【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第337話 迷宮都市 『浦島太郎』の演劇 2

公開日時: 2023年4月10日(月) 12:05
更新日時: 2023年8月20日(日) 00:33
文字数:2,111

 私も人前で踊るのは数十年振りとあって、少し緊張している。

 今回は練習に充分な時間も取れなかったしね。

 

 ペアを組むのは、扇舞を踊った事のない素人さんだから私がカバーする場面が幾つかある。

 この扇舞を成功させるためには、私の失敗は許されないのでかなりのプレッシャーだ。


 2人一緒に舞台に登場すると、観客席がき大きな拍手が起こる。

 子供達から、「お姉ちゃん綺麗~!」「お姉ちゃん、頑張って~」と声援を受けてしまった。

 

 音楽は無いので、2人で呼吸を合わせて扇舞の開始。

 

 まずは私1人で先行。

 今回の振り付けは、2匹の蝶がヒラヒラと飛ぶ姿をイメージしてある。


 ゆっくりと大きな舞扇まいおうぎを広げ、蝶の羽ばたきを表現するためにヒラヒラと揺らしながら舞台を移動。

 後行のリリーさんが、私の後を同じ動きで追従する。


 徐々に扇舞の動きは大きくなっていき、観客の目をきつけた。

 私は舞台を大きく使い、リリーさんと2人で蝶がたわむれる姿を存分に見てもらった。


 目に鮮やかな舞扇まいおうぎは、皆が見た事もない物だ。

 それを閉じたり開いたりする場面は見ていて楽しいだろう。


 サヨさんのお仲間である老婦人達から、「綺麗ね~」という言葉が聞こえてくる。


 音楽が無い分、2人の呼吸を合わせるのが一番難しかった。

 リリーさんが本当に熱心に練習してくれたお陰だ。

 ここまで短時間に出来たのは奇跡に近い。


 ダンクさんが、リーダーとして見ている視線を感じる。

 剣舞ではないけれど、やはり動きが気になるんだろうな……。


 時に離れ、交差し、段々と交わりが深くなってきた所で唐突に1匹が力を失う。

 その後、もう1匹も徐々に力を失くして折り重なった。


 この、もののあわれ・・・・・・を表現した扇舞は異世界の人に通じただろうか?

 

 舞が終わり、リリーさんと立ち上がった瞬間に大きな歓声に飲み込まれる。

 惜しみない拍手の音を聞いて、リリーさんと顔を見合わせ嬉しくて笑った。


 彼女も慣れない舞の練習をした甲斐かいがあっただろう。

 鳴りやまない拍手に2人で1礼してから、舞台袖に戻った。


 これで私の出番は終了だ。


 後は物語の後半をゆっくり見ていよう。


 その後、乙姫様から竜宮城にいる時間と現実の世界では流れる時間が違うと説明を受けていたが、浦島太郎は帰らなかった。


 大量のフライドポテトを食べ、エールを飲んでご機嫌だ。

 それにしてもダンクさん、上演中に食べ過ぎ飲み過ぎです!


 食べる真似・・でいいんですよ~。

 子供達が、お腹空かせちゃうでしょ!

 

 あぁ、こりゃ玉手箱の出番は無さそうだ……。


「あの、お母さん1人で心配ではないですか? そろそろ家に戻られてはどうでしょう?」


 本来なら時間を忘れて楽しんでいた浦島太郎が、母親の事を思い出しそろそろ家に帰るという場面だった。


 ダンクさん演じる浦島太郎が一向に帰る素振りを見せないので、リリーさんから帰りをうながしている。


 浦島太郎が帰らないと物語が終わらないからだけど……。

 

「うちの母親なら大丈夫だ、息子が居なくなってせいせいしているだろうよ。そんな事より、あんた俺と結婚してくれないか?」


「えっ、突然結婚ですかっ!?」


 乙姫役のリリーさんが、台本に無い台詞に狼狽ろうばいしている。


 なんとか竜宮城から帰ってもらい、玉手箱を開ける流れに持っていこうと苦心していたのにプロポーズされたものだから咄嗟とっさに対応出来なかったんだろう。


「ここはいい所だし、あんたは美人で料理も旨い。一目惚れした! お願いだから、俺と一生を共にしてくれ! 子供の面倒はちゃんと俺が見るから、安心して何人産んでもいい!」


 ほぉ~、まさかこれ公開プロポーズですか?

 迷宮ウナギ、追加して渡さないといけないかしら……。


 乙姫様は浦島太郎の情熱的なプロポーズに押されて、最後には結婚する事を承諾しょうだくしてしまった。


 いや物語的にそれじゃ駄目じゃん。

 一番有名な玉手箱を開けて、お爺さんになるシーンが丸々カットされちゃったよ!

 

 そして2人は、何時何時いついつまでも竜宮城で幸せに暮らしました。


 おしまい。


 結局、浦島太郎は玉手箱を開ける事もなくお爺さんにはならなかった。

 そんなにお爺さんになるのは嫌だったのだろうか……。


 原作と違い過ぎる結末は、果たして子供達の教訓になったのかな?

 亀を助けたら竜宮城で持て成され、そこで会った乙姫様と結婚して幸せになる話で終了だ。


 良い事をすると、後で幸せになれるという意味では教訓になったと言えるか……。

 もうひとひねり欲しい所だけどね。


 最後に夫婦になった浦島太郎と乙姫様が、仲良く手をつないで子供達の前に現れる。

 

 子供達は大興奮で喜んでいた。

 この落ちで良かったらしい。


 私はタートルを回収し、扇舞の衣装から普段着に着替えテントを出て兄達の下に向かった。

 

 兄と旭が、リリーさんとの扇舞を綺麗だったとめてくれたので少しくすぐったい。


 私としては、今回の舞を採点すると70点と言う所。

 本当はもっと完成度の高い、現代舞踊を見てほしかった。


 冒険者の片手間にやれる事じゃないから、仕方無いんだけどさ。

 子供達の冬支度で土日は忙しくしていたし、練習する時間が足りなかった。


 旭の剣舞の方が、完成度としては高かったんじゃないかな?

 うぅ……なんか悔しい。

 

 イベントが全て終了したので、これから皆でバーベキューだ。

 子供達に、お腹一杯食べてもらおう!

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