それにしても兄は一体いつカーバンクルの宝石を加工した物を、ペンダントとイヤリングに仕立てたんだろう?
異世界では、ダンジョン以外で別行動を取る事はなかった筈なのに……?
不思議に思い尋ねてみると、兄は頬を掻きながら「あ~それは……」と少し言い辛そうに教えてくれた。
冒険者ギルドで換金する際、トイレに行くと言い解体場に行き宝石店の店主と遣り取りをしていたんだとか……。
ミリオネの町で金曜日になると、やたらお腹を壊す回数が多いと思っていたらそんな理由だったとは!
道理でお腹に優しい夕食のメニューを見て、悲しそうにしてた訳だ。
実際は何の問題もなかったんだからね。
あの、これじゃない感一杯の表情を思い出し、悪い事をしてしまったなぁと反省する。
知らなかったとはいえ、食べ盛りの少年には物足りなかっただろう。
よし、今日はお肉マシマシのメニューにしよう!
残りの4セットも兄から受け取り食事の準備を始めようとした所、今度は旭から呼び止められた。
「沙良ちゃん。俺も成人祝いのプレゼントがあるんだよ。ちょっと後ろを向いてみて?」
うん?
どうやら旭も兄と同じ宝飾品を用意してくれているみたいだ。
後ろを向くと首に何かを掛けられたので胸元を確認してみる。
そこには、ハート型になっているピンク色の宝石が付いたペンダントがあった。
「俺の方は時間が足りず、1個しか作れなくてごめんね~」
「そんな事ないよ。ハート型の可愛いペンダントありがとね!」
旭が手を差し出してきたので、私は両手を握って上下に動かし感謝を伝える。
2人から成人祝いを受け取ったので、私もクリスマスプレゼントのセーターをこの機会に渡しておこう。
「お兄ちゃん、旭。私からもプレゼントがあるの! 何か知っていると思うし、初めて編んだから下手で申し訳ないけど……」
そう言ってアイテムBOXから、セーターを取り出し2人に手渡した。
「あぁ、ありがとう。じゃあ着てみるか」
「沙良ちゃん、ありがとう! 手編みのセーターなんて嬉しいよ」
兄と旭がお礼を言って、渡したセーターを服の上に着てみせてくれた。
うん、サイズは大丈夫。
「沙良……。このセーターは……御揃いなのか?」
「そうだよ~。カップル用に模様も考えてみたの。旭が左側に並ぶと、ハートの形になるでしょ?」
「「何故、ハート型……」」
あれ?
男性には恥ずかしい模様だったのかな?
2人には少し不評のようだ。
「部屋の中で着れば大丈夫だよ!」
その後の夕食では、兄の右側に旭が座っていた。
どうやらハート型を完成させたくないらしい。
でもきっと、2人きりになればハート型になっているわよね。
食後にデザートのマンゴーを食べながら、Lv上げの感想を兄達と話し合う。
「お兄ちゃん。お父さんって、実はスパイだったりしない?」
「スパイ? ……何でそんな事を思うんだ?」
「だって、明らかに剣術Lvがおかしいでしょ! 今日初めて魔物を見たとは思えない動きだったよ?」
「おじさん、素人の動きじゃなかったよね~。俺、びっくりしちゃったもん」
「でしょ? 銀行マンは仮の姿で、本当は凄腕の諜報員だった可能性があるかも?」
「それはない。お前は見た事がないかも知れないが、ピアノの稽古中によく茜の相手をしていたぞ? 武術を習っていたのは本当だろう。剣術も……とは思わなかったがな」
「お兄ちゃん、知っていたの?」
「いや、見たら分るだろう。父の体は、かなり鍛えてあるじゃないか」
当然のように言われたけど、私は体格が良いとしか思わなかった。
な~んだ、スパイ説は消えたか。
「でも、おじさんの剣術Lvが上がれば、ダンジョン攻略も楽になるから良かったね~」
そう言って旭がニコニコと笑顔になった。
まぁ素人ばかりでダンジョン攻略をするのは大変だから、そうならなかったのは嬉しい誤算だと言える。
ただ疑問に感じるのは、剣術だけじゃないんだよね。
父は、本当に銀行マンだったのだろうか?
「あと、雫ちゃんの魔法なんだけど……。何も使用出来ないみたいで可哀想。この世界の人達は、王都の魔法学校で魔法を習得するみたいなの。旭のお母さんから魔術書を借りてきたから2人で読んでみて」
兄達に魔術書を渡すと、早速羊皮紙を開いて見ている。
魔法陣と呪文がセットになっている物だ。
魔法名を言う前に、呪文を唱える必要があるらしい。
そんなに長い呪文じゃないけど、とっさに使用する時はこの呪文が明暗を分ける事になりそう。
定番の無詠唱とかあるのかな?
兄も旭も既に魔法を覚えているので、この魔術書は役に立たない。
「雫ちゃんが魔法を覚えられる、何か良い方法はないかな?」
「魔術書に書かれている呪文を唱えても発動しなかったんだろう? 理由が分からないんじゃ、対処のしようがない。旭のお母さんは、転移組だから魔物から受ければいいと思うがな」
「雫だけ魔法が使えないのか……」
旭が落ち込んでしまった。
妹の事が心配なんだろう。
ダンジョン攻略をする上で、魔法が使用出来るのは大きなアドバンテージになる。
遠距離からの攻撃が可能になれば、安全性が増すからだ。
この件に関しては、本当に何とかする必要があった。
やっぱりアマンダさんに聞いてみようかな……。
翌日土曜日。
兄と旭を連れ実家で朝食を取った後、全員冒険者の姿に着替える。
今日は、これから両親のスキップ制度を受けるので少し緊張していた。
父がまだ属性魔法を覚えていない事を思い出し、なんとなく口に出した言葉に思わぬ返事がきた。
「お父さんは属性スライムから魔法を受けて覚える事が出来るけど、転生者の雫ちゃんは魔法が使えないんだよね……」
「魔法が使えない? おかしいな……それは教会の儀式を受けてないんじゃないか?」
「教会の儀式って何!?」
「いや……ほらよく小説なんかであるだろう? 自分の適性検査を受けるみたいな……」
う~ん。
教会での儀式かぁ。
それはちょっと思い付かなかった。
異世界だし、もしかしたら魔法学校へ行く前に受ける必要があるのかも?
乙女ゲームの内容に、そんな儀式があったかどうか後で雫ちゃんに確認してみよう。
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