翌週、土曜日の午後。
沙良は自宅で大量の野菜を切った物をアイテムBOXに入れ、先週パンが食べられなかった子供達の為に充分な数のパンを露店で購入した後、俺と一緒に教会に炊き出しに行った。
今回、教会の炊き出しとは別に沙良が用意するスープは子供達専用の物だ。
冒険者ギルドから引き取ってきたファングボアの肉も使用して、沙良は具沢山のスープを作るようだ。
きっと、シスターが作る物より食べ応えのある物になるだろう。
作り方も少し違っているみたいだが、食べるのは子供達だけなので問題にはならない。
塩と胡椒のみの味付けになる事を非常に残念がっていた。
確かに、素材の味を生かしたスープにはなるだろうけど……。
日本にある調味料を使用して、もっと美味しい物を食べさせてあげたかったらしい。
余りに違う味だと流石に子供達の口から情報が洩れるかも知れないと、コンソメは封印する事になった。
臭み取りにローリエを入れたので多少はましになるかも? と納得していた。
俺は料理に関してはさっぱりだが、沙良が納得して作った物ならこの世界のスープよりは美味しいんじゃないかと思う。
沙良から手渡されたスープを持った子供達を、大人が並んでいる場所から離れた所に誘導しパンを2つずつ手渡していく。
今回は全員分配る事が出来た。
食べ終わった器を返却する際、子供達が笑顔で「美味しかったよ」と言ってくれているのを沙良は嬉しそうに聞いていた。
現状、出来る事が週1回の炊き出ししか無い事がもどかしい。
昼夜逆転の生活をしていては、これ以上の支援は難しいだろう。
シスターに来週また来る事を伝え、沙良は次回用の野菜やパンを露店で購入してアイテムBOXに収納していた。
ダンジョン内で女性冒険者が食べていたドライフルーツと、スープを作る時に入れていたローリエに似た葉が気になる様で沙良が乾物屋に行きたいと言うので付いていく。
この世界じゃ甘味は中々口に入らないだろうなぁ。
精製された砂糖なんか無いだろうし、日本ではコンビニにもスイーツが売ってるくらい手軽な物だったが……。
沙良が子供達に、ドライフルーツを食べさせてあげたいと言うので了解した。
乾物屋でアプリコットを6kg、道具屋で巾着を100個購入してホームの自宅に戻る。
2人で、巾着の中にアプリコットを詰める作業だ。
お腹が空いている時に少しでも口にしてほしい。
翌日の日曜。
沙良の注文していたリサードマンの革鎧を受け取ると、ミリオネの森にローリエの葉を採取に行きたいと言う。
なんでも乾物屋で見たら高かったらしい。
いくら高いと言っても、年収が億を超える俺達に買えない値段じゃないだろうに……。
まぁ森に行けば無料で採取出来るなら、マッピングを使用して移転すれば余り時間はかからないだろう。
なるべく節約したいと考えている沙良の気持ちを汲んで、俺もローリエ採取に励むことにする。
沢山手に入れられる事が出来て沙良は非常に満足そうだ。
ついでに魔法Lvを上げるため、角ウサギを狩りまくっていた。
今回はミリオネの町には入らず直接森に移転して来たので、狩った魔物は換金する事が出来ない。
沙良は次回ミリオネの町に来る時に換金すると言って、アイテムBOXに全ての魔物を収納していた。
マジックバッグ内じゃ腐るからな。
本当にアイテムBOXの能力が羨ましい。
何故、俺には無いんだ……。
非常に残念でならない。
再びリースナーの町へ移転し、ホームの自宅に戻ってきた。
ローリエ採取を手伝ってくれたお礼にと、沙良が夕食に好物の豚カツを大量に揚げてくれた。
この日もご飯を3杯お替りし、幸せな気分で自分の部屋に戻る。
あの日、路地裏で倒れた冒険者達のその後だが、予想通り身ぐるみ剥がされた状態で発見されたらしい。
全員が身動き出来ない状態なので治療院へと運ばれたが、怪我をした形跡が無いために治療はされなかったようだ。
見た目は何処にも怪我をしていないから、治療出来なかったんだろう。
現代医療の知識がなければ発見するのは難しい。
今は定宿で寝たきりの状態でいるみたいだ。
早晩金が尽き、宿を追い出される事になるだろう。
今まで散々悪事を働いてきた報いを受ける事になって、反省しているだろうか?
話す事も体を動かす事も出来ない状態になって、因果応報を実感してほしい。
以前女性冒険者が幼く見える沙良には言えない話を、兄の俺に話してくれた事があった。
例の奴隷商は13歳以上の路上生活している少女を言葉巧みに誘導して、娼館に売り飛ばしているらしい。
娼館の経営者も身元確認を行わずに、奴隷として購入し客の相手をさせているみたいだ。
しかも奴隷として売られた少女に、お金は一切支払われていない。
また奴隷商と懇意にしている冒険者達は、ダンジョン内で女性冒険者を誘拐して奴隷商に売り渡していると噂があるのだとか。
奴隷商は違法な事に手を染めているが、確かな証拠は無く未だ捕まっていない状態だ。
もし妹が誘拐されたら、その場で覚えたての魔法を人に向けて使用する事が出来るだろうか?
無理だろうな……。
人を傷つける事は日本で育った俺達には相当な覚悟がいる。
いくら正当防衛だとしても、その行為には忌避感があるからだ。
まぁ知られても良いので移転して逃げてくれさえすれば、後の処理は俺の方で何とかするがな。
今回は目を付けたのが冒険者なのか奴隷商のどちらか不明だ。
今後、再び同じ事がありそうで嫌な予感がする。
先手を打って奴隷商を潰しておくべきか?
俺は少しばかり物騒な事を考えながら眠りについた。
翌日月曜日から、また5日間のダンジョン攻略開始。
怪我をしている女性冒険者を見かけると、医者として放っておく事は出来ず治療していく。
お金を払おうとする怪我人に、沙良はダンジョン価格の3倍の値段ではなく通常使用分の値段分を子供達の支援へと充ててほしいとお願いして回っている。
俺も、その方が気が楽だ。
C級冒険者になるまでの3年間で全ての魔法Lvを自在に使用出来るように練習したので、ちょっとした怪我ならヒールLv1で治療出来る。
ヒールLv1なら、消費MPは10で済む。
現在Lv5まで上げているが、Lv5のヒールは消費MPが50必要となる。
治療出来る範囲を指定するのは、医者としての経験から可能だと思ったんだ。
無駄にMPを消費する必要が無くなって便利になった。
同様にライトボールも全Lvが使えるようになったし、なんならボール状じゃなくても使いたいようにイメージすれば針のようにもなる。
魔法は奥が深くて検証するのは楽しい。
これからも沙良のために出来る事を増やして、敵を無力化出来るようにしておかなければ……。
その後、特に問題も無く5日後に換金してホームの自宅に帰る。
沙良から今後のパーティメンバーについて相談があった。
確かに、2人組は目立つだろう。
だが今誰かを召喚しても、B級冒険者になって一緒にダンジョン攻略をするまで時間がかかりすぎる。
俺は攻略するのに2人で問題なければ、このまま先に進んで沙良に早くLvを上げてもらいたい。
「いや当分無理だと思う。沙良がLv20になって、2人同時に呼べるようになるまで保留だな。1人ずつ呼んで、B級冒険者になるまでの時間が無駄だ。この世界の人間と組むのも問題ありそうだし、分け前が減るだろう」
そう言って、メンバーの追加については却下した。
俺には、早く自分のマンションに帰りたい切実な問題があるんだよ!
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