「この剣は知り合いから譲り受けた物だ」
俺は彼の質問を躱すために、無難な回答をする。
実際、ガーグ老から渡された剣だしな。
「その剣の鞘には古いドワーフ語で【可愛いヒルダちゃんへ 親友への剣は『飛翔』と命名した またいつでも注文を待っておる シュウゲンより】と書いてある。親父が、注文した本人以外に剣を鍛える事は滅多にないんだが……。それがどうしてお主の手に渡ったか謎だな。親父の鍛えた剣だ、大切に使ってくれ」
俺は鞘に描かれているのは文様だと思っていた。
これはドワーフの古語であったのか……。
国王をしていた俺でも、流石に他種族の言語は覚えていない。
しかし、書いてある内容が軽いな!
「それは知らなかった。大切に扱うと約束しよう」
「そうしてくれ。ここ数百年、親父は剣を打ってない。そこに書かれたヒルダちゃんとやらを、待っているのかもな……」
鍛冶職人が剣を打たないのは問題じゃないか?
バール氏は、父親を心配しているんだろう。
店を出ると、男の子が沙良に声を掛けてきた。
王都では、冒険者登録が出来ない9歳以下の子供が観光案内をする事が多い。
予算に合わせた宿や飲食店を紹介し、手数料を受け取る仕組みだ。
俺は王都に入ってから、路上生活者の姿を見かけずほっとしていた。
少なくとも王領である王都は、現国王が充分な支援をしているらしい。
この男の子は、紹介手数料を貰うため声を掛けてきたようだ。
残念だが既に用件を済ませた後なので、俺達に案内は必要ない。
そろそろ帰ろうと沙良へ伝えようとした所、隣にいた娘の姿が忽然と消えていた……。
目を離したのは僅か数秒。
その間に娘は何処へいった?
沙良はホームやマッピングの能力を使用し一瞬で別の場所へ移動出来るが、親の俺に内緒で行動する子ではない。
やられた!
娘を誘拐出来る者などいないと思っていた俺のミスだ。
俺は直ぐに通信の魔道具を握り締め、ガーグ老へと連絡を取った。
『緊急事態発生だ! 娘の姿が王都で消えた。時間が惜しい、ポチとタマを一番早い魔物に変態させ至急王都へきてほしい。場所は王都にある俺の隠れ家で1時間後に集合。王都にいるエルフの諜報員達を総動員してくれ!』
『なんと、御子が連れ去られたのか!? 待っていなされ、直ぐに王都へ向かいましょうぞ』
これでガーグ老達は、1時間後に王都へくるだろう。
樹が2匹を譲渡してくれたお陰だ。
ポチとタマは20種類の鳥系魔物に変態出来る。
確か樹が風太を登録していたから、風竜に変態すればその背に10人以上は乗れるだろう。
ドラゴンが鳥系魔物かどうかはさておき、登録出来たと言っていたから問題ない筈。
俺はガーグ老へ伝えた集合場所へ足早に向かった。
樹と結婚後、第二王妃の予算で王都に家を購入してある。
あいつは衣装にも宝飾品にも興味がなかったから、計上した予算がそのまま残っていたのだ。
王城からお忍びで外出するのが好きだった樹のために、家を購入して正解だった。
賑わう表通りから少し外れた場所にある隠れ家は、高級なトレント資材をふんだんに使用し建ててある。
魔物素材だから150年経っていても、経年劣化は極小で済むだろう。
10分後、隠れ家に到着。
門の扉には使用者登録が付いている。
これは多分、個人の魔力を識別しているんじゃないか?
2匹の白梟が俺の魔力に気付いたのなら、人に依って違いがあるんだろう。
扉に手を掛けると、すんなり外側へ開いた。
どうやら予想が当たったらしい。
4mの塀に囲まれた隠れ家は、中に入ると外からは見えない作りになっている。
こんな事態でもなければ、くるのをすっかり忘れていた。
家の扉にも同じ使用者登録が付けられているため、例え塀を乗り越え中に入った所で家の中には入れない。
150年振りに家の中へ入ると、真新しい木材の香りがする。
ここには冒険者時代に換金したお金や、お忍び用の衣装等が保管してあった。
ガーグ老達が到着するまで、出来るだけの準備をしておこう。
沙良が消えたのは、本人の意志ではないと仮定して動いた方がいいな。
怪しいのは、あの子供か……。
沙良の調査をすれば、子供へ甘い情報は簡単に入手可能だ。
そこを突かれたのかも知れん。
もし誘拐されたとしても自力で逃げる能力はあるが、本人の意識がない状態ではそれも難しい。
沙良、どうか無事でいてくれ……。
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