設定出来たら、兄から家をプレゼントしてもらう予定だった。
空き物件があるか聞いてみないと。
「カマラさん。場所はどこでもいいので家を1軒購入したいんですけど、広い庭付きの家はありますか? 条件に合う家がなければ新築で建てる事も考えています。金額に上限はありませんので良い物件をお願いします」
シルバーとフォレストが一緒に遊べるように、庭は出来るだけ広い方が良い。
予算を聞いてカマラさんの表情が変わった。
金に糸目を付けないと言っているのだから、商業ギルド管理の物件を脳内でチェックしているんだろう。
「庭の広さはどのくらい必要ですか?」
う~ん、どれくらいあればいいかな?
25mプール?
「出来るだけ広い庭を希望します。子供が160人くらい入っても余裕なくらいがいいですね」
いつも教会の庭を借りて申し訳ないと思っていたので丁度いい。
自分の家の敷地内であれば、もっと色々な事が出来るだろうし。
「子供が160人収容可能な庭となりますと、申し訳ありませんが現在商業ギルドで扱っている物件はありません。新築もお考えとの事ですが、建てられますか?」
だよね~。
普通はそんなに広い庭は不要だから、空き物件には無いらしい。
「はい、お願いします。打ち合わせは、また次回くる時で良いですか? 今日は、これから教会の炊き出しに行くので……」
「ええ、問題ありません。一応希望通りの設計図と建築出来る土地を調べておきます」
「ありがとうございます。近い内にまたきますね」
「お待ち致しております」
応接室から出た後、カマラさんが商業ギルドの外まで見送ってくれた。
余程、リッチのマントは入手しにくいんだろう。
これでVIP待遇の場所がまた増えてしまった……。
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