最後にもう一度お風呂に入り、サヨさんと母を実家へ送り届けた。
サヨさんは実家に泊まるらしい。
父は遠慮して私の家に泊まると言ったそうだけど、実際はセイさんと同じホテルに宿泊するようだ。
兄達が帰ってくる前に、『製麺店』のバスクさんへセイさんに手紙を書いてくれるようお願いする必要がある。
マッピングで父の姿を探すのは時間が掛かりそうだったから、シルバーを連れ1人でいく事にした。
異世界の家の庭に移転後、『製麺店』付近の人がいない場所を探し移動。
そのままシルバーと数分歩き店の中へ入る。
「こんにちは~。バスクさんはいますか?」
夕食の準備をしている従業員に声を掛け、リーダーを呼び出してもらった。
「オーナー。今日は1人ですか?」
バスクさんに、兄達の姿がないため心配そうな目で見られる。
最近、他国の諜報員が何人も亡くなっているから、見た目が若い女性である私を気遣ってくれているのだろう。
「シルバーと一緒ですよ。店の外に待機させてますが……」
従魔ときたのを伝えると、ほっとした表情に変わった。
「なら大丈夫ですね。今日は、こんな時間にどうされました?」
「バスクさんに、お願いしたい件がありまして……」
私はダンクさんの父親のジョンさんが石化状態から回復し生きている事を、摩天楼のダンジョンにいるセイさんへ手紙を書いてほしいとお願いする。
増えたパーティーメンバーの知り合いだと言うと、バスクさんは二つ返事で請け負ってくれた。
「いやオーナーに言われるまで、セイのやつに連絡するのを失念しておりました。あいつはクランリーダーが帰還しなかったのにショックを受けて、迷宮都市を去ったんです。早く伝えるべきだった。直ぐにでも冒険者ギルドの早馬で依頼しますよ。あぁ、お金は以前頂いた分で足りますから大丈夫です」
これで、セイさんが迷宮都市にくる算段が付いた。
私は手間を掛けるお礼に、地下16階で採取したバナナを10本渡し店を出る。
店の外で待機していたシルバーと家の庭へ移動し、ホーム内へ戻った。
異世界での滞在時間は30分程だったろう。
なるべく1人で行動しないようする心算だけど、兄達に内緒の内容だとそれも難しい。
父と別行動している場合は、居場所が分からないと一緒にいけないし……。
夕食の準備を始める頃、兄達がジムから戻ってきた。
2人の帰宅時間に間に合い、ほっとする。
メニューは、ダンジョン産の帆立を使用した帆立フライ。
千切りキャベツと少量のナポリタンに、たっぷりのタルタルソースを添える。
それと作り置きしたおかずを何品か出し、玉ねぎとじゃが芋の味噌汁&緑茶で頂きます。
「今日の帆立は大きいね~」
なるべく円柱の状態で大きな帆立の貝柱を切ったから、普段より少しサイズが大きい。
旭がそれに気付き感想を言う。
兄は何も言わないので、今回のサイズなら外食する時に食べていたんだろう。
「サヨさんは、もう帰ったのか?」
サヨさんと母と一緒に、スーパー銭湯へいったのを知っている兄が聞いてきた。
「今日は実家に泊まるらしいよ。お父さんは、私の家に泊まるみたい」
「? 父さんの夕食は、どうするんだ?」
「お父さんは、ラーメンを食べにいくって!」
という事にしておこう。
多分、セイさんと一緒に夕食をとっているだろう。
「あぁ、偶には1人で好きな物を食べたいのか……」
納得したのか、それ以上の追及はなかった。
食後、兄の好きなマンゴーを出し話を切り出す。
「お兄ちゃん。実は、もう一店舗店を考えてるんだけど聞いてくれる?」
「また飲食店か?」
「ショートブレッドを売る、テイクアウト専門の店にしようと思って。それでね、従業員には子供達を考えているの」
私は冒険者しかなれない子供達が、安全な仕事に就けない事をずっと憂いていた。
ショートブレッドの材料は、小麦粉・バター・砂糖だけど砂糖をハニービーの蜂蜜にすればいい。
バターは魔物のミルクから作られるため、1ヶ月以上は日持ちがする。
この世界には、お菓子がないからダンジョンを攻略する冒険者達が購入してくれるだろう。
「子供達に冒険者以外の仕事を与えたいんだな。お前のやりたいようにしたらいい、俺は賛成する」
「ありがとう。じゃあ明日、稽古が終わったら商業ギルドへ一緒にいってね」
考えていたお店の許可をもらったので、私はオーブンをどうするか考えよう。
この世界に温度を調整出来るパン釜はない。
薪を使用しての料理は子供達の方が慣れているけど、最初は失敗するだろうな。
希望者はどれくらい集まるかしら?
人数が多ければ、ショートブレッド作りは私の家ですればいいか。
店には商品を並べるスペースだけあればいい。
価格は……と考えながら眠ってしまった。
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